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クラブの「エース」と「スペードのK(13)」

作者: 頭山怛朗

「あぁ、七億円欲しい」おれは得意先周りの途中、公園のベンチで呟いた。

「あなた、ゲームに参加しませんか? 」当然出現した女がそう言った。「ゲームに勝ったらあなたの望みはかなえられます」 その女の顔はまるでプラスチックで出来ていて、目はガラスで出来ているようだった。明らかに人間でなかった。ロボットか異星人だった。

でも、おれは良く考えもせずに言った。「いいだろう! その話、乗った」


気がつくとおれは見知らぬ部屋にいた。部屋には先の女と、見知らぬくたびれた中年男がいた。窓から月が三つ見えた。一つは白い。一つは赤く、もう一つは青い。血のよう赤い月が一回り大きい。

「ここでトランプゲームをやって貰います。ルールは簡単。五回カードを引いて貰って、合計が多いほうが勝ちとします。ただ、クラブはカードの数のまま。ダイヤは数かける二倍。ハートは三倍、スペードは四倍。エースは一です。つまりクラブのエースは1ポイント。ダイヤの3は6ポイント。ハートの5は15ポイント。スペードの7は28ポイント。五回引いて、合計が多いほうが勝ち。もし、同点なら両者の勝ちとします。勝者には国王から五億円が送られます」

「娘が難病だ。後数ヶ月と医者に言われたが、娘は隣に住む幼馴染との結婚を小さいときから望んでいた。金は要らないから、娘の病気を治してやって欲しい」中年男は病名を言ったが全く理解できなかった。おれの親父も胃がんだが、おれは五億円の方がいい。おれにも幼馴染の(何時も弟と三人で遊んでいた)彼女がいるが、もし、彼女がその難病になっても五億円の方がいい。おれはそういう男だ。

 女がタブレットを操作し「分かった」と言った。

「敗者はどうなるのだ? 」と男が質問すると、女は「いい質問だ」と言った。

でも、男の質問を無視し女はカードをシャッフルし、テーブルに一直線上に並べた。「それではゲーム開始です」

 一回目、おれはハートの9、男はクラブの3。おれが27ポイント。男は3ポイント。

 二回目……。

 三回目……。

 四回目……。

 それぞれ勝ち負けがあったが、四回カードを引いておれと男のポイント差は50ポイントでおれが有利だった。

 おれはすばやく計算した。おれが負けるとしたらおれがクラブのエース、男がスペードのK(13)しかない。その確立は2分の1(おれかくたびれて中年男)×52分の1(13枚×4種)×51分の1……。で、いいのかな? おれは数学が得意でないが、兎に角、そうなる確立は非常に低い。事実上、ありえない。

 はず、だった……。


 結局、おれは男に負けた。確立は兎も角、おれは男との「勝負」に負けたのだ。


 約一年後、ある結婚式場で幼馴染同士の結婚式が行われた。

 花嫁は難病だったが奇跡的に完治してその日を迎えた。医者は「何故、あの病気が治ったのか分からない」と首をひねった。結婚式で花嫁の父は涙など流さなかった。ただ、娘が隣の息子にケーキを食べさせるのを見てねただけだった。それから花嫁の父は宝くじで七億円を当てた。幸せな男だ。

 おれはあれ以来行方不明になり、かつ、ハッキングで七億円を某銀行から搾取した容疑で指名手配された。でも、一ヶ月後、喜んでいいのか悲しんでいいのかよく分からないが、おれにはそんな能力がない、何者かに利用されただけということになり指名手配は取り消され、殺されている可能性が大きいということになった。こうして、おれは容疑者リストの一番から被害者リストに移された。本当に、喜んでいいのか悲しむべきなのか微妙だ。

 それから幼馴染の彼女は弟と結婚した。彼女が愛していたのはおれでなく弟だったのだ。とんだ勘違いだった。親父の胃がんは手術で助かり、孫娘を抱いて嬉しそうに笑った。


 結局、割りを食ったのはおれだけだったようだ……。


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