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02

 食事の片付けをして、ユーリア様の部屋に鍵をかけ、鍵をユーリア様の部屋付きの護衛の人に預け、私はある人の部屋に向かった。


 

 私は目的の部屋に入り、部屋に置いてあるけたたましい音のなる鐘のようなものを鳴らした。

 ちなみにこの部屋は防音のため、周りに迷惑をかけることはない。


「はぁぇ?あ、おはよう、カリナ」


 なんとも間抜けな顔で飛び起きた、偉大な発明者と呼ばれる彼は、


「もっとましな起こし方はないのかな…」


 と言いながらベッドから降りて、質素なソファに座った。

 私は無言でコーヒーを用意し、彼の前に置く。


「生ぬるい起こし方じゃ、ハリウスは起きないじゃん!」


 と、私が強い口調で言うと、


「まぁ、そーだよね」


 とのほほんと笑う。


「何か進展はあった?」


 毎日のことだが、ドキドキしながら聞くと、


「ないよ!」


 と、元気に返されてしまった。

 はぁー。

 ため息をはくと、彼は、「ごめんね」と言いながら、


「そっちは、ロボット生活に何か変化はあった?」


 と聞いてくる。


「何もないよ」


 と、今度は私がそう答えた。






 こんな会話が繰り返されるようになって、もう一年は経つだろうか?

 「ロボット生活」、それが今の私の全てだ。

 私の名前はカリナ。

 この世界では、それが私の名前。

 でも、私には笹森香里奈ささもりかりなという名前がある。


 私は元々この世界の人間ではなかった。


 地球の、日本という国の、王族なんて制度がない場所に住んでいた。

 一年前、学校に遅刻すれすれで向かう途中、駅の階段で足を踏み外し、気付いたら、今いるこの男の部屋にいた。

 つまり、ここに来て、初めて会った人物が、目の前にいるこの、のほほんとした男ーハリウス・ジャーティーだった。



 ハリウスの容姿は、濃い緑の髪に、深い青の瞳という、私の世界では人工にしか作られないような色合いで、しかも、それが人工で作られたわけではないと分かるほど自然で綺麗だったため、私はかなり困惑した。

 ハリウスに後から聞いた話では、ハリウスは黒髪、黒目の私に驚いたとか。


 私にハリウスは丁寧に色々なこと教えてくれた。


 この世界は、私の住んでいた場所とは大分違うということ。

 この世界では、私の黒髪、黒目の方が珍しいということ。

 ここは、王宮の一室であるということ。

 ハリウスは王宮お抱えの発明者であるということ。


 不思議なことに言葉は全て理解することが出来た。


 ハリウスの話によると、この世界に異世界から人が来たという話は稀にあるらしい。

 そして、殆どの人が祖国に帰ったと、文献にも残されているらしい。

 その言葉を聞いてひどく安堵した。


「じゃあ!帰れるんだね!」


 私は嬉しくて飛び跳ねる勢いで言うと、「でもね…」とハリウスは暗い声で言った。


「帰ったっていうことは分かってるんだけど、どうやって帰ったかは分からないんだ」

「じゃあ、私、帰れないの…?」


 その場に座り込んでしまう。

 こらえていたはずの涙が堪えきれず、流れた。


「わわ。ごめん、大丈夫!見つけるから!僕が見つけるから!」


 慌てたハリウスの声が聞こえ顔を上げると、ハリウスはしゃがみこんで私と視線を合わせてくれていた。


「僕が君を元の世界に返してあげる!必ず」


 そう言ったハリウスに、私は泣きながら何度もお礼を言った。


 ハリウスの家は公爵家という偉いお家だったらしく、最初はハリウスに後見人になってもらうという話だった。

 でも、ハリウスの話によると一番情報が集まるのは王宮らしく、異世界関連の文献も多い。

 もしかしたら、異世界の関係者がいるかもしれない。

 ならば、王宮にいた方が帰れる確率は上がると思い、なんとか王宮に居られる方法を考えた。

 こんな庶民が王宮にいることは出来ないし、王宮で働くにしても、身元のはっきりしない私がたとえハリウスの後見がついても働かせてもらえるわけもない。


 そこで、私はハリウスが発明者であるということを思い出した。


「私を、あなたの発明品だってことにして欲しいんだけど…」


 あの時のハリウスの顔を私は忘れることが出来ない。

 初めは反対していたハリウスも最後には折れて、国王陛下にだけは事情を説明し、了解を貰った上でやっと私はこの生活を手に入れた。


 みんなは私をハリウスの作った、人工知能付きのロボットだと思っている。

 この世界には魔法というものが存在していて、ハリウス曰わく、それなりに魔力がある人ならば、私と全く同じ身体と顔は作れるらしい。

 だが、それを動かし、しゃべるようにすることは難しく、そういうものを作るのが発明者の仕事らしい。

 つまり、器を作るのが魔術師で、それを動かす仕組みを作るのが発明者ということだ。


 私のロボットとしての設定はかなり曖昧だ。

 例えば、マリンは私を、「人の食べ物を食べることが出来るが、栄養にならない」と認識しているが、ユーリア様は私を、「人の食べ物自体を食べることが出来ない」と認識している。


 マリンは、私に人としての交流を求めている。

 ユーリア様は、私に人じゃない存在として、ロボットしての存在を求めている。

 そのとき時の都合のよいように設定しているので、いつかしわ寄せが来そうでちょっと怖い。

 

 だが今のところは、ハリウスが今までに有能な通信機や、私の知っている所のエアコンのようなものなどを開発をしているため、誰も私が本物の人間であるということを疑わない。

 

 私がユーリア様の側にいる唯一の専属メイドであるという事実がある限り、もう疑うことは許されない。






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