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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

Liar

作者: ドンカズ

一日遅れの短編です。

 エイプリルフールーー1年間において一度だけ嘘をついていいとされるこの日。世に存在するカップル達はお互いの愛を確かめるようにジョークを用いた駆け引きを執り行い、大手企業はパンチの利いた嘘をかましては消費者を混乱させ、中には匿名掲示板にて度が過ぎる嘘を言ってサツのお世話になる奴もいる。


そんな生温いアニバーサリーは正直に言って反吐が出る。だってそうだろ?元来嘘というモノは都合の良い道具なんだよ。人を騙し、陥れ、自分の身を守る最低だが最高の道具だ。一日だけ嘘をついていい?笑わせんなよ。毎日呼吸するかのように嘘を吐く一般大衆諸君がどの口下げて物申すんだか。


 だから俺はエイプリルフールが嫌いだ、何なら嘘が嫌いだ。この世に蔓延している如何なる感染症よりも質の悪い存在だと唱えるのは俺ーー芦屋元春は現在占い師をやっている男だ。


占い師になったのは別になりたかったからという訳ではない。この通り厭世的な性格のせいで誰一人近寄らない。それに何よりーーーこの目、左目だけが赤くなっているオッドアイのせいで気味悪がられてまともな会社にもつけない。 


 笑えることに、この左目はただのオッドアイではない。この左目で見た対象の未来ーーそれもカメラのピントを合わせるかのように対象の未来を10年後、5年後、20年後と言った具合でモノの未来をのぞける、俗に言う未来視ができてしまう。本気で占い師をやってる人間からすれば喉から手が出るほどの一品だろうが、生憎俺はただの一般人兼皮肉屋。どうしても今はこの能力を持て余している次第だ。


しかもこの占いの仕事がなかなかどうして儲からない。例えば一般的に占いと聞くと、やれ六星占術やれ風水やれ手相などと何かしらの商売道具を用いるが、俺の場合はそういった学問を一切使わないし、一目見るだけで済むんだから、良識のある客は俺の所にほとんど近寄らないし、来るとしても餌を求める野良猫かふざけた客ばかりだ。


 そんな哀愁入り混じった現実に浸りながら俺は今日というエイプリルフールにもかかわらず懲りずに、商売道具である机を人気の少ない路地裏に設置して、頬杖をつきながら客を待っていた。


時刻は5時50分...40過ぎたおっさんがこんな所で油売るどころか余生を棒に振っている姿は実に滑稽に違いないだろう。


そんな時だったソイツが来たのは。ただでさえ人通りの少ない路地裏、ヤク売りの人間すらも来ないような寂しい路地裏の中でそろそろ営業を終了するかと身構えた俺の所に嬉しいことに客は来た。


 けどその喜びは一瞬で霧散してしまった。だって、その客はあまりにこの場にそぐわなかったし何より俺が変態と誤解されてしまうような客だったからだ。


 心なしか恐怖でうるんでいる小さな瞳、三つ編みにした黒い髪、背中に背負った真っ赤なランドセル、どこかの有名な市立小学校の物であろう制服、4年3組と書かれた名札、慎ましいサイズの胸ーーーまぁつまり言うと


「あのっ...ここって占いやってますでしょうか...?」


「やってるけど君は俺を社会的に殺しに来たのかい?」


 幼女が来てしまったんだ。

 ひとまずここまでやって来た幼女を一台しかない安物のパイプ椅子に座らせる。流石に俺もわざわざこんな治安の悪そうなところまで一人でやって来た、それも幼女に何もせず帰れというのは酷な話ってものだ。それに...幼女の泣きそうな瞳を見ると、とてもからかいに来たとは思えなかったからだ。


客が幼女か...なんだかやり辛いな、初めての相手だし。しかし俺も一応占い師だ、せっかくの客を逃がすほど愚かではない。よしここは穏やかに、けれど舐められないぐらいの態度で...


「さて、俺の所に占いに来てくれてありがとうね。最初に言っておくけど俺は事実しか言わないからもし傷付けてしまったらその時はゴメンね。」


「だっ..大丈夫です。それで...視てもらいたいものが」


「待った。」


 幼女が全て言い終わる前に遮る。びくっとした顔でこちらを見ており明らかに怖がられている。いかん...もっと優しくしなければ本当にサツのお世話になってしまう。


「俺だって無料タダで占うわけじゃないんだ。占うからにはそれなりのお代..あぁお金が必要なんだけど...持ってるかい?」


 俺が問うと幼女は小さな顔でコクコクと必死の様子でうなずいた。そうして幼女は赤色のランドセルから、その手に収まりそうなぐらい小さな小銭入れからお代を取り出した。どれどれその額は...


