第19章:神の剣士団(第2部)
極寒の風が奏でる、終わりの旋律。 声にならぬ問いかけは、白い闇へと吸い込まれていく。 これは、答えのない祈りを捧げた、名もなき兵隊たちの鎮魂歌。
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エミリーは私に自分の装備の一部とナイフを渡した。私はそのナイフをクリスタルに譲った。彼女にはそれが必要になるだろうから。
「ちゃんと食料を持って帰ってきなさいよ、この『化け物』。さもないと、あんたを殺すのは私になるからね」エミリーは自分の物を貸すのが不服そうだった。
タイラーが呟いた。「……嫌な予感がするな」
私たちは準備を整えた。 借り物の防寒着を10枚重ね着しても、この冷気を防ぐには不十分だった。顔まで完全に覆い隠す。
猛吹雪の中、私たちは出発した。廃墟の影に隠れながら進む。一刻の猶予もない。もう誰も死なせはしない。どんな代償を払ってでも、この悲惨な運命を変えてみせる。もううんざりだ。今回こそは行動する。今回こそは運命に笑いかけ、この不運をねじ伏せてやる。
凍てつく空気を吸うことすら困難だった……。
建物の影を縫うようにして最初の通りを渡る。 雪は膝まで積もっていた。長く困難な旅になることは明らかだった。
数時間、雪の中を歩き続けた。鼻も唇も凍りついて感覚がない。だが構わない。灰が私の傷を癒やすだろう。鉛の兵隊のように、運命を乗り越えるまで進み続けるだけだ。
不思議なことに、クリスタルは環境に適応していた。衣服についた氷は結晶化しているが、彼女は全く苦にする様子がない。極寒の地で洗礼を受けた者であることは明らかだった。暗闇や凍える死の中でも、死神は彼女に借りを求めないようだ。彼女の瞳には、この世のものではない何かが宿っていた。
風、風、そして凄まじい暴風。
立っていることさえできず、出発から4時間後、私たちはある廃墟に逃げ込んだ。火を熾し、わずかな食料を口にする。目的地まであとどれくらいかかるだろうか?
焚き火にかじかんだ手をかざすと、安堵感が広がった。
クリスタルは無言で私を見ていた。物思いに耽っているようだが、言葉は発しない。ただ炎の熱を受け入れているだけだ。
休息を取りたかったが、それは許されなかった。氷がそれを許さない。頭痛と寒さによる痛みが絶え間なく続く。「氷は眠りを許さず、眠る者は二度と目覚めない」
一時間ほど暖を取ると、嵐はかなり弱まった。それでも時折、予測不能な寒風が吹き荒れる。
私は迷わずクリスタルに出発を促した。一秒たりとも待ちたくなかった。運命の不幸を受け入れる理由などない。勝つつもりだった。私のせいで誰かが死ぬのはもう御免だ。義務感と守護の意志が、強固な信念へと変わっていく。
さらに4時間歩いたが、再び休息を余儀なくされた。風圧が強すぎたし、光が消えかけ、視界が奪われ始めていたからだ。私たちはまた別のビルに避難した。
再び火を熾す。このペースでは薪がすぐに尽きてしまうだろう。 氷に耐えながら一日を過ごし、夜に食事を摂った。だが、何かが忍び寄っていた。翌朝、まだ薄暗い中、私もクリスタルも眠らずに警戒していた。
吹雪の向こう、わずか数メートルの地平線から、狼たちが現れた。飢えに狂った群れだ。風に乗って私たちの食料の匂いを嗅ぎつけたらしい。
クリスタルは短く言った。
「覚悟はいい? 大事なのはそれだけよ」
野獣たちの絶望的な顎が激しく唸る。寒風の音でさえ、飢えた獣たちが放つ恐怖をかき消すことはできなかった。
クリスタルは、エミリーが渋々貸してくれたナイフを抜いた。
私の目は獣たちを捉えていた。心臓の鼓動は制御できている。
最初の一匹が私に飛びかかってきたが、クリスタルが一閃の下にその喉を掻き切った。残りの狼たちは危険を察知し、クリスタルの凍てつくような眼差しに怯んだ。その圧倒的な存在感に押され、彼らは逃げ去った。
狼の死体からは熱が立ち上っていた。その微かな熱の粒子が肌に感じられ、「奇妙な安らぎ」を覚えた。
クリスタルは無駄な時間をかけず、狼を解体し始めた……。
どこでそんな技術を覚えたのかと尋ねた。
彼女は答えた。全てが始まる前、核戦争の前、リヴァイアサンが現れる前、まだ国境があった時代のことだ。彼女はまだ幼く、極寒の国に住んでいた。そこでは雪の中に隠された罠にかかった動物だけが唯一の食料源であり、解体はごく日常的なことだったという。
雪の中へ進もうとしたその時、遠くに松明の明かりが見えた。
「クリスタルが私を見て、私より先に気づいた」
