第19章:黒き肉の福音(第3部)
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I. 庭園の嘲笑
炎は何も浄化しなかった。ただの肥料にしかならなかったのだ。 夜が明け、昨夜の灰の下にあったのは、焦げた大地ではなく新たな「芽」だった。それらは以前より太く、より黒く、露出した動脈のように湿ったリズムで脈打っていた。 『黒きユグドラシル』――あるいは禁じられた古文書にあるように『腐敗の母』と呼ばれるそれは、炎を飲み込み、今や怒りとともに成長していた。
リーク隊長は、タバコと血の混じった唾を吐き捨てた。 彼は5人の部下を見渡した。理性ある人類に残された、最後の防衛線だ。
「バンカーの図書室にあった古い文献に、こんなことが書いてあったな」
リークは重機関銃のマガジンを確認しながら、低い声で呟いた。
「『大地が黒い血を流す時、死者は生まれざる者を羨むだろう』……くだらない詩だと思っていたが、そうじゃなかったらしい」
リックはライフルのストラップを締め直した。 空気が重い。単なる悪臭ではない。頭蓋骨を内側から圧迫されるような、放射能漏れを起こした原子炉の近くにいるような感覚だ。
「外から焼くのが無理なら」
死に絶えた都市の中央にそびえ立つ、巨大な樹のシルエットを見上げながら、リックは言った。
「中から焼くしかない」
II. 封鎖区域:呼吸する都市
部隊は都市の廃墟へと進んだ。かつて鋼鉄とガラスでできていた摩天楼は、今や植物の筋肉に覆われた骸骨と化していた。
根は静止していない。動いているのだ。 地質学的な遅さで動きながら、骨が砕ける音を千倍に増幅したような音を立ててコンクリートを粉砕していた。右手のマンションが呻き声を上げて崩落した。重力のせいではない。列車ほどの太さの根が、それを粉になるまで絞め潰したからだ。
「隊列を維持しろ。物陰に注意せよ」
リークが命じた。
その時、それは始まった。現実が明滅したのだ。 一瞬、リックの視界から廃墟が消えた。そこには無傷の都市があり、目に花を咲かせた人々が笑顔で溢れていた。 再び瞬きをすると、灰色の地獄に戻った。
「見えたか?」
火炎放射器のスペシャリスト、『トーチ』が震える声で尋ねた。
「口を閉じてろ。花粉のせいだ。深く吸い込むな」
リークが一喝した。
アスファルトの亀裂からは樹液が湧き出していた。物理法則を無視した、黒く粘着質のある液体だ。それが泡立つ水たまりとなり、そこから「命」が既知の形態を模倣しようとしていた。 最初は顔のないタールのマネキンのような曖昧な形だった。やがて、グロテスクな細部が現れた。三つの顎を持つ犬、根と泥でできた子供……。
「接触!」
リックが叫んだ。 化け物たちが飛びかかってきた。走るのではない。滑るように、痙攣しながら、まるで映像のコマ送りのように消失しては近くに再出現した。 機関銃の銃声が静寂を切り裂いた。弾丸が黒い塊に命中し、粘着質の体液を撒き散らす。彼らは死ぬ時、叫び声を上げなかった。風船から空気が抜けるような、安堵の吐息を漏らすだけだった。
III. ムカデの上昇
血と炎の中を進み、今は根のクレーターと化した『殉教者の広場』にたどり着いた。 支援砲手のブリッグスが後方で側面を警戒していた。回転式ミニガンを抱えた、壁のように巨大な男だ。
「上方に動きあり」
無線からブリッグスの声が聞こえた。まるで水中で話しているかのように歪んでいた。
「ブリッグス、隊列に戻れ」
リックは寒さとは無関係の悪寒を感じながら命じた。
ブリッグスの足元の地面が爆発した。 根ではない。節足動物の悪夢だった。巨大なムカデだが、その脚は素早く、甲殻は硬く黒かった。 怪物は貨物列車のような速度で突撃した。鋭利な肋骨で形成されたその顎は、ブリッグスが引き金を引くよりも早く、彼の腰を挟み込んだ。 銃声よりも大きく、ブリッグスの背骨が砕ける音が響いた。
「ブリッグス!!」
リークが咆哮し、発砲した。 ムカデは戦おうとはしなかった。鼓膜から出血するほどの甲高い悲鳴を上げると、廃ビルの壁面をめまいがするほどの速度で駆け上がっていった。 ブリッグスはまだ生きていた。彼の絶叫は、咀嚼される湿った音と混じり合いながら、灰色の空へと遠ざかっていった。
「助けてくれ! 畜生、食われて……!」
通信はゴボゴボという音とともに途絶えた。 チームは恐怖で凍りつき、上を見上げた。高さ50メートル地点で、獣は獲物を固定するために一瞬止まった。 そして、雨が降り始めた。 最初に落ちてきたのは、ひしゃげたミニガン。次に、まだ足が入ったままの重いブーツ。最後に、生温かい赤い雨が部隊のヘルメットに降り注ぎ、灰と混じり合った。
リックはバイザーについた仲間の血を拭った。手は震えていたが、ライフルを握る力は強くなった。
「もう6人じゃない」
リックは、リークでさえ恐怖を感じるほどの冷徹さで言った。
「あの忌々しい樹を燃やすぞ。俺たちが全員殺される前にな」




