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第22章:雷鳴と沈黙の庭園(第3部)

I. 蒼き雷光の舞


 対話は決裂した。シーザーが地を蹴った瞬間、その姿は消失する。直後、彼が立っていたアスファルトは落雷に打たれたかのように爆ぜ、溶け出した。


「迅雷歩 (ライトニング・ステップ)」


 常人の目には捉えられぬ超速。戦場に蒼い残像が稲妻のごとく奔る。彼は一直線に**紅の預言者くれないのよげんしゃ**へと肉薄した。  だが、三十三体の朽ちた木の巨人が覚醒し、圧倒的な質量でシーザーを預言者の御前から叩き出そうと立ち塞がる。


 右腕の二つの腕輪が咆哮し、古き遺物である三つ目の腕輪が不規則な火花を放つ。シーザーが拳を振るうたび、プラズマの衝撃波が空間を震わせた。巨人の脚は熱したナイフでバターを切るが如く断たれ、別の巨人の胸部は過負荷により内側から爆ぜる。


「遅い、脆い……燃え尽きろッ!」


 シーザーは不敵に笑うが、その瞳に温度はない。雷光の鞭を振るい、巨大な黒虫の群れを蒸発させ、百足どもの甲殻を炭化させながら戦場を蹂躙する。その圧倒的な神威。震えるトレバー教授は、救いを確信したかのように涙を流した。 「……助かった、我々は助かったんだ」


II. 無限の再生


 だが、リックだけは気づいていた。シーザーがいかに敵を屠ろうとも、その数が一向に減っていないことに。  巨人の腕を吹き飛ばしても、断面から即座に新たな枝が芽吹き、骨を編むように元の姿へと復元する。炭化した百足は古い皮を脱ぎ捨て、より大きく、より凶暴に「羽化」する。


 紅の預言者の軍勢は個体ではない。彼らは「森」そのものなのだ。それは、一本の松明だけで広大な原生林を焼き尽くそうとする無謀な試みだった。


 シーザーの呼吸が乱れ始める。コールドスリープ明けの肉体には、この負荷はあまりに苛烈だった。さらに、右腕のひび割れた腕輪が不気味な赤熱を帯び始める。


III. 不動の真紅


 雑魚に構うのは無意味だ。シーザーは狙いを定めた。空中で急停止し、全雷力を右拳に凝縮する。


「極光穿孔 (ギガボルト・ドリル)」


 大気を引き裂く轟音と共に、シーザーは朽ちた玉座に座る紅の預言者へと特攻した。装甲戦車すら容易く貫く、必殺の刺突。  だが、預言者は動かない。避けることすらしない。ただ、酷く退屈そうに指先をわずかに動かした。


(爆発音:ドォォォン!)


 衝突の直前、玉座の下から巨大な根が噴き出し、難攻不落の壁となった。雷光が激突し、盲目的な閃光と地獄の熱が根を焼き焦がし、赤熱させる。だが、その壁を突き破り、間接的な電撃が預言者に届くのが精一杯だった。


IV. 絶望的な隔たり


 煙が晴れた時、シーザーは空中に静止していた。瞬時に再生する根の壁に拳を突き立てたまま、驚愕に目を見開いてその奥を見つめる。  紅の預言者は、依然として頬杖をついたまま、八つの瞳でシーザーを凝視していた。その瞳には、あくびを噛み殺しているかのような退屈さだけが宿っている。


「……騒がしい羽虫だ」


 刹那、根の壁から無数の棘が射出された。シーザーは反射的に回避したが、一本の棘が彼の頬を掠める。それは電気障壁を紙のように貫き、細い切り傷を残した。


 シーザーは喘ぎながら着地した。口元の血を拭う。彼の「絶対的な力」が、この男には届いていない。  三十三体の巨人が再び包囲網を狭める。地平線の向こうからは新たな「ダリのラクダ」たちが迫る。何より、紅の預言者からは微塵の「闘気」すら感じられなかった。


 シーザーは唇を噛み、壊れた腕輪を強く握りしめる。 「……面白い。目覚めの準備運動にしちゃあ、上出来すぎるだろ?」


 強がりの言葉とは裏腹に、彼の背中には冷たい汗が流れていた。これは戦争ではない。ただの処刑前の「余興」に過ぎなかったのだ。

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