前編
私の名前はルア・スターチス。
今年で22才となり、少女とはもう言えない歳だけど、女と言うには
胸と腰、お尻のあたりの凹凸が寂しすぎる体系。いわゆる寸胴というやつ。
仲間には、細くて羨ましいなんていわれるけれど、ムチムチで色気バッチリの
出るとこ出てる完璧ボディな女性に言われると逆に悲しくなる。
腰までの長い黒髪に青い瞳。取り立てて珍しくも無い色合いに顔立ち。
特に自慢できる頭も容姿も持っていないけれど、私には唯一自慢できる特技がある。
特技というのは少し違うが、私は聖なる力を持って生まれた希少な人間らしい。
その力を持っていたおかげで、小さい頃に国に保護され、力を正しく使うための訓練や教育を無料で受ける事が出来た。
まあ、その代わり、強制的に国のために働くことになるのだが、それは嫌ではない。
むしろ職が得られて、万々歳だ。
15才の時に訓練を卒業して、それから7年間、国の中央にある聖堂で数人の同じ力を持つ仲間と
歌を毎日歌い続けた。
歌を途絶えさせてしまうと、魔族の呪いが人々を蝕み死に至らせ、大地を汚す等、恐ろしいことになってしまうから。
私達、聖なる力を持ち、聖歌を歌うことが出来る者を人々は聖術師と呼んでいるのだが。
その聖術師がいない地はすべて呪われているのかというとそうではなく、魔族とよばれる種族が呪いを撒き散らして、私達の住むレウィシア国を乗っ取ろうとしているから、国の中心で歌っている私達が歌を途絶えさせると、魔族がこれ幸いと攻撃をしかけてくるということであって、すべての場所に呪いがかかっているわけではない。
魔族は世界を自分達のものにしようとしているらしく、つい先日、レウィシア国の西側にあったスパラキシス国を滅ぼしてしまった。
そのままの勢いでレウィシア国に攻め込んだようだが、我が国は優秀な騎士団と聖術師が揃っており、易々とは侵略されはしないし、させるつもりもない。
西側の国境近くに立てているラナン塔には第三騎士団と第四騎士団が駐在していて
彼らが壁となり、魔族はこれ以上、レウィシア国へ進行することが出来ない状態となっている。
城からは遠いラナン塔の位置あたりから、魔族が呪いをかけてくるのを防ぐ、それが今の私のお仕事。
そう、今までは。
今日も聖歌を歌うため、朝担当の人たちと交代しようと、私は友達のトレニアと聖堂に向かっていた。
「昼担当なんて早く終わらないかしら。夜の静まった空気の中で歌う方が断然良いわ。」
とトレニアが美しい顔を少し歪めてため息をつく。
「まあ、見学者が一番多いのは昼間だから。」
私が苦笑して言う。
「人にじろじろ見られて喜ぶのなんて、ラークスだけよ。
いっそ、あいつを広場で一人歌わせて、私達は扉を閉めた室内でひっそり歌うってのはどうかしら。」
その提案、ラークスは喜んで受けるだろうが、広場と室内では距離が遠く連携が取れないから無理だ。
トレニアとたわいも無い話をしていると、腰に剣をつけ今すぐにでも戦える準備が万全という姿をした背の高い男が3人と聖術師をまとめる役割の大臣が、少し早足でこちらへ歩いてきているのが見えた。
通り過ぎて行くのだろうと思ったら、私達の目的である聖堂の扉の前で彼らは止まる。
そして、大臣が私達のほうへ向かって呼びかける。
「昼担当の者達は朝担当と交代する前に話があるから、私のところへ集まるように伝達してくれ。」
そう言うと、扉を開けて中へ入っていった。
朝担当の人たちが歌う中、私達昼担当と背の高い3人の男と大臣が聖堂の端に集まった。
大臣が中央に立ち、その後ろに3人の男が並び、その向かい側に昼担当の人たちがいる。
昼の担当は合計10人、向かい合っている男3人より人数は多いけど、3人がかもし出す怖い雰囲気に
私達は飲まれていた。怖いというのは顔ではなく、戦い慣れしている雰囲気が怖い。
