第15章:銀の背とセサルの墓(第2部)
【アルテミサ:クリスタルの救い手、光の預言者】
クリスタルを安定させると、私はすぐに動いた。
セサルの墓を求めて都市へ潜入するため、我々は山で五日間、資源の収集に費やした。薪、氷、そしてありったけの食料だ。
雪に覆われた地面の特定の場所を掘り返す。凍土を砕く音が、乾いたリズムを刻む。私の指が、雪の下に保存しておいた凍った獣肉を引きずり出した。
夜の闇が迫る中、焚き火を熾す。
パチパチと爆ぜる薪の音。そして、冷たく張り詰めた空気の中に、肉が焼ける香ばしい匂いが漂い始めた。それは生の香りであり、死の香りでもあった。私は一睡もせず、全員のために肉を焼き続けた。
皆が食べた。だが、クリスタルだけは岩に背を預け、座ったままだった。
その瞳はここにはない「どこか」を見つめていた。彼女の脳内では、数え切れないほどの問いが渦巻いているのだろう。
やがて彼女は眠りに落ちた。しかし、安らぎは訪れなかった。
閉じられた瞼の裏でも、彼女の眼球は激しく動いていた。夢の中でも、覚醒していても、彼女の「視界」は止まることなく襲い続けている。ノイズ、グリッチ、未来の断片……それらが彼女の精神を蝕んでいるのだ。
翌朝、私たちは山を下りる準備をした。食料の調達、そしてセサルの「水晶の棺」の状態を確認するためだ。
下山すると、私の狼の群れが出迎えてくれた。
彼らの喉が低く鳴る。レヴィアタンの都市の入り口で、彼らは足を止めた。野生の獣たちは本能で理解していたのだ。この都市が、死と呪いに満ちた場所であることを。彼らは同行を拒否した。
私たちは歩き出した。アルテミサ、ジューン、ジャナ、アンキロ、そしてクリスタル。
瓦礫を踏む音が、静寂な廃墟に響く。
クリスタルは弱々しく、方向感覚を失っていたが、それでも歩みを止めなかった。何もない平坦な空を見つめ、そこに存在するはずのない「何か」を目で追っている。
不幸な人々が密かに交易を行っている場所を通りかかった。
獣の皮を差し出し、わずかな肉と香辛料と交換する。ほんの少しだ。あと一日生き延びるためだけの量。すぐにまた狩りに出なければならないだろう。
物陰から、人々が私たちを見ていた。異質な存在感。恐怖に怯える目。
ヒソヒソという囁き声が、風に乗って聞こえてくる。
「……山から下りてきた……」
誰かが私に気づいた。抑えきれない興奮がその男を裏切った。「山の女神だ」と、彼の心が叫んでいるのが分かった。伝説を目撃したという興奮。
だが、時間を無駄にはできない。
クリスタルの足が止まった。もう限界だった。
私はため息をつき、姿を変えることにした。あまり好きではないが、彼女を置いていくわけにはいかない。
骨がきしむ音と共に、私は「銀の狼」へと変貌した。
彼女を私の銀色の毛皮の背に乗せ、レヴィアタンの荒廃した通りを進んでいく。
その時、背中で彼女が震える声で囁いた。
「……灰の怪物」
どこに!?
クリスタルが指をさした。都市の奥深く、遥か彼方を。
だが、そこには何もなかった。ただ風が吹き抜けるだけ。
クリスタルに何が起きているのか? きっとマザー・サターンだ。あの場所が彼女を壊したのだ。
日が暮れ、冷たい風と共に闇が私たちを包み込んだ。視界は徐々に濁っていく。
出発から18時間。私の背にクリスタルを乗せ、ついに私たちはセサルの墓にたどり着いた。
近づくと、ジャナが炎を灯した。
その明かりが、レヴィアタンの不運な中央広場を照らし出した。思い出したくもない、呪われた歴史が刻まれた場所。
「裏切り者セサル」
ジャナの炎が、地面の亀裂を照らす。かつてセサルがいた場所を。
もっと強く、できる限り明るく照らした。
だが、亀裂の中には誰もいなかった。
彼を封印していた水晶もなかった。何かがそこに置かれていた痕跡はあるが、セサルはいない。
何者かが……セサルを持ち去ったのだ。
「嫌な予感がする」
アリアナは二度と戻らないために去った……
セサルと彼の水晶の棺は消えた……
時間が経過していく。その重みが、一秒ごとに圧し掛かってくる。
これ以上悪くなりようがないと思ったその時だった。
クリスタルが消えていた。
彼女を追いかける幻視に導かれ、自分でも理解できない「何か」を探して。理屈ではなく、妄執に近い信仰に導かれ、彼女は闇へと消えた。
私はアンキロに命じた。「彼女を探せ!」
凍てつく風が呻き声を上げ、その中に不吉な囁きが混じった。
「……灰の獣……」
クリスタルは幻視を追って姿を消し、今、アンキロが夜の闇の中で彼女を捜索していた。
夜の底に取り残されたのは、ジャナ、ジューン、そして私、アルテミサだけだった。
(著者注)
ここまで読んでいただきありがとうございます! 第13章の激闘から一転、新たな謎が動き出しました。 クリスタルの運命、そして消えたセサル……物語はここからさらに加速します。
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