「ええと...これだけあれば足りますか?」


「うん十分足りるねー!まさかおじさんもこんなに貰えるとは思ってなかったよー!」


 まさかまさかの一万円だった。真顔の諭吉がこちらを見ていて凄く心が苦しい、やめろそんなごみを見るような目で俺を見るな。


しかし一万円とは...この幼女何者だ?ただの幼女が財布に万札忍ばせてるなんて聞いたこともないぞ。俺が知らない間にバブルでも起きているのか?まぁそれはいいとして...


「よしお嬢ちゃんがこんなにお金出してくれたんだ。おじさんも張り切って占うとするか!...で何を占ってほしい?」


「はい...あの...占ってほしいのは私じゃないんですけど、それでも占えますか...?」


「それでもっていうと...写真に写っている人とかかい?」


「はい...。」


 なるほど幼女自体を占ってほしいわけではないのか。まぁそれもそうか、相手はまだ小学生だ。そんな小学生が自分の未来なんか知りたいと思う訳がないし俺としても知ってほしくない。なるべくなら綺麗な心をもって子供時代を過ごしてほしいものだよ。


「まぁ...いつかは思い知ってしまうんだろうけどさ...。」


「?何か言いましたか?」


「何でもないよ。さて写真越しでももちろん占うのは可能だよ。おじさんの占いは百発百中だしね。」


「ひゃつぱつひゃくちゅう?」


「...絶対当たるってことだよ。」


 ううやっぱり幼女相手はやり辛いな...けどここまで来たんだ。万札までもらっておいてやっぱやめるわだなんて無責任にも程があるるしそれは即ち嘘になるからな。


「よし、それじゃあその写真を見せてくれるかな。あぁ後!それを誰かに伝えるんだったらノートにメモするのをお勧めするよ。」


「はっ...はい!」


 いい返事だやっぱり子供が元気が一番だよ。俺がほほ笑むと幼女はまたランドセルの中をガサゴソし始め一枚の写真を取り出した。取り出された写真には次の者が映っていた。


撮影場所は小学校の校門前だろうか、桜の木をバックに写っているのは三人...恐らく家族なのだろう。皆がいい笑顔を浮かべている。父親であろう男は身長170センチほどで、自分と同じ40代ほどの顔つきをしており、天然パーマの髪に綺麗にそられた髭を持ち合わせて俗に言う”イケおじ”という奴なのだろう。母親と予想される人物は、腰まである真っ黒なロングヘアーの持ち主で見た目は20代とも30代とも取れて非常に清楚なイメージを抱かせる。そして最後に来るのは件の幼女。今自分の目の前にいる幼女とは思えないほどに明るい笑顔を浮かべていて、見ていてどこか心が安らぐ。


「この中の誰を占ってもらいたいんだい?」


「えと...お父さんとお母さんの両方...です。」


 やはりこの子の両親だったか。しかしこんなにも思いつめた表情で俺の所に来るなんて一体何があったんだこの子の家に?まぁそれはおいおい聞くとするか...よし。


「仕事開始だ。」


いつもは黒のカラーコンタクトで隠している左目に指を入れ、カラコンを外す。そうして露わになるは血よりも真っ赤な瞳...未来視するときだけはこうして外すようにしているがこの時点で驚いて逃げる客も多々ある...意外なことに幼女は俺の左目を見ても怖がることも逃げることもせず、ただ一言


「うわぁ...!」


 と驚きの声を漏らした。果たしてそれが恐怖なのか好奇なのかは知ったことではないため未来視に集中する。瞼を親指と人差し指でつまみ微妙に調整しながらこの両親の未来を観測する。まずは1年後...続いて2年後...さらに5年後...一気に飛んで10年後...。


俺だけが見えるGIFのような未来図は、鮮明に克明に脳裏に焼き付き記憶される。そうして、対象となる存在が死ぬ時まで観測し後はそれをありのままに客に伝えるだけの簡単なお仕事。そこには一片の嘘も誇張も誤魔化しも存在しないある意味非情な仕事と言える。


(けど、まさかこんな未来とはな...)