彼らはきっと、いや確実に日々戦いに身をおいているのだろう。
城の中央で守られて歌を歌っている私達には刺激が強すぎるのだ。
「この10名を推薦するが、どうかな。」
大臣が振り返り、3人に尋ねる。
真ん中にいた人が代表で話す。
「来てくれるだけで、万々歳ですよ。時間が無いから、すぐに戻りたいのですが、いいですか?」
大臣は頷き、私たちに向き直る。
「君達はラナン塔へ配備されることに決まった。急ではあるが、すぐにここを発ってもらう。
3時間後に荷物をまとめて、またこの場所へ戻ってくるように。」
大臣は私達に行けという風に、右手を振ると。朝担当の聖術師の元へ向かった。
私達はしばらく唖然として意味も無く大臣の向かって行った方を見ていたが
3人の内の1人が話し始めたので、そちらを向く。
一番右側にいる、一番背が高く、固い顔をしている人だ。
「俺達はラナン塔に配備されている、第三騎士団の者だ。
お前達には不運だろうが、まあ、国のためだと思ってあきらめてくれ。」
それから、私達はのろのろと自分の部屋へ戻り、よく頭の整理が出来ないまま
必要だと思うものをカバンに詰め込む。
同部屋のトレニアは彼氏に別れの言葉を言うことが出来ないなぁ、と呆然と窓の外を見ながら呟いていた。ラナン塔に配備されると言う事は、数年で戻ってこれるわけが無いと言う事。
こことラナン塔では遠すぎて、会いに戻ってくることも出来ない。
恋人ではなく、家族がいる場合、希望者はラナン塔が立っている町へ国が住まいを設けてくれる。
私には恋人がいないため、トレニアの悲しさは分からなかったが、少しでも心を慰めるため
後ろからそっと抱きついた。トレニアも抱きしめ返してくれた。
それから3時間後、私達はこの都市から旅立った。
ラナン塔へは馬車で向かったが、その中で騎士達が今回の緊急配備について何があったのかを教えてくれた。
聖術師という呪いを跳ね除ける存在は、実はラナン塔にも前から10名ほど配備されていたのだ。
戦いの最前線であるため、年を重ねた経験豊かなものが居た筈なのだが、どうやら全員
魔族に殺されてしまったらしい。
その将来自分の身にも起こりうる事実にぞっとしたが、ふと疑問が湧く。
聖術師は戦いに参加することなく、塔の中で守られて歌を歌っているのではないのか。
だとしたら、城の中にまで攻め入られるような戦況で、ラナン塔は危うい状態なのか。
騎士はその事は否定してくれた。ラナン塔は十分、壁の役割を果たしているようだ。
ではなぜ、聖術師が皆、死に至るような事態となったのかというと、魔族が戦い方を変えてきたからだそうだ。
聖術師の一人が城壁の向こう側、魔族がいる外側で泣いている子供を見つけたことから始まった。
その子供を見つけた聖術師はあわてて保護に向かい、その子を連れて、仲間の元へ戻っていくと
その子供が急に奇声を発して、おぞましい姿、魔族へと変わったのだ。
どうやら、その子供はボールか何かを取りに無断で壁の向こう側へおりて、魔族に体をのっとられたらしい。
騎士が異常を感じて、駆けつけ、魔族を倒した時には聖術師は全員殺されていた。
その魔族の奇襲を受けた際に、一人の聖術師が塔の中から高く投げ出され、外で待機していた
魔族に連れ去られようとしたらしい。それは、第三騎士団隊長が阻止したらしいが、その聖術師は高く投げ出された時点で死んでいたようだ。
やつらの狙いは聖術師へ移っているから、気をつけるようにと言われ、話は終わった。
1週間かけてラナン塔へたどり着くことが出来たのだけれど、移動手段を馬車に変え、船に変え、荒い地を歩いたりで、歌う為の体力をつけるために運動はしていたが、それ以外の筋肉をつける努力はしていない聖術師の10人はヘトヘトとなっていた。
