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第24章:遺物の灰(第3部)

I. 遺物の灰


「おい、庭師……!」  スタティック・ノイズの混じる声を振り絞り、シーザーが吠えた。  三つ目の腕輪が軋む音を立てる。シーザーはもはやエネルギーを制御しようとはしなかった。逆に、すべてを解き放ったのだ。自らの生命力、精神力のすべてを、壊れた遺物の中へと注ぎ込む。腕輪の裂け目から、目を焼くような白光が溢れ出した。


「遺物の暴走:破滅的共鳴 (アーティファクト・オーバーロード:カタストロフィック・レゾナンス)」


「――これでも、再生できるか試してみなッ!!」


 一瞬、白光が世界を飲み込んだ。  視界が戻った時、そこを支配していたのは静寂だった。巨大な**『ダリの長足駱駝』**の脚は跡形もなく消え去り、分子レベルで分解されていた。トレバー教授は無事だった。硝子化ガラスかしたアスファルトの円に囲まれ、胎児のように丸まって震えている。


 だが、その代償は絶対的だった。  シーザーの右首から、古の遺物が灰色の塵となって崩れ落ち、風にさらわれて消えた。彼の肌は焼けただれ、右腕の血管はことごとく破裂し、青白い肌の上に鮮血の地図を描き出していた。


「ハァ……ハァ……ッ」


 シーザーは止まらなかった。止まれなかった。もし今足を止めれば、電撃的なアドレナリンで無理やり動かしている心臓が、二度と打つことはないだろう。残された装填チャージはあと一回。魂の奥底に残された、最後の一火。


II. 決死の突撃 (スーサイド・チャージ)


 爆発に怯んで後退していた三十三体の巨人が咆哮を上げ、再び包囲網を狭める。だが、シーザーはもうそこにはいなかった。


 彼はぼやけた一筋の蒼い線と化した。  もはや技術などない。回避すらない。巨人の一体が骨の剣を振り下ろす。シーザーはそれを防がなかった。左肩を斬らせることでコンマ数秒を稼ぎ、懐へと潜り込む。別の巨人が彼を押し潰そうとするが、シーザーは己の肉体を弾丸プロジェクトに変え、静電気を纏って怪物の胴体を貫通した。


 返り血と樹液が彼に降り注ぐ。  遠くからそれを見ていたリックは、息を呑んだ。それは戦いではなかった。死に場所へと突き進みながら、墓掘り人を道連れにしようとする男の執念だった。


III. 深淵を前にして


 ついに包囲網を突破した。  目の前には、根で編まれた階段と玉座。そして、**紅の預言者くれないのよげんしゃ**が立ち上がった。  それは恐怖からではない。気高い獣の死を見届ける者が示す、奇妙な礼儀のようなものだった。


「死ねえええッ!!」


 シーザーが跳躍した。  体内に残ったすべての雷力、街のバッテリーから吸い上げたエネルギー、雲の静電気、そのすべてを右拳に凝縮させる。彼の腕はあまりに眩い光を放ち、自らの骨が透けて見えるほどだった。


「終焉の一撃:プラズマ特異点 (プラズマ・シンギュラリティ)」


 シーザーの拳が預言者の顔面を捉えようとする。距離が縮まる。一メートル。五十センチ。一センチ。  気圧が歪み、その衝撃は広場を地図から消し去るほどの威力を予感させた。


IV. 絶対的な否定


 ――パシッ。


 爆発は起きなかった。雷鳴も響かなかった。  ただ、肉と肉がぶつかる乾いた音だけがした。


 紅の預言者が左手を上げていた。  開いた掌で、シーザーの拳を真正面から受け止めたのだ。超音速の慣性を。数百万ボルトの雷を。旧時代のすべてを懸けた憎悪を。彼はその手一つで「停止」させた。


 シーザーの雷撃が預言者の体へと流れ出すが、彼を焼くことはない。預言者の血管が赤く輝き、そのエネルギーを吸収し、水を飲み込むかのように雷を飲み干していく。


「……これだけか?」  預言者が問う。その声に嘲笑はない。ただ、無限の落胆だけがあった。 「お前の嵐は騒がしい。だが、私の肉はそれを飲み干す大地なのだ」


 宙に浮いたまま、拳を預言者の掌に掴まれたシーザーは、敵の瞳を凝視した。その八つの瞳は、瞬き一つしていなかった。


V. 拒絶


「塵に還れ」


 紅の預言者が手首を返した。それは、ただ軽く押し出すだけの、些細な仕草だった。  だが、そこから生じた運動エネルギーは、常軌を逸していた。


 ――バキバキッ、メキッ!!


 シーザーの右腕が三箇所で叩き折られた。  彼の体は、列車に跳ねられた糸の切れた人形のように、後方へと吹き飛ばされた。広場を飛び越え、廃ビルの壁を突き破り、二枚目の壁さえも貫通し、かつて噴水だった瓦礫の山へと激突した。


 庭園に静寂が戻る。  シーザーはクレーターの中で、埃と血にまみれて横たわっていた。彼の蒼い光は完全に消えていた。  立ち上がろうとする指が土を掻く。だが、足はもう動かなかった。


 紅の預言者は、汚れたものに触れたかのように手を払うと、再び玉座に腰を下ろした。  その差は、力の強弱ではない。  存在の「次元」そのものが違っていた。

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