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中編

俺の名前はアギ・ストレプト。

戦うことが大好きで、いつでも一番に戦場に飛び込み

他のやつらより成果を挙げることが快感でたまらなかった。


そうやって、戦いの日々を続けていたら、いつの間にか隊長にまでのし上がっていた。

皆をまとめるよう指示することや、新人の育成なんか面倒くさくて放棄していた俺だけど

隊の皆は色々文句を言いながらも付いてきてくれた。


生まれてから28年、隊長になってから3年。

25年間は特に守るべきものは無く、自分中心で考えてきた。

隊長になってからも、それは変わることが無いと思っていたが

俺にも人間らしいところがあったようで、隊のやつらを死なせたくないなんて思えてきた。

隊のやつらが時々話す家族のことも、飲みに行く店のやつらのことも。

そんな思いに比例するかのように、戦場へ向かう頻度も、危ないギリギリの戦いも

さらに増えてきた。

皆が何を言おうが俺はそれでかまわなかった。


だけどある日、魔族がとんでもないことをしてくれた。

人間の子供を装い、塔の内部に潜入して聖術師を皆殺しにしたのだ。


俺はそのとき、見回りから帰るところで、塔の異変に気付き上を見上げると

聖術師の一人が窓から投げられているところだった

その落下地点には魔族が12体ほど潜んでおり、聖術師を受け止めた後、逃げようとするところを

そうはさせまいと魔法を使い電撃を落とし、足止めをする。

聖術師は取り囲まれて、こちらからは姿が見えない。


電撃で一時体が麻痺している魔族を追い抜き、駆けながら抜いた剣を使い、奥にいた一番小さく細い魔族の胴体を切り落とす。

魔族の緑色の体液が体にかかるが気にせず、奇襲に狼狽している魔族達が立て直す前に2対目に目標を定め剣を振るう。

体液を浴びると呪われるという理由があるため、いつもはそこに注意して

切り方や切る場所を考えながら戦うのだが、今はそうは言っていられない。

体液の事は気にせず、聖術師を魔族にさらわれないように、ただそれだけを考えて戦う。

12体の内2体を瞬時に倒すと、方向を変え距離をとる。

追ってきた8体から距離をとりつつ、聖術師の姿を確認し、聖術師を抱えた魔族2体の様子を探る。

俺が急に攻めてきたことに慌てているらしく、もたついていた。

ならば、立て直す前に一気にけりをつけてやろうと、追ってきた8体に電撃を落とし一瞬足を止めさせる。

その隙に間を駆け抜けようとするが、一度目のように全員に電撃が行き渡らず

電撃が上手く効かなかった図体のでかい2体にすれ違う瞬間、足を狙われたが

スピードはこちらの方が上だったため難なくよけて、聖術師を抱えている2体へ襲い掛かる。

聖術師を捕らえていたやつの、腕と思われる部分を切り落とすと、すぐに聖術師を取り落とした。

聖術師の襟首を掴み塔の方へ引きずりながら剣と魔法で魔族を近づけないようにする、と

そこで応援が到着し、それから戦いは瞬く間に終わった。


結果は、魔族の群れを倒すことは出来たが、取り戻した聖術師は死んでいた。


さらに、呪いを大量に浴びてしまい、ただ歩くことでさえも鈍い痛みが走るようになった。

夜はさらにひどく、頭と体を締め付けるような痛みが続く。

薬を飲んで、ようやく眠れたかと思ったら、見るのは悪夢。

呪いは体の痛みよりも精神攻撃のほうがきつい。

5日で精神も、体力もボロボロになったが、聖術師がいない厳しい状況で

隊員の士気を落とすことは出来ない。

体の痛みより、精神を攻撃されるほうが辛く、この状態で一日でも休んでしまうと、暗い考えに落ちてしまいそうだった。


同じ隊長である、第4隊軍団長デュランタには気付かれたが、俺の思いを汲み取ってくれて

ただ、無理はするなと呪いをはじくペンダントをくれた。

デュランタもこんな状況で俺が呪いに倒れたと知れ渡り、士気が下がるのを懸念したのだろう。

それに、聖術師がいないのに休んでも呪いが軽くなるはずも無く、俺がやるといったら貫き通す性格をしっているからだ。


あの日から、約2週間、途中で隊員たちは戦い方や生活態度から、俺の体の状態に気付いていながらも

気付かないふりをしてくれた。


聖術師がやっと塔に到着した日、俺の精神はずたずただった。

いっそのこと戦場で果てて死ぬか、このまま数日後に死んでしまうほうが

楽ではないのかと思うほどに。


昼に隊員たちと見回りの打ち合わせをしていると、第4隊長であるデュランタが

ラークスという聖術師をつれて来た。どうやらすぐに治療をしてもらえと言う事らしい。

戦いをして、この塔を守るのが役目なのに、自分の体を守るためにその役目を放棄する気にならず

自分は後に回して、他のやつの治療を優先しろとか、なんだかんだ理由をつけて、見回りへ向かった。

正直、治療されるのが怖かったというのが大きい。

治療を受けて、回復したら、この苦痛を再度味わうことになる恐怖から、足がすくみ戦場へ出ることが嫌になるのではないか。

二度と戦いに出られなくなってしまう体になるのではないか、

今までのように一番に突っ込んでいく気力がなくなってしまうのではないか、そう思ってしまう。