「……猟犬だわ……雪の中で追い詰められたわね」
「坊や……今日死ぬ覚悟はできてる?」彼女の冷たい言葉は、攻撃的で哀愁を帯びたチェロの旋律のように私の心に染み込んだ。雪の中で彼女の瞳が輝く。鮮烈な青色だ。彼女はいつ死んでもいいという覚悟を決めていた。その立ち姿と決意は、まるで神風を背に受けているかのようだった。
軽装鎧に分厚いマント、動物の毛皮を身に纏った男たち。
肉を殺す異界の雪が、私たちを支配していた。
雪原に血が流れ、抽象画のように白いキャンバスを染め、落ちる前に凍りつくのだろう。
加勢しようとしたが、彼女は手で私を制した。「下がってて、貴方はただの子供よ」
クリスタルは通りの中央に出た。決闘だ。私を守るために、注意を逸らそうとしているのだ。
猟犬たちが位置につく。雪の中の影から矢が放たれた。クリスタルは空中でナイフを一閃させ、それを叩き落とした。完璧な技だ。
彼女は手を挙げ、彼らを挑発した。口笛を一つ吹く。この女の目に恐怖はない。
雪の影から騎士たちが姿を現した。両刃の長剣。一人が大剣を抜き放ち、鞘を誰も支えることなく地面に落とした。一人の兵士が挑戦を受けたのだ。
言葉はいらない。
死の舞踏の中で、武器が交差する。
「私たちは『神の剣士団』の探索部隊に見つかったのだ」
彼らが位置を知らせれば、増援が来て私たちを殺すのは時間の問題だ。
クリスタルに恐れはなかった。
大剣が彼女を襲うが、彼女は山猫のように雪の上を動いた。その足取りは速く、雪の上を滑るように避ける。クリスタルは接近を試みるが、この兵士は只者ではない。極めて熟練している。
ただの狩猟ナイフでは間合いに入れない。兵士は大剣で完璧な距離を保っている。クリスタルに勝機はないように見えた。出るべきか迷う。私のせいで死ぬのか? 彼女が何をすべきか分かっていることを祈るしかなかった……。
クリスタルは大剣の広範囲な斬撃を紙一重でかわした。髪をかすめるほどの一撃だ。彼女は完璧なカウンターを入れたが、その剣士の毛皮の下には鎧があり、急所を守っていた。クリスタルは背後から刺そうとしたが、剣士は反射的に左手からレイピア(細剣)を抜き放った。クリスタルは大きく飛び退き、距離を取った。
この剣士は恐るべき使い手だ。二刀流。右手に大剣、左手にレイピア。片手で大剣を操る怪力の持ち主だ。
タイラーは正しかった。「スカイスクレイパーの少年たち」に太刀打ちできる相手ではない。
クリスタルは水平に近い角度で振るわれる大剣の遠距離攻撃に晒され、攻め込もうとすればレイピアが鋭い盾のように彼女の心臓を狙ってくる。
戦いは長引き、二人の体力は消耗し始めていた。
決定打を与えられず、二人は一時的に武器を下ろした。
「名はなんという?」剣士が尋ねた。
「クリスタル。貴方は? 挑戦者さん」
「クリストファー。『神の剣士団』夜警団の隊長だ……降伏するなら命は助けてやる」
「嘘つき。背中から私を殺す気でしょう……さあ、武器を……上げなさいよ……クソ野郎……」
クリスタルは寒さで震えていた。限界が近い。体が硬直してきている。
彼女は短剣を突きつけ、首を指した。戦いは終わらないという意思表示だ。
風に鎖鎌が唸る音が混じった。クリスタルは気づいた。次に何が起こるか見えた私は、助けに入ることを決意した。
寒さが骨まで凍らせても、彼女は決して降伏しないだろう。ならば私も退く理由はない。彼女の制止を無視して、私は姿を現した。戦うために。
隊長クリストファーは奥義を見せた。大剣とレイピアを超高速の突きで交差させる。だが、クリスタルには時間が別の速度で流れているようだった。
クリスタルは前腕を使ってレイピアを受け流した。血飛沫が雪に舞う。その赤い雫は、雪原を歩く赤い兵士たちを描いているようだった。
鎖鎌が猛スピードでクリスタルに迫る。それはレイピアで貫かれた彼女の左腕を狙っていた。クリスタルはそれを待っていたかのように、アクロバティックに回転して鎖を手首に巻き付け、強く引いた。クリストファーのガードが開く。すかさずクリストファーは大剣をクリスタルの顔面に振り下ろしたが、クリスタルは超人的な動きでナイフを使って衝撃を逸らした。刃は服を切り裂き、冷気が肌を晒す。
クリスタルは無防備になった……。
地面に触れたクリストファーの大剣を、彼女は右足で強く踏みつけた。
クリストファーは剣を引こうとしたが一瞬遅れた。クリスタルは慣性で回転する鎖鎌の軌道を変え、クリストファーの兜に直撃させた。兜が吹き飛び、クリストファーはよろめいて後退した。レイピアがクリスタルの傷口から滑り抜け、鮮血が再び純白の雪を汚した。
