第1話 再生回数は常に「0」
「はいどうもー、マックスありさわでーす。今日はいっぱい悪い子したのでお父さんに怒られてまーす。これからごめんなさいしようと思いまーす。はい、ごめんなさいねー」
父親は俺からの謝罪を聞いて本気でブチ切れて当時4歳の俺の頭を殴ったが、それでも『勃起する位』楽しいYouTuberになれた気がした方が重要だった。
火山が大噴火して怒声によるお説教が始まるがそんなのどうでもいい。YouTuberたるものどんな事でも動画のネタにする器量の高さを示さないとやってられない。そうだろ?
どんなにつらい目に遭っても、それこそ「交通事故に巻き込まれて全治1ヶ月の重傷を負ったとしても、コイツはYouTubeの動画のネタになるな」って思えれば『幸福な事』なんだ。
「本日の動画は以上となりまーす。この動画が良いなと思った方は、チャンネル登録と高評価を是非よろしくお願い致しまーす」
それを証明するために火山が落ち着いた頃にそう言ったら再び大噴火、怒鳴られるだけでなく更に蹴られた。
幼い、それこそ4歳のころから俺がYouTuberの真似をするたびに両親からは嫌な顔をされたが、そんなのは一々気にしていなかった。どこまでも平凡な彼らの意見なんて参考にならないからだ。
親は頭が固いから、YouTuberの良さは分からないんだ。
ヒカキン、はじめしゃちょー、そしてマックスむらい。彼らは「YouTuber」と呼ばれている。
俺、有沢 修也には彼らは野球少年にとっての大谷翔平のような、燦然と輝くヒーローだ。
ただただひたすらにカッコよくて、キラキラ輝いていて、人生を心の底から楽しんでいる成功者。そんなヒーローになりたい! と子供のころから思っていた。
彼らYouTuberの動画を見ていると、あまりにも楽しすぎて『思わず勃起してしまう』程だった。
「はいどうもー、マックスありさわでーす。今日は友達と一緒に漫才しようと思いまーす」
小学生の頃からキッズケータイの動画撮影機能で動画を撮っては友達と見せ合って遊んでいた。
それは最高に面白くて「毎日動画を撮れるYouTuber」っていう仕事は、こんなにも楽しい事が毎日毎日できるだなんて!! それこそ「天国そのもの」な仕事だと確信していた。
こんなにも楽しい事をし放題な上にお金までもらえるなんて! あまりにも条件が良すぎて何か裏があるのかを疑ってしまいたくなるくらいだ。
俺にとってYouTuberという仕事は「天命」だ。俺はYouTuberになるためにこの世に生を受けた、と言える位に夢中になれる事だった。
本を愛しているのなら古本の匂いを嗅いだだけで『イキそうに』なる。それと同じように俺にとってYouTubeは『考えただけで思わず勃起する』位愛している物だ。
「修也! 動画ばかり撮ってないで真面目に勉強しろ! YouTuberなんて遊んでるだけで、あんなの仕事じゃないに決まってるだろ!」
「じゃあYouTuberになるのを諦めたら10億円もらえるの? 俺はYouTuberって仕事は10億円以上の価値はあると思ってるので絶対諦めないね」
「!!!!!」
ブチキレた父親に殴られたがそれでも意志は曲げなかった。
中学や高校での進路相談ではもちろん迷うことなく将来は「YouTuber」になると断言したが親も先生も猛反発で、将来の進路で散々揉めた。
「仮にYouTuberになったとして、50年以上毎日3食ご飯を食べ続ける事が出来るの!?」
「結婚することになったら奥さんが死ぬまで養い続ける事は出来るのか!? 子供が出来たら子供が高校や大学に行く費用はどうやって貯めるんだ!? 子供に『お父さんはYouTuberです』と言わせる事になって恥ずかしくならないのか!?」
別に必ず結婚しなくちゃいけない法律があるわけじゃないし、つまらない仕事をし続けて人生を終えるのは嫌だ。
例えお金があっても「お金があるだけ」の人生で、やりがいがなきゃ生きている実感がわかない。そういうもんだろ?
「お金の問題じゃない、ハートの問題なんだ。お金さえあれば幸せなの? そうじゃないでしょ? 嫌いな事をやって金持ちになる位なら貧乏でもいいから好きな事をやっていきたいんだ!」
「カネが無きゃ電気もガスも水道も使えないんだぞ!? 家に住むにも家賃や税金がかかる! もちろん食費だってそうだ! 現実問題としてカネが無きゃ生活できないんだぞ!? 分かってるのか!?」
「そんな自分たち親の都合を子供に押し付けるのは良くないよ」
「「お前こそ自分の都合を親に押し付けるな!」」
終始こんな状態で、進路の話になると「なぜか」毎回父親から殴られた。
結局大学だけは絶対に卒業しろ、と言われて仕方なく勉強して大学に行くことになった。
個人的には18歳になったらすぐプロのYouTuberになりたかったのだが、俺も譲歩したつもりだ。それに大学生YouTuberはありふれてるけど「若さ」をアピールできる肩書にもなるだろう。
俺にとってのYouTuberという仕事は理屈で説明できるものではない。ハートが震える、直感で伝わる、魂が揺さぶられる、遺伝子が躍動する、そんな「言葉では決して伝わらない何か」がある物だ。
「好きになるのに理由なんていらない」という言葉通り、俺にとってYouTuberは『思わず勃起してしまうほど本能的にただひたすら愛おしい』物であって、親には決してわかる物じゃない。
俺からしたら「いくら言っても言う事を聞かない」のは俺じゃなくてアンタ達親の方だろ?
YouTuberはこんなにも素晴らしい仕事なのに、何でその良さが分からないのか? 俺にとってはそれこそ「謎」だった。
そしてYouTubeにどっぷりと浸かったまま大学に進学し、上京して1人暮らしを始めたのを契機に高校生時代にバイトで貯めたお金で撮影キット一式を買い、YouTuberとしてデビューすることになった。
今思えば、これが全ての始まりだった。
……なぜだ? なぜなんだ?
『マックスありさわYouTuberデビュー! 大学で見かけた子猫を撮ってみた』
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なぜだ? なぜ見てくれないんだ?
『マックスありさわ「納豆風呂に入ってみた」』
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0、0、0! どいつもこいつも!
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何で誰も見てくれないんだ!? 何で!? 何でだよ!?
『ダブルマックスコラボ企画 「マックスたなか」との「スネハーモニカ」動画』
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いや、ちょっと待てよ。もしかして……。




