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14-復帰戦

――アリーナ

 戦場へと降り立った俺は、ヴェルディーンら審判よりルール説明を受けていた。通訳はダニエルだ。

 噛み付き、目突き、急所攻撃などが禁止される以外は、ほぼすべての攻撃が許される。それとギブアップなどの細かいルールを確認した。

 いわゆるバーリトゥード(なんでもあり)に近いルールだな。これなら俺も何度もやったことがある。

 そして俺と対戦相手――グンディバルトというらしい――は、豹――いや、ジャガーだな、これは――の彫像の前で正々堂々たる戦いを誓った。



「なぁ、ダニエル……この世界にジャガーとかっているのか?」


 しばしの休憩の間、控え室でダニエルに尋ねる。


「ああ、いるよ。東方の密林地帯にね。それに……戦神の眷属がジャガーなんだ」

「そうなのか……」


 ジャガーは新大陸最強の捕食者だ。人や家畜、ワニなども襲うことで知られる。そしてなにより……“雨の神”。そしてアステカの神、テスカトリポカの化身とされる。

 俺は思わず胸の“お守り”に手をやった。

 これは、母方の親族からもらったものだ。俺の母方の祖母は、メキシコのインディオの血を引く日系人だ。母方の祖父が仕事でメキシコに行った際に知り合ったそうだ。祖母の母の家系は、テスカトリポカの司祭の末裔であったというが……

 確かダニエルが言っていたな。先祖に転移者がいるかも、と。

 なら、そうかもしれん。俺は“呼ばれ”、そして“帰って”きたのだ。

 ダニエルが俺を見、ニヤリと笑う。


「さぁ……敬吾サンの復帰戦だよ」


 ふむ……なら、のってやろうじゃないか。



――アリーナ中央

 俺とグンディバルトは睨み合う。

 俺はアップライトな構えでヤツに相対する。

 一方のヤツは低い構えでタックルを狙うようだ。


「始め!」


 ヴェルディーンの声。

 同時に俺達は動いた。

 ヤツは身を低くして突進。だが、すぐに踏みとどまる。

 俺がわずかにステップバックしたためだ。

 俺ががぶりに来るところをカウンターで狙っていたのだろう。

 だが、それはヤツにとっても想定内だったようだ。さして失望したそぶりも見せず、構え直す。今度は打撃重視の構えだな。

 ならば……

 まずは、ローキック。

 それをガードさせ、今度は左の掌底。

 これまたガードされた。

 だが、それは策のうち。

 ガードした腕を掴むと、さらに踏み込む。半身になり、右の掌底を相手の鳩尾に押し当てた。

 ヤツは投げを警戒し、振りほどこうとする。

 だが、俺の狙いは投げじゃない。

 右足で地面を蹴り、それによって発生させた運動エネルギーを腰の回転、胴の“割れ”、そしてオーバーラップする肩帯の回転で増幅していく。更にそれを、掌を通じて解き放った。


「!」


 手ごたえ、アリ。

 ヤツの体が一瞬浮いた。そして声にならぬ呻き。

 いわゆる“寸勁”ってヤツだ。

 メキシコで酒場の用心棒してる時に知り合った東洋人のジイさんから習った技だ。

 店の子にいつもちょっかいかける助平ジジイだったんでつまみだそうと思ったら、たった一撃でノされた。それが、これだ。

 その後、なんだかんだで仲が良くなり、この技を教わったな。

 『焼けた砂利に拳打を打ち込んでも、スピードがあれば決して火傷する事はない』などと訳のわからん事を言い出したりもしたが、まぁ大体実戦重視の教え方をする人だった。

 日本に帰る日、わざわざ空港にまで見送りに来てくれたが……今も元気なんだろうか?

 いや……今は、試合に集中だ。



「ウ……グ……」


 ヤツはがくりと頽れ……いや踏みとどまった。

 やっぱりな。正直、そこまでのダメージは期待しちゃいない。あくまでも奇襲の見せ技だ。

 基礎から中国拳法をみっちり練習したわけじゃないので、大したダメージも入っていないだろう。

 だが一番の目的は、近距離でも打撃が来る、という事をヤツに知らせる事だ。

 そうすることで、ヤツは密着状態でも組み技に加え、打撃に対しても警戒しなきゃいけなくなった訳だな。

 どんな状況でも、使える手札は多い方がいい。そしてそれは、はったり(ブラフ)としても有効だ。

 俺はすかさずヤツの鳩尾に押し当てていた掌を、その背中に回す。そして、左腕も、ヤツの腕ごと背中へ回し……


「セイッ!」


 そのまま後方へと反り投げた。フロント・スープレックス、あるいはスロイダーという技だ。

 後頭部から肩、背中を地面に激しく叩きつけた。

 ここでのルールはフォールは取らないので、ホールドはしない。

 ブリッジから後転。そしてヤツの腹めがけ、身体ごと膝を落とす。

 しかし、


「チッ……」


 直前で、ガードされた。

 だが、すぐにマウントポジションへと移行。

 掌底、そして鉄槌打ちを連発する。

 これを嫌ってうつ伏せになればチョークスリーパー。ガードすれば腕関節技を狙う事ができる。今となっては古いセオリーだが、この世界では、どうか。あえてやってみる価値はあるかもしれん。

 顔面、胸、そして喉元。

 相手の出方を見つつ、散発的に打っていく。

 と、ヤツの脚が何やらモゾモゾ動き……


「!」


 下から持ち上げられた。

 ブリッジだ。


「ちっ……」


 俺は前転して身を離す。やっぱりこうくるか。

 そこに、ヤツが飛んできた。

 ニードロップか!

