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09 第一王子視点

 カリナの涙を見てしまった次の日の朝、突然大きな音が隣の部屋から聞こえて来て、そこで俺の思考は途切れた。

 嫌な予感がして急いで隣の部屋の扉を開けた。



 こういう時の嫌な予感ほど当たるものはない。

 扉の付近で倒れているカリナを見つけた。


 顔の色はなく、死んでいるようだ。

 死んでいる?

 カリナはロボットだろ?

 故障することはあっても死ぬという概念は存在しないはずなのでは?

 

 とにかくハリウスを呼ばなくてはと、久しぶりに全速力でハリウスの部屋へ向かった。

 

 ハリウスは俺の話を聞くと急いでカリナのもとへ連れて行けと言った。

 その際に俺には隠密に医務室に行き、医者を連れてこいとも言った。


 俺は急いで、昔から世話になっている医者を連れて自分の部屋に戻った。

 カリナを抱き上げているハリウスの顔も色をなくしており、背中に冷や汗が伝った。


「カリナはユーリアに会う前に何か食べてた?」


 と、ハリウスは早口に聞いてきた。


「いや。そもそも俺はカリナが食べ物を食べている所を見たことがない。カリナは物を食べることができるのか?」


 俺は混乱する頭を落ち着けながらそう言うと、ハリウスは低い声で説明を始めた。


「カリナは人間なんだ。だから、当たり前のように食事もする。毒を飲めば死んじゃうんだ」


 ハリウスの言葉に足元から急激に寒さが回って来たみたいだ。


 ハリウスの説明によると、カリナは異世界から来た人間らしい。

 俺も少しは聞いたことがあった。

 しかし、異世界から来た人間は必ず帰っていくらしく、俺は実際に彼らを見たことがなかった。

 カリナはこの王宮で自分が帰る手がかりを探すためにロボットとして、王宮に潜り込んだらしい。

 ハリウスが言うには、カリナは毒物を飲まされたようだ。

 カリナの口内にはあめ玉のようなものがあった。


 ハリウスはためらいもなく、カリナの口からそれを取り出しハンカチに包んだ。


「クーリシ!カリナの様態を見てて。僕は薬物師にこのあめ玉の物質解析を依頼してくる。間違っても騒ぎにするなよ!」


 ハリウスは医師であるクーリシにそう言い、部屋から飛び出した。

 俺はどうすることもできず、カリナの手をぎゅっと握った。


 カリナは俺が初めて見た時から人間だった。

 ただの人間の女だった。


 カリナを初めて見た時、執務官からロボットのことを聞いたことがあったので、迷わず声を掛けた。

 カリナを部屋に招き入れても不思議と嫌な気持ちにならなかった。

 今考えてみれば、カリナの不思議な瞳と髪の色と、ロボットであるという先入観から女であることを意識しなかったのだろう。

 最初は拙いながら頑張っている姿を見るのが好きだった。

 それから信頼してくれて、笑いかけてくれる笑顔が好きだった。

 

 何度、カリナがロボットではなかったら…と考えた。

 でも、どうにも抑えられなくて、ロボットでも開き直ってしまうくらい、カリナが欲しかった。



「ユーリア!解析結果が出た!」


 ハリウスが扉を静かに開き、部屋に戻って来た。


「コーリャナの葉だ!解毒剤はないが、魔法で解毒ができる」

「魔術師を呼んでくる!!」


 俺が焦って走り出そうとしたところでハリウスに手をとられた。


「騒ぐな。魔術師には、ルーシア派閥の人間が多い。騒ぎ立てられるかもしれない。ルーシア本人を連れてこい」


 ハリウスは静かにそう言った。

 それは、暗にカリナが王位継承権争いに巻き込まれたのだと言っている。


 今はそんなことより行動する方が先だ、とルーシアの部屋に向かった。

 学校までまだ時間があったらしいルーシアは部屋でのんびりと紅茶を飲んでいたが、事情を説明する時間も惜しくて、無理やり引っ張って、カリナの元まで連れて行った。


 ハリウスが一通り説明すると、ルーシアは驚いたような顔をしたが、すぐにカリナに術をかけた。

 この中にいる誰よりも魔力の高い、王宮でも、父である王についで高い魔力をもつルーシアのかけた術なので、問題はないだろう。

 クーリシも、カリナの脈を確認し、異常なしだと言った。

 ひとまず安心して、カリナを俺のベッドに寝かした。

 カリナは心配だが、犯人のメドをつけておきたいのだ。

 クーリシにカリナを診ててもらうことにして、俺達兄弟は寝室から出た。


 いつの間にか朝とは言い難い時間になっており、各々自分の仕事や、学校へ連絡を入れたのは昼過ぎだった。



……

………




「まず、犯人だけど、王位継承権争いの派閥の貴族有力者の中にいるのだろうね。さらに言えば、ユーリア派閥の方に」

 

 最初にそう切り出したのはハリウスだった。


「俺もそう思う」


 俺がそう同意すると、ルーシアは不思議そうに、


「どうして、俺を推している派閥はしてないって言い切れるんだよ」


 と言う。 


「そうとは言い切れないけど、可能性は高いって話。最近のユーリアのカリナへの過保護っぷりはすごかったし、王宮内でも一部では少しずつカリナとユーリア様は恋仲?でも、カリナはロボットだし…みたいな、戸惑いの声は上がってたからね。貴族の方々のお耳にも入っちゃったのかもね」