だけど、たどり着いたラナン塔の様子を見ると、疲れたからと言って布団に転がって休んでいい状態ではないことはすぐに分かった。
ラナン塔にいた10人の聖術師が死んでから、おそらく約2週間、それから呪いを跳ね除ける歌がないためだろう、空は昼間なのに暗く、紺と緑の斑に染まり、空気はどんよりしていて、腐ったようなにおいが充満している。
私が今いる聖術師のグループのリーダーであるラークスが、青ざめた顔をしながらも皆をまとめる。
「3班に別れ、昼の班はすぐに聖堂で聖歌を。夜の班はすぐに休憩。朝の班は全員の荷物を整理してくれ。以上、皆頑張ろう。」
そう言うと、ラークスはラナン塔の責任者に会いに行った。
私は昼の班だったので騎士の人の案内で聖堂へ向かう。
聖堂へ向かう途中、騎士の団体とすれ違った。
先頭にいたのは、銀髪と紫の瞳をした綺麗な男の人だった。
綺麗といったが、それは歩き方とか雰囲気が綺麗であって、女の人のようだと言う事ではない。
むしろ、高い身長に切れ長の瞳、鍛え抜かれた体をもっていて、女性達を魅了するような容姿をしている。
上から下まで黒色で所々に銀の刺繍が入っている重々しい軍服を着て、肩甲骨くらいまでの長い銀髪はくくらずに背中に流している。
すれ違う時、私達を案内していた騎士が、彼に声をかける。
「隊長。また出るのですか?少しは休んだらいかがですか。聖術師の人たちも到着したことですし。」
こちらを指差した男につられて、彼は私達の方へだるそうに視線を向ける。
「俺の勝手だ。」
私達への興味はまったく無いのだろう。視線はそのまま通り過ぎた。
聖堂には呪いの進行がひどい人たち、騎士も村人もたくさん集まっていた。
1回の歌では直らないだろうけど、呪いによる死人はまだ出ていなくてほっとした。
旅の疲れと、何とかしなければならないという必死さで時間の流れも分からないまま、ただ歌うことに集中していると、時間はあっという間に過ぎ去り、夜の班へ交代する時間となった。
夜の班にはトレニアがいて、交代する時に、また一緒の部屋よ。そのままだと汗臭くなるから体は洗ってから寝てよね。なんて、冗談交じりに笑って言われた。
洗い場で汗を流し、宛がわれた部屋に戻り、体力・気力回復のため、荷物の整理もせず、朝の班が整えてくれたのだろう布団にすぐにもぐりこみ、5秒と待たずに寝入ってしまった。
今まで住んでいた都市は、夜になるとシンと静まりかえり、耳を澄ませば虫の鳴らす綺麗な音が時々聞こえてくるという穏やかな夜だった。
でもラナン塔は夜だからといって、魔族の攻撃がやむわけも無く、戦いの生々しい音が聞こえる。
それでも、今日の私は疲れきっていて、遠くで聞こえる戦いの音に反応して起きれるような状態でもなかったし、仲間の数名が怖くてこれからの事が心配で眠れない人も居たようだけれど私はぐっすり寝入っていた、のどの渇きによって、夜中にふと眼が覚めるまでは。
瓶に入った水を飲んでも、渇きが収まらず、無いと思うともっと欲しくなった。
私が今いるのは塔の5階で、3階に食堂がある。
そこの食堂に水がめがあり、毎朝、騎士の人たちがためてくれると言う話だった。
このままだとしばらく眠れそうに無いとそうそうに決断した私は瓶を持ち、食堂を目指す。
食堂は300人ぐらい、いっせいに食事が出来るほど広く作られているため、夜中に一人でいるのは
正直怖い。少し早足で水がめまで行くと、すぐに瓶へ移す。
水を見ていると、このまま戻って飲み足りなくて、また戻ってくるのは嫌だなと思い。
ここで少し飲んでから、帰ることにした。
でも、怖いから、水がめの横に座り込んで、隠れるようにして水を飲む。
さて、戻ろうかと少し腰を上げると、食堂のドアが開く音がした。
私はその人の姿は見えないし、相手からも私の姿は見えないはずだ。
私のほうは何の音も立ててないはずなのに、入ってきた人はどうやら気配に気付いたようだ。
