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7-逃走

「〜〜! “〜〜”」


 背後から聞こえる女の声。直後、奇妙なプレッシャを感じる。

 その声の主は、赤毛の女か。

 『待て』とか『捕らえろ』とか言ってるんだろう。しかし何だ? あのプレッシャーは……うおっ⁉︎

 足が絡みそうになった。水面に倒れこんでしまい、危うく溺れそうになる。

 何だ? 身体が言う事聞かねぇ。“何か”がまとわりついた様だ。

 どうなってるんだ?

 身体を見る。が、何も絡みついてない。

 気のせいか? いや、それにしては……

 いや、そんなコトより早く逃げねば。捕まったら殺されちまう。


「くっ……そぉっ!」


 気合いを入れるべく、一つ頬を張る。頭の芯がすっきりし、気力が四肢に満ちるのを感じる。

 と、まとわりついた“何か”が緩んだ様だ。

 よし、いける。

 俺は泉から上がると、柵へと向かって走りだす。

 追っ手のリーダー格と思しき赤毛の女が息を呑んだ様だ。


「“〜〜”!」


 再び赤毛の女の声。そしてまたしても、奇妙なプレッシャー。チラと振り返ると、赤毛の女の指先には、先刻の栗色の髪が見せたのと同様な光が宿っていた。そして、


「何ィ!」


 その指先から放たれる、炎の弾丸。一体どういう原理なんだ⁉︎

 それは俺に襲いかかり……


「熱ィ!」


 かわす間もなく、命中。俺の身体は炎に包まれた。


「クッ……ソッ!」


 慌てて火を振り払う。

 だが、大したダメージじゃないな。全身ずぶ濡れだからか。

 とはいえ、もう一発受けたらヤバいかもしれん。今ので服が結構乾いてしまった。

 それなら……

 俺は助走をつけ、木の柵を乗り越える。

 そして植え込みをかき分けてこれで外に……って、おっとぉ⁉︎

 その先には、また水面があった。

 また池か。真ん中に何やら皿を重ねた様な形状のオブジェから吹き出る噴水がある。

 その向こうには、建物があるな。もし外に出れなきゃ、あの中に逃げ込むのもアリか?

 幸いこの池も浅い様だ。このまま突っ切って建物の方へ逃げるか。

 俺はそのまま池を突っ切ろうと歩を進める。しかし、慎重にだ。いきなり深くなって足を取られたらオシマイだしな。

 と、その半ばにある噴水の所まで来たあたりで、背後で声が聞こえた。

 女達が植え込みを乗り越えて来る。

 ふむ。半ばまで来たんだ。この先、急激に池が深くなる事はなさそうだな。

 俺は足を速めた。


「〜〜」


 焦った様な女達の声。

 彼女らも池に足を踏み入れた。水音を激しく立てて、追ってくる。

 同時に、またあのプレッシャー。

 ふと見ると、また指先に光を灯らせた女の姿がある。黒髪の女だ。あの赤毛の女ではない。

 他にもあんな事ができるヤツがいるのか?

 それより……またあの炎かよ⁉︎

 俺はとっさに横っ飛びし、噴水のオブジェの影に隠れた。こいつを盾にできればいいんだがな。

 同時に、赤毛の女の声も聞こえた。

 何かを咎め立てている様だがな。

 その直後、空を裂く轟音とともにまばゆい光が見え……


「⁉︎」


 何だ⁉︎ か、身体が痺れる……

 感電した時の様な感覚だ。

 何が起きた!? さっきの光や音といい落雷でもあった様な……

 身を起こし、女達の方を見る。


「な、何だありゃ」


 女達は噴水と岸との中間辺りで倒れ、水にぷかりと浮いていた。

 一体何が……

 と、妙な匂いを嗅いだ。オゾン臭ってヤツか?

 ……ってコトは、やはり落雷? いや……さっきは炎の弾丸を食らったんだ。魔法の類かもしれん。もしかしたら、水に浸かった状態で雷撃でも放とうとして自爆したのか?

 これで助かっ……


「〜〜〜〜!」


 赤毛の女の声。

 前後不覚に陥っている黒髪の女を彼女が小突いていた。

 どうやらあの女は上手い事回避したらしいな。

 厄介そうな相手が残ったか。

 まだ身体に痺れが残っているが、とりあえず逃げよう。



――しばしのち

 石造りの建物に逃げ込んだ俺は、隠れる場所を探していた。

 にしても、ずいぶん立派な建物だ。白っぽい石で組み上げられた、壮麗な建造物。

 俺はその廊下を走っていた。

 その壁には、ランタンらしきものがしつらえてあり、揺らめく光が床を照らしている。

 正直言って歴史的建造物の事は良くわからないが、エジプトとかあの辺りの神殿っぽいかもしれん。

 それにしても、さっきの連中の持ってた武器。剣に槍、斧か……まるで中世だな。そのうえに魔法みたいなものもある、と。まるでコンピューターゲームの中の世界の様だ。

 そういえばこのランタン、よく見たら中に透明な球体が入ってるな。油やガス、電気ではなく、この球体が灯りを発している様だ。最初に俺が現れた池の周囲にあった松明も、実はコレだったんだろうか?

 よくわからんが、地球とは違った発達をした文明なのかもしれん。

 それはそうと、とりあえず、どこかの部屋に……


「〜〜〜〜!」


 背後からの声。先刻の赤毛の女と、それに加わった鎧をまとう男達。

 チッ、増援を呼んだか。それも、衛兵の類か。

 多勢に無勢。それに向こうは武器まで持っている。しかも男達の体躯は、相当鍛え込んでいると見える。正直言って、先刻の三人組の比じゃないな。追いつかれたら、確実に殺られる。

 俺は必死で逃げる。

 廊下を抜け、階段を駆け上がり……

 目の前に現れる人影。

 髭面の恰幅のいい男だ。上背はそれほどでは無いが、鍛え上げられた体躯をしている。

 ……マズいか。


「〜〜!」


 男は何やら叫びながら剣を抜き放ち、俺に向かってくる。『覚悟!』とでも言ってるんだろう。多分。

 が……


「おい……」


 千鳥足だ。相当酔っ払ってやがる。

 さっきホールの脇を通ったんだが、料理やら酒やらの食いかけや飲みかけがテーブルの上に並べてあった。どうやら相当遅くまで宴会をやってたらしいな。一体何があったんだ? 先刻のあの女が言っていた“儀式”と関係があるんだろうか?

 ま、いいや。相手が酔っ払いなら、このまま素通りし……

 と思った直後、


「フン!」

「うおっ⁉︎」


 先刻とは打って変わった鋭い動きで斬りつけてくる。酔拳かよ!


「チッ……」


 ステップバックして回避。

 と、その時背後から迫ってくる多数の足音が聞こえた。

 マズいな。

 そこへ襲い来る髭面男の剣。

 あわてて頭をすくめる。

 ギリギリ回避。髪が数本宙に舞った。背筋に冷たいものが走る。

 と、ヤツのは身体を泳がせた。やっぱり酔ってやがる。

 チャンスだ。俺は踏み込むとその腕を取った。同時にヤツの両脚の間に俺の右脚を入れる。そしてそのまま引き込みつつ相手の右脚に絡め、刈り倒す。

 いわゆる小内刈りだ。


「おわ〜っ⁉︎」


 ヤツは派手に転がった。


「……悪く思うなよ」


 俺は言い置き、再び走り出した。

 そしてそこに殺到する追手達。だが、足掻く髭面男に蹴躓き、追手が次々と転倒していく。

 思わぬ幸運だ。これで少々時間は稼げたか。

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