 ハリウスの言うことが一番の大きな要因だと思われる。

 貴族のお嬢様を嫁として差し出したい貴族連中にとって、カリナはとてつもなく邪魔な存在なのだろう。


「なんだよそれ!俺知らねーよ!それ!」


 ルーシアが怒ったような声を上げる。


「まあ、ルーシアは鈍いからな」


 と、俺が言うと、


「冷たいよ、兄様…」


 と、ルーシアはしょぼくれてしまった。


「そうだよ、ユーリア。ルーシアが可哀想でしょ。まぁ、そんなことはさておき、ユーリア派閥のどこの家の人か、なんだけど…カーレリア家なんて結構怪しいよね?」


 さておき、なんて言ってしまえる時点で、ハリウスにとって対した事情でもないということだ。

 カーレリア家は、最近王宮でも勢力を伸ばしている貴族だ。

 確か、16歳の娘がいて、嫁にどうか、と凄く推された気がする。


「見合いを凄く推された以外にはあまり印象はないがな」


 と、俺が言うと、ハリウスは「それはどうかな?」と言ってから、カーレリア家の悪い噂を話し始めた。

 カーレリア家は果実酒の加工技術が優れていることから、王宮で重宝されるようになった。

 その裏では、民に重圧をかけ、領主として徴収する税は他の場所の二倍だったとか。

 それでも民が逃げなかったのは、領主が民に借金をさせて色々なものを質にとっていたとかなんとか。


 えげつない話がつらつらと話される。


「うげ、大人ってこえーな。てか、カーレリア家のお嬢様と兄様は結婚するって話を聞いたんだけど」


 と、ルーシアがお行儀悪く呟く。


「まぁ、結構あくどいらしいよ。そうなの?」


 と、ハリウスがにっこりと聞いた。

 まったくいい性格をしている。


「周りが勝手に騒いでいただけで、俺はその気持ちはさらさらない。カーレリア家がしたと決まった訳ではないが、とりあえずかなり黒に近いな。カリナが起きてから詳しく事情を聞こう」


 と、そこでこの話を終える。


「それから、カリナの件だが、人間だと分かった以上、カリナはもうお前の所有物ではない。カリナは異世界人として、王宮で預かる。異論はないな?」


 と、俺は続け様に言った。


「異論は大ありだよ。そこもカリナの意志を聞かないと、ね。弟としての忠告だけど、あんまり強引に進めると女の子は逃げちゃうよ?」


 と、ハリウスは譲る気はないようだ。


「でも、安全面で言ったら王宮が一番だと、俺は思うけど」


 ルーシアもそう言い、加勢するが、それでも、ユーリアは引かない。


「カリナとゆっくりお話する場所がなくなっちゃうからやだ!」


 最終的に、そんな本心を隠すことなく言いだす。

 しばらくして、ルーシアは少しの間考えてから、


「ハリウス兄様の領地で、カリナの家を建てればいいんだよ!ほら、ハリウス兄様が王族から籍を抜くとき、お父様から土地貰ってたでしょ?そこに家を建てちゃえばいいんだよ!ハリウス兄様はいっぱい発明品売ってるんだからお金持ちじゃん!」


 と名案とばかりに言った。

 ハリウスの領地といえば、ルーシアの通う王立学校の近くだ。

 平等に見せかけて、少し自分に有利に運ぼうとする。

 我が弟ながら、なかなかに頭の回転が早い。

 

 ハリウス・ジャーティーと名乗る男は元は、王族の第二子として生まれた。

 ハリウスは成人と同時に王族から籍を抜き、臣下に下った。

 今は叔父の籍に入り、公爵位を持っている。

 俺と、ハリウスと、ルーシアは兄弟だ。

 俺達皆、違う母親を持っているが、お互いがお互いを大切に思っている。

 ハリウスは天才だった。

 だから、彼には王子という身分が窮屈で仕方なかったのだろう。

 俺とルーシアはハリウスが王族から籍を抜くことに賛成し、協力した。

 ハリウスも臣下に下った後も、色々な相談に乗ってくれるし、情報通で頭の切れもいいので、頼りになる。

 



「僕はそれでもいいんだけどさ、カリナは僕に頼り過ぎるのが嫌みたいだから…」


 と、ハリウスは苦笑を浮かべる。


「カリナが起きてから意思確認するしかないな」


 と、結論づけ、話し合いは終わった。

 そろそろカリナの様子を見に行こうと腰を上げた所で、


「兄様達ばかりずるい。俺もカリナともっと一緒にいたいのにー!!」


 と、ルーシアが叫んだ。

 やはりまだ、子供だ。


「叫んでるだけじゃ手に入らないよ?行動しなきゃね」


 と、ハリウスが言って、最初に寝室に向かった。

 やはり、天才は天才だ。

 自由すぎる。


「俺、ハリウス兄様に勝てる気がしない」


 ルーシアが落ち込んだ口調で、そう言うので、


「俺もだ」


 と返すしかなかった。


 


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