すごい。
「・・誰だ。」
低い声で、敵対心あらわに尋ねられると、ひやりとする。
すぐに立ち上がり、怪しいものではないと主張した。
「わ、私です!」
変な答えになってしまったが、何でもいいから何か言って、警戒をといてもらいたかった。
現に、相手を見ると短剣を抜いていた。
恐ろしい、抜く音なんてしなかったのに。
「誰だ。」
眉根を寄せて睨みつけられたけど、剣は鞘に収めてくれた。助かった。
「今日ここへ来た聖術師です。はい。水が飲みたかったので、ここに来ました。」
瓶を右手に持ちあげ、左手は手のひらを相手に向け、完全無害ですよとアピールする。
男の人はふらふらとした足取りで、此方へ向かってくる。
目の前まで来て、やはりと確信するが、昼間すれ違った銀髪の人だ。
この人も水を飲みに来たらしく、水がめの前にいる私を、無言で押しのけ、近くにあるコップを使って水を飲み始めた。
私に対する興味を失ったことを確信すると、出来るだけ物音を立てないように、そろりそろりと
扉へ足を進める。
扉に手をかけ、そういえばあの銀髪の人、隊長って言われてたなと思い出す。
と言う事は偉い人だ。偉い人には一言挨拶して退出するべきなのかと一瞬迷う。
だけど、恐怖が勝り。機嫌悪そうだし、言っても無視されそうだ、いや逆に迷惑になる、そうだそうだと自分で納得して、扉を開けようと力をこめた時、後ろで机と椅子が音を立て、何かが倒れる音がする。
振り向くと、銀髪の人が頭を抱えて、床に倒れこみ苦しんでいた。
私はすぐに駆けつけ、瓶を近くの床に置くと、銀髪の人の頭を抱え込む。
振り向いた時、遠目から見ても、この人の周りに緑色のもやが出来て、呪いの進行がひどいことが明らかだったからだ。
顔色は真っ青になり、眉根をよせ、目も開けられないようだ。
銀髪を耳にかけ、此方へ向ける。呪いがひどい人に効くもっともいい方法は、直接聖歌を叩き込むことだ。
鼓膜を傷つけないように、囁くように、でも聖なる力はいっぱい込めて歌う。
途中に休み休み、床に置いた瓶から水を飲みつつ2時間ほど歌っただろうか
気付くと、銀髪の人は私の腰に腕を回し、眠ってしまったようだ。
彼は昼間とは違い、生成り色の簡易な服とこげ茶のズボンとブーツを履いていた。
その首元にはペンダントをしていて、手にとって見てみると、どうやら呪いをよけるためのものだった。
昼間はそれで抑えられるだろうけど、夜は魔族の力が強まり、先ほどのように苦しむ日々だったはず。
昼間もこのペンダントがあるからと言って、体と心の痛みから解放されるわけではなく軽減されるのみで、しかも、呪いは日に日に体と精神を蝕んでいく。
よく今日まで耐えたものだ。
このペンダントはもう使い物にならない。
呪い負けしてボロボロになっていた。先ほど壊れてしまったのだろう。
床に置いた瓶から一口水を飲み、また歌い始める。
この頑張っている人の痛みが和らぐように、銀の髪をなで、そう願いながら歌う。
朝日が昇る前に銀の髪の人は目覚めた。
頭をなでていた手をとられ、その手から私の顔までめぐるように視線が動き。
眼と眼があう。
そのとき、私は掴まれている左手が咎められているような思いに囚われ、なぜ頭までなでた自分!!と心の中で責めた。
銀髪の人は体を起こすと、私を痛いくらいギュッと抱きしめてきた。
圧死される!
口を開き懇願しようとすると。
低い声が耳元で聞こえた。
「名前は。」
殺す前に、相手の名前を聞くタイプですかそうですか。
「違うんです。とっさに。
いえ、意味は無いんですよ。
本当に、信じてください。
ごめんなさい。」
そう私が混乱ぎみに言うと、銀髪の人は、少し体を離してくれた、手は私の体に回したままだったが。
苦笑したような顔で、私の顔を覗き込んできた。
「お前、何言ってんの?
