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そういうわけで吉野川真澄は独身である。  作者: 河里静那
とある時間移動者と、その犠牲者の日常
4/7

かくして望まぬ答えは導き出される。

──第一回、吉野川真澄が独身で世界がヤバイ対策会議ぃー


「……何事?」


──どんどんどん、ぱふぱふぱふぅー


「だから、何事?」


 お見舞いに来てくれた友人二人が帰宅して間もなく。

 キョウカが壊れた。






 いや、二人が来た直後から様子がおかしいとは思っていたのだ。

 思ったよりも元気そうだな、安心したぞ。そう言って微笑む吉野川真澄の姿を見るなり、マスミっ!

 大丈夫? 無理はしないでね? しょげた子犬のように眉をたれる久保田亮の顔を見れば、リョウっ!


 どうして二人の名前を知っているのかしら。そう疑問に思えども、声に出して尋ねるわけにもいかない。二人と会話しながら更に独り言を装ってキョウカを問い詰めるとか、流石に難易度エクストリームに過ぎる。

 出してもいない個人名を知っているあたり、ひょっとして心を読まれていたりするのだろうか。まさかとは思うが、脳内ネットワークに居候というからには否定し切れないのが怖い。


 困る。それは、色々と困る。自分の赤裸々な気持ちを知られてしまうとか、ほんとに困る。

 知られて何か実害があるのかと問われれば。まあ、ないのだけれど。キョウカが誰か他の人に秘密を漏らすなんて、少なくとも現状では不可能なのだし。けれど、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。乙女の機微の問題なのだ。


 そういったことが、とにかく気になりすぎてしまって。せっかく見舞いに来てくれた二人にも、随分と気もそぞろな対応をしてしまった。

 挙動不審な鏡花の様子を見た二人からも、さらに心配されてしまう始末。やはり調子が悪そうだな、今日はもう休めとか。ごめんね、押しかけちゃったりしてとか。仮病だとは言い切れないにせよ、その愛情が心に痛い。


 そしてその裏では居候がずっとブツブツと、何やら呟き続けていたりするのだ。この二人がここにいるということは、やはり因果が結ばれているとか。私がここにいるのは必然だったとか。

 その意味を問いただしたいところだけど、だから難易度ナイトメアなのだってば。いい加減にキャパシティの限界に達してしまいそう。ついうっかりと、端からは独り言にしか見えない叫び声を上げてしまったりしたなら、二人から変人認定などされてしまったのなら。一体、どう責任を取ってくれるというのだ。

 なお、その認定はとうの昔に、既に下されていたりする。というか三人とも、端から見たなら同類だ。


 結局。

 大切な友人、もしくは恋人候補に対して心苦しい事この上なかったのだが。今日のところはもう休みたいからと、追い返すように帰ってもらうことに。

 おのれキョウカ、許すまじ。


「……それで、本当に一体どうしたの、いきなりそのテンションは」


──いえね、貴方は私の顔を見ることは出来ないじゃない。だから、今の私の気持ちの昂り具合を言葉で表現してみたのだけれど。


「……やめなさい。貴方の様子が変だったせいで、私まで恥ずかしいこと考えてしまっていたじゃない」


──そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに。女を長くやってるとね、それくらいでは動じなくなるものよ。まだまだ青いわね、鏡花。


「……貴方、そんな歳だったの?」


──建造年数百年の、十七歳よ。精神生命体に加齢の概念はないわ。


「…………」


──十七歳よ。


 なんだか、これ以上突っ込んだら負けのような気がする。

 これからの共同生活を円滑にすすめる為にも、この件には触れないでおくことにしよう。


「それよりまず、何故貴方は吉野川先生と亮の名前を知っていたのかしら? もしかして、心を読めたりするの?」


──テレパシー的な?


「そう、それ。私の心の中を覗けるのかしら? 不用意にプライバシーを侵害しないで欲しいのだけれど。あ、でも、だったら会話するときに私が声を出す必要はなくなるのかしら。独り言をつぶやかなくても良いのは有難いわね」


 便利だけれど、読まれるのは困る。考えていることがまるわかりとか、正直に言って共存を考えなおすレベル。ああでも、読まれる範囲を制限できるのなら逆にメリットになるわね。

 そんな内容のことを、癖になってしまったのか声に出して考えている鏡花に、優しく声がかけられた。


──ねえ、鏡花。超能力なんて非科学的なものを信じていて良いのは、中学二年生までよ?


 自称、1000年先からやってきたプログラム生命体などというトンデモな存在に、中二病を諭される自分の図。

 ああ、猫動画が恋しい。どこか遠い目をし、現実から逃避したくなる鏡花であった。




 とはいえ、本当に目を背けるという訳にはいかない。

 自分が澤乃井鏡花であるべく。まずは理性的に、論理的に、現実的に、これからの事を考えなくてはいけない。動画サイトを巡回するのは、その後。

 にゃあにゃあ言ってるブラウザを閉じ、すっかりと冷めてしまった甘いコーヒーを口に含んで気持ちを落ち着かせる。

 さて。それで、だ。


「それで、どうして彼等の名前を知っていたのか。超能力ではないなら、理由を聞かせてもらえるかしら?」


──あの二人の名前を知っていたわけではないわ。ただ、よく似た人を知っているだけ。顔も、名前も、ね。


「どういうこと?」


──私と乗組員達を率いていた艦長の名前が、リョウ。そして幕僚の一人、強くて優しいのだけれど、たまに見せる隙が可愛い女性が、マスミ。二人とも、私の大切な人よ。


「……偶然?」


──では、ないわね。あなた達三人の関係は、千年先でも続いているってこと。因果が、それもとても深いものが、結ばれているのでしょう。つまりは、ね。


 ここで少し言葉を区切って溜めを作り、もったいつけるように。


──私は貴方の、私の恋人と友人はさっきの二人の、生まれ変わり。そういうことなんでしょうね。生まれた時期に少しずれがあって、こことは年の関係が違ったけれど。私がこちらに来た時で、リョウが四十歳、マスミが二十七歳、私が十七歳だったわ。