 意趣返しって訳だな。なら……


「フンッ!」


 あえてその一撃を受けてやる。

 無論、モロに受ける訳じゃない。急所を外し、さらに腹筋を締め、そしてわずかに腰を浮かしてダメージを逃す。

 当然の事ながら、ノーダメージという訳にはいかないがな……。

 すぐさまそこに、追撃の蹴りが来た。

 身体を回転させて逃げる。


「うぐっ!」


 さすがに逃げ切れず、蹴りを背中に受けた。

 が、それの衝撃を利し、そのままもう一回転。

 ヤツからの距離を離し、立ち上がる。

 さて、仕切り直しだ。

 ヤツの手の内を探りつつ、観客を満足させる試合をしなければならん。

 しょっぱい試合をする奴隷に、いったいどれほどの価値があろうか?

 まずは……


「ハッ!」


 軽く牽制の前蹴り。そしてすぐさまタックル。

 そのままヤツを持ち上げ、スパイン・バスターを狙い……

 だが、ヤツは踏みとどまった。一発エルボーを落とすと、フラつく俺の腕を取る。

 マズい!

 ヤツは俺の両腕を羽交い締め(ネルソンホールド)に捉え、逆に俺を持ち上げた。

 そして身体ごと浴びせる様に、俺を顔面から地面に叩きつける。


「ウオァッ!」


 ペディグリーか。

 叩きつけられる直前に腕を振りほどき、かろうじて受け身を取る。

 それが出来なきゃ頭からいってたぜ。危なかった……。下は砂地といっても、大ダメージは避けられんだろうしな。

 だが、ヤツは俺の胴をホールド。そのまま持ち上げ、今度はパワーボム気味に地面へ叩きつける。


「がはっ!」


 マットでなく地面に叩きつけられる衝撃は、やはり格別だ。受身を取ったが、かなりのダメージだ。

 だが、まだだ!

 足を振り下ろし、カカトでヤツの頭に一撃を入れてやる。

 そしてひるんだ隙に、脱出。身体を半回転して水面蹴りを放ち、立ち上がろうとしたヤツの脚を掬ってやる。

 更に立ち上がると、バランスを崩したヤツの腹にミドルキック。そこから半回転してローリングソバットを叩き込んでやる。

 ヤツは吹き飛び、ダウンした。

 同時に巻き起こる歓声。

 ふむ、やはりハデな技は受けがいいか。


「かかってきな!」


 身を起こしたヤツに、挑発のセリフ。

 無論意味は分かるまい。だが、俺の意図は伝わった様だ。


「ガアァ!」


 逆上し、突っかかって来るヤツ。

 鋭いストレート。

 先日の黒人ボクサーよりも鋭いな。

 が、それを紙一重でかわすと、踏み込みつつ喉元に腕を叩き込んだ。そしてヤツの首に腕を巻きつけた状態で前方へとジャンプ。そしてそのまま後頭部を地面に叩きつけた。

 ネックブリーカー・ドロップだ。

 その体勢から腕をとり、関節技へと……うおっ⁉︎

 ヤツは倒れたまま、俺の頭を狙って蹴りを繰り出す。

 コメカミにいいのを喰らってしまい、一瞬ふらついた。

 その間にヤツは起き上がり、俺を首相撲で捉える。そして襲いかかる、膝と肘の乱打。

 グッ……クソッ! 一撃一撃が重い。喰らい続けるとヤバいかもしれん。

 が、なかなか抜け出す手はない。おそらくコレは、ヤツの得意とする攻撃パターンか。

 どうする? 寸頸にしても、体勢が悪くては繰り出せん。このままじゃ一方的に体力をケズられるだけだ。

 そうだ……

 ワザとフラつき、後方へと倒れそうになる。

 それを好機と見てとったか、ヤツは俺にがぶると胴をクラッチした。

 そして俺を高々と担ぎ上げ……

 高まる歓声。

 そうか。コレがコイツのフィニッシュムーブか。なら……

 ヤツのクラッチを強引に外す。そして、両脚でその頭を挟み込み……


「喰らえ!」


 勢いをつけて体を後方へ降り、頭をヤツの股下に潜り込ませる。そしてその反動でヤツを投げ飛ばした。

 フランケンシュタイナーだ。


「グオッ⁉︎」


 頭から地面に叩きつけられ、ヤツは大の字に伸びていた。

 どうやら立ち上がれない。そして、呆然と宙を見上げている。

 俺はヴェルディーンの方を見た。

 彼は両隣の男たちと言葉を交わした後、立ち上がる。そして、何事か宣言した。

 そして巻き起こる歓声。


「敬吾サンの勝ちだってさ!」


 アリーナに飛び降りたダニエルの声。

 俺は遅ればせながら、腕を突き上げ、観客の声に応えた。

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