闇に潜む兵士がクリスタルを引いた。クリスタルには抵抗する力がない。二つ目の鎖鎌が唸りを上げて襲いかかる。彼女は必死の防御でナイフを鎖に擦り合わせるが、鎖は彼女の軸に巻き付き、締め上げていく。万事休すかと思われたその時、彼女はナイフを捨て、空中で第二の凶器を右手で掴み、その慣性を強引に止めた。
だが彼女は衰弱しきっていた。膝をつき、地面に体重を預ける。戦闘の熱を持った温かい血が、冷たい地面に無駄に流れ落ち、凍りついていく。
それは、敵に圧倒された戦士が見せる、最後の防御姿勢だった。
ゆっくりと鎖に引かれる体に抗おうとするが、引きずられていく。鎖を外そうとするが力が入らない。失血が彼女を弱らせていた。もう見ていられなかった。
勝利を確信したクリストファーが剣を納めようとする。賽は投げられた……。
私は駆け抜けた。雪と風に紛れ、クリストファーは私の通過に気づかなかった。
盾と槍を持った兵士が、遠距離からクリスタルを処刑しようと構えていた。
私は鎖を強く踏みつけ、もう一方を素手で掴んだ。
背後から迫る私の気配に、クリストファーはクリスタルの首を刎ねようとしたが、クリスタルが倒れ込み、剣は彼女の髪をかすめただけだった。クリスタルは意識を失った。
彼の大剣が私の背中を貫き、その衝撃で体が浮き上がりそうになる……。
私は手を伸ばした。槍を掴まなければならない。
(クリスタルは薄れゆく意識の中で、白い雪景色に見た。自分を庇って二つに裂かれる人影を。最後の絶望的な瞬間に)
凍結と失血。血に入り込む冷気が、急速に彼女の命を奪っていく。死神が自分の所有物を要求している。
クリストファーの剣で体勢を崩されたが、私の手は槍に届いた。私の腕が二つに裂かれ、槍が私を貫き、クリスタルの首のわずか数センチ横に突き刺さった。
切断された私の腕から、即座に灰が噴き出した。死の顔が、灰と炎の中から浮かび上がる。
クリストファーは呟いた。「悪魔……」何度も繰り返す。
彼は私の腹から剣を離した。私はそれを自ら引き抜き、握りしめた。私の足元の雪が溶けていく。私はクリスタルを縛る鎖を引きちぎった。
クリストファーは逃げ出した。残りの勇敢な兵士たちは、狂信者のように今日ここで死ぬ覚悟を決めていた。私も同じだ。彼らの時間を無駄にはさせない……。
『何故と問う』(Ask Why)
戦慄く戦の風が恐怖を運ぶ
The winds of war will terrify
此処にはもう流す涙も残っていない
We have no tears left here to cry
凍てついた時間が飛び去るのを見つめる
We watch the frozen minutes fly
迫り来る冷厳な終わりをただ待ちながら
Waiting for the end strict by
我らは天に「なぜ」と問う
We ask the heavens for a why
だが沈黙だけが唯一の答え
But silence is the sole reply
抱いた希望は干上がっていく
The hope we held begins to dry
この虚ろな空の下で
Underneath this hollow sky
信頼など我らは拒絶する
Trust is something we defy
もはや誰も頼ることはできない
On no one can we now rely
忠実な兵士たちが死にゆくを見る
Watch the loyal soldiers die
別れの言葉さえ言えぬまま
Without a chance to say goodbye
我らは天に「なぜ」と問う
We ask the heavens for a why
だが沈黙だけが唯一の答え
But silence is the sole reply
抱いた希望は干上がっていく
The hope we held begins to dry
この虚ろな空の下で
Underneath this hollow sky
だから目を閉じ、もう抗うな So
close your eyes and don't comply
凍てつく闇を身に受け入れよ
Let the freezing dark apply
最期の吐息、重い溜息
A final breath a heavy sigh
我らは虚空へと増幅していく
Into the void we amplify




