お・も・て・な・し
マーリンに促され家の中に入る桜夜、その内心は・・・
(見知らぬ男性の部屋に入るのは一応女子の端くれとしてどうかと思わないでもないけど・・・まぁ大丈夫だよね。いざとなれば男性の一人や二人どうってことないわ。)
この考えが後々桜夜を後悔させることになるのだが・・・
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桜夜をリビングに通しソファーに座らせ、傷の消毒をしてくれた。その後、マーリンに「眼を閉じて」と言われ変なことされないかと少し警戒しつつ従うと、マーリンは「痛いの痛いの飛んでいけ~」と小さい子どもにやるようにお呪いを言った。
(わたしを子ども扱いしてるのかしら・・・ん!?)
マーリンがお呪いを言った瞬間、温かい何かが全身に満たされる感覚が広がった。その感覚はとても心地良く、温かい陽だまりの中にいるようであった。桜夜は初めての感覚に驚いていると、もう一つあることに気づいた。
傷が治っているのである。
これまでズキズキしていた傷から痛みが消え、皮膚も周りに血痕はあるものの傷は完全に塞がっていた。それにさっきまで疲労困憊であった身体はまだ疲れはあるものの、何時間か休息をとったかのように体力が回復していることを感じた。
桜夜が驚きつつ自分の身体を確かめながら呆然としていると、いつの間にかリビングから去っていた。マーリンがやってきた。「入浴の準備が出来た」と言われ薦められるままに案内された。
浴室は浴槽も壁も木材で出来ており、森の香りがした。桜夜は入ったことは無いが檜風呂というものを連想した。「ごゆっくりと」と言葉を残し、マーリンが去ったことを確認すると、汗と血でベトベトな自分の身体は限界に達し、勢い良く制服と下着を脱ぎ捨て脱衣所から浴室に入る。
ゴシゴシと置いていた石鹸で身体を擦り湯で流した後、浴槽の中に身体を沈めた。
浴槽は大きく無かったが身長160センチの桜夜一人ではいる分には充分の大きさで、浴槽の中で足も伸ばせる。温かいお湯の中でしだいに桜夜はウトウトしはじめ・・・風呂に顔を沈めたところで「ぐはぁ!?」と起きた。
ウトウトしていたのは30分くらいお湯はその前よりも若干ぬるくなっている。ここでも桜夜はあることに気づいた。
(このお風呂どうやって水を引いてきて、お湯を準備してるんだろう?蛇口も無いし、ドラム缶の風呂のように薪を燃やして温めているわけでも無いみたい。温泉?でも匂いもしないし濁ってもいない・・・)
そんな新たな疑問を持ちつつも上せそうになっていたので入浴を切り上げた。
脱衣所に行くとさっき桜夜が脱いだ制服たちは無く、代わりにマーリンが用意してくれていた清潔そうなタオル、白シャツ、ズボン、カーディガンが置かれていた。制服たちが無いことに戸惑いつつも身体の水分を拭き取り、用意された服を着た。サイズが大きかったので袖を折ったり、ベルト(これも用意されていた)で調節した。
「あぁサクヤ・クドウ丁度良かった。今食事の準備が出来たところです。服なんですけど汚れが酷かったので勝手洗わせてもらいました。確かめもせず申し訳ない・・・」
桜夜がリビングに戻るとマーリンはテーブルに料理と皿を並べているところであった。やはり、制服たちは彼が気を利かせて洗ってくれたようである。普通であれば羞恥心が沸き起こるはずであるが、不思議と嫌な感じはしなかった。先ほどまでは着ていなかったエプロンを身につけており、しかも生地の淵はフリフリである。見た目とのギャップで以外にも似合っていた。
「お腹空いたでしょう?ささ、こちらの席に座って」
マーリンに促された席に素直に腰掛ける。テーブルに並べられた料理はどれも美味しそうであった。瑞々しい野菜のサラダ、ベーコンと玉葱の温かいスープ、チーズをたっぷり使ったピザはグツグツ音をたてており、茹で卵が入ったミートローフはフォークで軽く押しただけでジュワ~と肉汁が溢れてきそうである。桜夜は思わず唾を飲み込んだ。
「さぁ召し上が・・・」マーリンが最後の一言を言い終える前に桜夜は目にも止まらぬ早業でフォークとスプーンを掴むと戦闘に入った。その様子は某漫画の麦藁帽子を被った海賊団船長を髣髴させたという。マーリンはその様子を満足げに観察しつつ、食べたり無い桜夜のため次々と追加で料理を作っていき、夜は更けていくのであった。
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翌朝桜夜が目覚めたのはフカフカのベッドの上であった。
そこである光景を見た彼女は後悔することになる。