そんな腑抜けになるぐらいならいっそ、このままの状態で死なせてほしい。

この世界は好きだ、仲間も町のやつらも嫌いじゃない、やりたいことも結構やってきた。

思い残すこと・執着することなんて何もない。

なら、このまま、やつらを守りながら死ぬのも悪くない、そう思う。



夜になり、見回りを交代する時間となる。

最近は、夜はふらつくのを隠せないところまで来ていたため、朝と昼のみ見回りに参加している。

椅子に座る仕事を夜にあてていた。

書類作りも終わり、頭痛がひどくなってきたため、嫌な思いを少しでもすっきりさせようと

水がめのところに向かう。

そこには、一人の女がいた。



倒れるまでのことはあまり覚えていないが、意識が戻ってからははっきりと思い出せる。

きっと一生忘れることはないだろう。

優しいぬくもりと、髪をなでられる気持ちよさ、その手をめぐって行き着いた先は、きれいな青。

その青色を見ながら、そういえば空なんて最近眺める余裕もないし、呪いによって汚くなっていたが

今はどんな色をしていただろうと、ぼんやり思う。



体は少し軽くなったし、気分も昨日より断然良い状態だ。

懸念していた、足がすくむなんてこともない。

昨日まで考えていた思いが馬鹿みたいだった。

俺が、足をすくませ戦場へ出るのが嫌になる?

誰にも弱音を吐かずにすんでよかった。

いい笑い話になるところだ。



でも、ひとつ嫌なことが増えてしまった。

あの女、ルア・スターチスだ。

ルア自体が嫌なのではなく、ルアを求めてしまう自分に腹が立つ。

きっと、苦しみから回復した気持ちよさと、ぬくもりと手に執着してしまったのだろう。


あれから、毎晩ルアに歌ってもらっているが、執着心が治まる気配はなく。

1日中でもこうして居たいほどだ。

任務中もルアがいるだろう場所をなんとなく見上げてしまっていたりする。

隊員たちに言わせると、笑う頻度が増え、時々にやついていて、気味がわるいそうだ。



そして、聖なる力がこめられた歌を直に3ヶ月も聞いていると、重度の患者ではなくなっていた。

すると、ルアからある日の夜、こう切り出された。

「少し回復しているので、直接でなくて、えーと、そうですね。

6階の聖堂で毎日3時間ぐらい聞きにきて頂けるだけで、もう大丈夫ですよ。」

おめでとうございます。と、可愛い笑顔で言われたが、こちらとしては全然大丈夫ではない。

「行く必要がないだろ。ルアが毎晩来れば問題ない。」

「問題あります!」

いつもでかい声は出さないルアが、少しほほを染めて、怒ったようにこちらを見ている。

が、全然怖くなく、むしろ可愛い。

「わ、私とアギ隊長の関係性を、なんというか、皆があ、あ、怪しんでいます。」

「関係性?他のやつらが怪しむのが、どう問題になる?」

少し顔を険しくすると、ルアの体が少しはね、視線をさまよわせる。

「こ、恋人ではないかと・・。」

ぼそぼそとつぶやく声でルアは言った。

「じゃあ、恋人だといえばいい。」

ルアの膝から上半身を起き上がらせる。

体の調子も気分もいい。今まではそういう状態ではなかったが今なら

「やるか。」

服をぬぎつつ、ルアのほうを見ると。

真っ赤になっていた。

「やりません!」

ルアは素早く立ち上がり、そのままの勢いで早口にしゃべる。

「私たち聖術師はそういった事は神に結婚の報告をするまで、みだりに行わないのです!

ですから、他の方々に関係があるかのごとく言われるのも嫌なのです!

今までは治療があるという理由でしたが、これ以上は仲間も納得してくれないでしょうし、私も納得できません!

だから、もうここへは来ません!」

そのまま出て行こうとするのを捕まえて、ベットに戻す。

「は、離してください。」

「言いたいことは分かった。手は出さない。でも、今日の治療はここでやってくれ。せっかく来たんだ。」

だろ?と顔を覗き込むと、真っ赤な顔で口をへの字にしつつ、渋々頷いてくれた。



次の日、俺はルアの部屋の前で腕を組んで待っていた。

その姿を見て、下から上がってきたルアは目を丸くする。

「き、昨日、私が言ったこと聞いてました・・?」

「分かってる。だから俺の方から来たんだろ。」

ルアは眉根をよせて疑問を浮かべていた。

「俺の部屋に来ないって事は、俺がお前の部屋に行くしかないだろ。もちろん、手も出さない。我慢する。」

「!ですから。」

「で、もうひとつの問題だが。」

ルアの肩に手をおき、抱き寄せ。でかい声で叫ぶ。

「ルアとは恋人同士だが、手は出さないと誓う!疑うやつは俺の所に来い!」

ルアは目を大きく開け、固まっていた。

「これで、問題は何もない。」

そういって、ルアと一緒に部屋へ入っていった。



声を聞いたやつらが、噂を流したらしく

町に住んでいて、塔の内部の情報には疎いはずの第4隊軍団長デュランタにまでも数日後には知れ渡っていた。

「お前はまだまだ餓鬼だな。」

そう言って、ため息をついていたが、どう言われようとかまわない。

ルアを求めてしまう自分も受け入れていた。



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