名前だよ、お前の名前。俺の名前はアギ・ストレプト。一応、第三隊長。」
そう言うと、彼、アギ隊長は立ち上がり。
首にある壊れたペンダントを見ると
「くそっ。役にたたねえ。」
そう言って、そのペンダントを食堂の隅にあるゴミ箱に捨てた。
扉のほうへ行くからそのまま出て行くのかと思ったら、扉の前で振り向き
「おい、名前は。さっさと言えよ。」
少し眉根をよせ、低い声で言われたので、焦り気味に答える。
「ルア・スターチス。」
私の言葉をきくと、アギ隊長はいたずらっぽく笑い。
「またな、ルア。」
そう言って、出て行った。
部屋へ戻り、夜通し力を使ったせいか、交代のために起こされるまでぐっすりだった。
昼の班の仕事をきっちり終えて、夜の班と交代すると体を洗いに行く。
その帰り道に前日のようなことが無いように、食堂へ寄り、瓶へ水をいっぱいまで入れて
部屋へ戻る。
と、5階にある数ある中の1室の前に、アギ隊長が腕を組んで仁王立ちしていた。
その部屋は私とトレニアの部屋だ。
私が気付く前にアギ隊長は此方に気付いていたらしく、ニヤリと笑っていた。
そんなアギ隊長の前まで、私は気分が重くのろのろと進み、彼の前まで来ると頭を下げる。
「昨日は大変申し訳ありませんでした。」
昨日の頭をなでるという行為を後悔していたため、ついうっかり出た言葉だ。
「はあ?良くわかんねぇけど。行くぞ。」
アギ隊長は私の言葉を深く探ろうとはせず、私の右腕をとって、歩き始める。
あわてたのは私。
「え!?ど、どこへ。」
「俺の部屋。」
「は!?」
私の疑問をこめた声を聞くと。
私の右腕を引き、顔を近づけ、そして睨みつけてきた。恐ろしい!
「お前が俺を救ったんだろ!ちゃんと最後まで責任取れ。ほら、いくぞ。」
引っ張られていった先は1階にある隊長室。他の部屋は1部屋しかないけど、
隊長室は2部屋あり。ひとつは会議と仕事部屋で、奥にあるもう一つの部屋が私室となっていた。
普通より少し大きなベットに言われるままにちょこんと座ると
座った私の膝を枕にして、アギ隊長が横になる。
ふと我に帰ると、この体制はすごく恥ずかしいのではないか。
うーんとうなって考え事をしていると、下から見上げられ、歌は。といわれたので
羞恥心はいったん脇において、これは治療これは治療、と自分に言い聞かせた。
今日も日が昇る前に隊長は目を覚まし、私がいるというのに服を着替え
戦いに出る支度を整えている。
じっと見ていた私の目線に気付いた隊長は、ふっと笑い。
「そのベットで寝ろ。」
と命令してきた。
え、と呆然としてその言葉の意味を処理している間に、アギ隊長は部屋から出て行った。
そんなことを言われてもそのままベットを使うわけにも行かず、私は自室へ戻り
すぐに眠った。
そしてそれからなぜか、私は毎晩アギ隊長の部屋で膝枕をしながら歌を歌うこととなった。
まあ、重度の呪いを受けている状態だから、治療するのは別にかまわないけど
それなら朝も昼間も大人しくして、治療を受けて下さいといったら
戦いは止められないとのこと。
一度、塔の窓から、遠くでこの人が戦っている姿を見たけれど
一番に敵の真ん中に突っ込んでいくのを見ると、正気を疑った。
みんなのために戦ってくれていると思っていたけど、この人はただ単に戦闘狂いなのかもしれない。
一番初めにあった時、歩く姿や雰囲気が綺麗だと思ったけれど、戦う姿も綺麗で強い。
この人が怖がりもせず、一番に突撃して、なおかつ圧倒的な強さを見せるから、他の騎士達も怖気づくことなく、敵に向かっていくことが出来るのだろうなと思う。
第3隊は個々の能力が高く、個人プレーで敵を倒していくのに対し、第4隊は3隊のサポートに周り、チームを組んで確実に敵を倒し、3隊の援護もこなすという、上手い戦闘隊形がとれていた。
でも、やっぱり皆が到着する前に敵のど真ん中に突っ込んでいくやり方は賛成できないし、見ていて怖い。
「せめて、周りの準備が整ってからにしてはどうですか?」
そういうと、私の膝を枕にして、横になっている人は
私の頬に手を伸ばし、数度なでてくる。
きっと顔が赤くなってるはず、熱い。
そんな私を見て、彼は子供のように笑った。
「考えとく。」