 俺が見た未来...正確には俺の左目で視た未来は、眼前の幼女に伝えるにはあまりに酷なものだった。俺の観測結果を緊張した面持ちで待つ幼女と観測してしまった未来に渋い顔をする俺。ーーー沈黙が痛い。

出来るならこのまますべてが終わってしまえばいいのにと俺が思った時、沈黙を破ったのは幼女だった。


「あの...どうでしたか?お父さんとお母さんの占い..?」


「ーーーざ」


「え?」


 残念だけどと言おうとした自分の口を塞ぐ。そうして幼女に対してぎこちない笑みを浮かべると俺は取り繕うかのように観測結果を述べる。


「まず君のお父さんの方は、今病気になっているね?」


「はい...たしかガンって言ってました。」


「その病気は2年後には治って元気なお父さんに戻っているよ。」


「ほんとうですか!」


 幼女の声が一気に弾み俺の心がざぶんと沈む。


「あぁほんとうだ。そして君のお母さんだけど、今会社の社長さんをやっているね?」


「はい!うちのお母さん凄いんです!いつも仕事で頑張っててよくテレビにも出たりしてて!でも忙しいのに毎日おいしいご飯作ってくれてて私の自慢のお母さんなんです!」


 父親の吉報を聞けて嬉しかったのか、幼女は聞いてもいない母親の自慢をする。実に子供らしい反応だ、純粋で無邪気で微笑ましくて...それ故に心苦しい。


「そっか...君はお母さんの事が大好きなんだね。」


「はい大好きです!」


「うんうん。それで君のお母さんは今お父さんが病気だから毎日夜遅くまで仕事に行ってるね?」


「はい...最近はちりょうひのため?って言ってあまり構ってくれないです。」


「けどその日々もお父さんの病気が治ればなくなるよ。そして今まで以上にお母さんは君の事を構ってくれるはずだ。」


「わぁ!」


 幼女が歓喜の声を上げる...そのキラキラした目が耐えられなくて思わず目を背ける。そんな俺を不思議そうに見て首をかしげる幼女...すまない。


「まぁつまりだ。君とお父さん、そしてお母さんは二年たったらまたいつも通りの幸せな家庭に戻るよ。」


「ほんとうに、ほんとうに後二年たったら!元に戻るんですか!」


 幼女が念入りに聞いてくる。それを必死の作り笑いで受け止めて俺はこう返してしまう。俺が生涯において絶対に言いたくなかった言葉を。


「本当だ。俺は占い師だからね、嘘はつかないよ。」

 ーーー遠き山に日は落ちてが町中に流れている...もう自分の目の前に幼女はいない。俺からの未来視の内容を素直に言われた通りノートにまとめると、ぺこりと頭を下げて三つ編みを揺らしながら満面の笑みで帰っていった。


 笑顔で幼女を見送った俺はふと、自分の左ポケットに詰め込んである一万円札に目をやった。その途端...俺の全身に底知れない罪悪感と良心の呵責が濁流のように流れた。負の感情を留まることをせず次第にそれは涙と震えに代わり、容易に俺の膝をつかせてしまった。


「さいていだ...最低だおれ...」


 最低ーーそれ以外に形容できないことを俺はしでかしてしまった。俺は幼女に嘘の...いや”真逆”の未来を伝えてしまったんだ。


 俺が見た未来では彼女の父親は二年後に癌で死亡し、その後彼女の母親は夫の死のショックから逃げるかのように仕事漬けの日々になり、幼女を育児放棄する日々へと変わる。何度確認してもその未来は不動にして揺るぎないものであった。


 けれど、俺は幼女にその真実を伝えることを躊躇ってしまった。そんな救いのない現実を突きつけてしまえば幼女はどんな反応をするのだろう。きっと絶望してしまうだろうし最悪自ら命を絶ってしまいかねない程にショックを受けてしまうだろう。


彼女を傷つけたくない、今ぐらいは明るく生きて欲しい...そんな身勝手な善意と気休めで彼女に偽りの未来を伝え一万円という大金を騙し取った。占い師として以前に人間として最低なことをやってしまった。


取り返しのつかないことをした...彼女に何と詫びればよいのかと画策するも最早手遅れだ。やり場のない自分への怒りがポケットの中の一万円札に込められてクシャッとなる。


エイプリルフールの8文字がまるで自分を嘲笑うかのようにして4月1日はここに終了した。最悪にして最低の、洒落にならない嘘が一人の男を傷つけて。

今回の話はいつになく重い終わり方にしました。日本には「嘘も方便」という言葉がありますがそれを勝手に自己解釈して受け取ってはいないでしょうか。今回の話で少しでも「嘘」について考えていただければ嬉しいです。それではまたどこかで会いましょう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 芦屋さんの捻くれている様で本当は優しい人間性が表されていて、オチの部分では思わず心が締め付けられました。
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