 三人の縁がそこまで深いと言われれば正直、心に温かいものが湧き上がる。この学校に入る前の自分からは考えられないが、あの二人はもう自分の人生になくてはならない存在となってしまった。

 初めての友人と、初めて愛した異性。二人の為に必要とあらば、自分は法に触れることだって躊躇わないだろう。やるならば完全犯罪だけれども。捕まって二人といられなくなるなんて、嫌だし。


 それと、年齢に関しては突っ込まない。突っ込まないったら突っ込まない。

 それはさておき、これだけは問いただしておかなければ。


「ねえ、超能力は中二病の産物なのに、輪廻転生は違うのかしら?」


 単語の示す内容が全く違うとはいえ、その二つはどちらも似たようなものだろう。妄想の産物という意味において。特定の宗教に傾倒でもしていない限りにおいては、それが一般的な認識だと思う。

 だがある意味において予想通り、未来人はそうは言わない。


──あら、因果律はれっきとした学問よ?


 ……ふう。

 心構えをして置かなければ、猫に逃避するところだった。なんかもう、自分の中のいろいろなものを守るためにも、未来知識に関して深く考察するのはよしておいたほうが良いかもしれない。


──もっとも、因果律の研究は統合政府によって禁止されているから、転生に関しては判っていないことも多いのだけれどね。


「そうなの? 何か理由があるのかしら?」


──命の危険があるのよ。


 物騒な言葉が飛び出した。研究して、何が命を脅かすというのだろうか。

 例えば工学系の学問なら、何かを開発している際の事故で死傷者が出たとしてもおかしくないとは思う。でもそれにしたって、せいぜいが数人の犠牲といったところだろう。社会全体から見れば、誤差の範囲だ。

 対して政府が禁止するほどの危険度となると、想像がつかない。NBC兵器のように非人道的だから規制されるというならわかるが、研究する側に命の危険があるとはどんな内容なのだろう。

 理系脳で理屈っぽい鏡花であるから、こういった考察はそれだけで楽しい。先程、深く突っ込むのはよした方がいいと思ったばかりだというのに。


──転生について研究していくと、どうしても必要になってくるのが魂のあり方に関してね。その実在証明はなされているけど、じゃあ死んでから次に生まれて来るまではどうなっているのか。いわゆる死後の世界に関しては一切の観測がなされていないの。


「……ああ、なるほどね。なんだか、わかってしまったような気がするわ」


──多分、あたりよ。観測できないのなら、自分で行って確かめてしまえばいい。因果律の研究にのめり込んだ学者の多くが、自らの命を絶つことになった。そしてそれが社会問題にまでなって、最終的に政府が研究自体を禁止することになったのよ。


 求める事象があるならば、そしてその全てを手にする為ならば、己が身が燃え尽きようとも構わない。まったくもって始末に負えないが、たしかにそういう生き物は存在する。例えば、真理を求める研究者。例えば、愛に狂った略奪者。例えば、自分。

 その気持もわからなくはない。というか、理解出来てしまう。自身にもその素養があることを自覚した鏡花は、渇望するあまりに殺してしまわないようにしなければと。二人の笑顔を思い浮かべつつ、そう強く自分を戒めるのであった。




「随分と話がそれてしまったように思うのだけど。それで、対策会議っていうのは具体的にどうするのかしら?」


──ええ。吉野川真澄の配偶者がわかったわ。少なくとも、その人にしておくのががベターでしょうね。


 ……はい?

 ちょっと待って。待ってください。

 それまでの軽口の応酬と変わらぬ調子で、唐突に放たれたその言葉。その意味を理解して。理解して、しまって。鏡花の心が、千々に乱れる。


 何でいきなり答えが出ているの? 貴方まだ、この時代に来たばかりなのよ?

 まずは、先生に紹介できる男性を探すところから始めないといけないはずじゃない。手順を飛ばし過ぎよ、いくらなんでも。

 だから、この段階で相手が誰かなんてわからない。わかるはずなんて、ない。それなのに。それなのに、いまキョウカが口にしようとしている人物が誰なのかわかってしまう。

 ねえ、待って。


──だから、そのあたりのことを、貴方ともよく話し合わないといけない。……そうよね、鏡花?


 キョウカが知っている人物。この時代に来て、自分に宿って、それから出会った人。そんなの、二人しかいない。

 だめ。その名前は、だめ。だって、その人と結ばれるのは……。だから……。

 ねえ、待ってってば……。


 鏡花の、言葉に出来ない必死の訴えを知ってか知らずか。

 キョウカは無情に裁定を下す。


──私のいた未来において。吉野川真澄の配偶者は、久保田亮よ。

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