第10章:摩天楼の少年たちと、欲望の地図(第2部)
【祝!読者70名突破 & 2話一挙公開】
親愛なる読者の皆様へ。
本日は2話連続で更新します! そして、物語のワンシーンを描いた新しいコンセプトアートもお届けします。
【感謝のメッセージ】 おかげさまで、読者数が70名を超えました! 皆様の熱い応援のおかげで、SFジャンルの「日間ランキング Top 20」入りが、現実的な目標として見えてきました。
この結果はすべて、数ある星の数ほどの物語の中から、私を「選んでくれた」あなたのおかげです。 この景色を見せてくれて、本当にありがとうございます。 この借りは、最高の物語を書き続けることでお返しします。
まずは、今日の2話とイラストを楽しんでください!
夜が明けた。レヴィアタンの灰色の光が瓦礫の隙間から差し込む。 目を開けると、エミリーはすでに起きていた。コンクリートブロックの上に座り、不気味なほど機嫌が良い。
「調子はどうだ、エミリー?」凝り固まった筋肉を伸ばしながら尋ねた。
「最高よ、眠れる森の美女さん」
「いつから起きてたんだ?」
「私は街じゃ眠らないの、ゲオ。片目はいつも開けてるわ」
「何かあったのか?」
「別に、大したことはないわ。何人か嗅ぎ回ってたけどね。魚の匂いに釣られたんでしょう。まあ、ここは『まともな』人間が住む場所からは遠すぎるから、正面から襲ってくる度胸はないみたい。考えてはいるでしょうけど」
「盗むつもりか?」俺は身構えた。
「静かにしなさいよ、小僧! 聞こえるでしょ」彼女は鋭い笑みを浮かべて囁いた。「今、私のとっておきの『サイコパス顔』で睨みつけて、ビビらせてるところなんだから…… :) ほら、行ったわ」
確かに、影たちは退散していった。
「行ったな。増援を呼びに行ったのかもしれない」
「疑わしいわ。ここは無人地帯よ。私たちが立ち去った後の残飯を巡って、ネズミみたいに争うつもりなんでしょうね」
「そうか……こんな何もない場所でも危険なんだな」
「人間が二人以上息をしてる場所なら、どこだって危険よ、ゲオ。荷物をまとめて。もし奴らがヤケを起こして襲ってきたら面倒だわ。私は弾切れだし、あんたも今日は誰かのケツを蹴り上げる気分じゃなさそうだしね」
素早く荷造りをした。燻製にした魚を持てるだけ持ち、残りは置いていった。 階段を上り、巨大な橋を渡る。湿気で腐食した巨大な構造物、錆びついた車の墓場。カビが病んだ皮膚のように金属を覆っている。眼下には澄んだ川が流れ、上の惨状など知らぬげに流れていた。
歩きながら、好奇心が勝った。
「エミリー、すべてが崩壊した時、本当は何があったんだ? トンプソン婆さんはよく喋るけど……」
「そうね、ゲオ。私はその場にいなかったけど、婆さんの話なら暗記してるわ。彼女曰く、政府が倒れた時、『預言者』たちが指揮権を握った。秩序をもたらそうとしたけど……まあ、その秩序はハリケーンの中の溜息ほどしか続かなかった」
「戦争か?」
「もっと酷い。『災厄』よ。彼女は言ってたわ。人々は巨人の戦いに巻き込まれた蟻のようだったって。『太陽の力対、暗黒と虚空のブラックホール』。下水道じゃそう呼ばれてる。彼女は、自分が神のバスルームにいて、踏み潰されるのを待っているゴキブリのような気分だったそうよ」
エミリーは小石を虚空に蹴り飛ばした。
「婆さんはその時気づいたの。市民はずっと『社会』なんかじゃなかったって。私たちは家畜だった。バッテリーだったのよ。汚い金で私たちを買う連中のための、食料とエネルギーの生産者。婆さんは金を憎んでるの、知ってる? 金は魂を腐らせるって。『他人に金貨で心をこねくり回されるな』ってよく言ってるわ」
「システムに恨みがあるようだな」
「あるわよ。彼女の主張じゃ、私たちが利益を生まなくなった時、奴らは私たちを捨てたのよ。地表が燃えるのを放置した。彼女は全てを破壊したのは預言者じゃなくて、ある『虚空の落とし子』とかいう連中だって誓ってるけど、誰も信じてないわ。各派閥が語る公式の歴史じゃ、悪いのは全部預言者ってことになってるからね」
「トンプソンさんはただの老婆じゃなさそうだな」と俺は言った。
「私たちのガイドみたいなものね。命令はしないけど、みんな話を聞くわ。時々ドアの前に立って演説をするの。人々が思考だけで通信して、本が無料で読めるビルがあった時代の話とかね。ファンタジーみたいだけど、あんたは……あんたはそれが何の話か知ってる顔をしてる」
「嘘じゃないさ、エミリー。その世界は実在した。だが、もう死んで埋葬されたんだ」
橋を渡り終えた時、エミリーが俺の腕を叩いて止めた。
「見て、デカ頭! 後ろ!」
振り返った。嗅ぎ回っていた人影が、影から出てきていた。彼らは私たちが残した魚の残りに飛びついた。
「見た、ゲオ?」エミリーは皮肉たっぷりに言った。「あの悪党ども、私たちのものを堂々と盗んでるわ! 許せないわね!」
「エミリー……彼らは悪党じゃない」
「あんたに何が分かるのよ?」
「よく見ろ。子供が3人いる。男と女も。盗賊じゃない、家族だ。必死で残飯を食べてるんだよ」
エミリーは一瞬黙った。
「へえ! あらそう! 現象くんにしては鋭いじゃない! 脳みそがあるなんて知らなかったわ」
「貧しい人たちだ、エミリー」
「ええ、貧しいわね。私たちと同じくらい貧乏だわ、アハハ!」彼女の笑いは引きつっていた。
「笑うなよ。子供がいるんだぞ」
「だから何? 私だって子供だったわよ。実際、まだ18歳だし、子供よ。私のことは同じように心配してくれないわけ?」
「君は……君は物事を複雑にするな」
「ノンノン、複雑にしてるのはあんたよ、ゲオ。ここではみんなこんな生活か、もっと酷いの。ようこそ現実へ。行くの? それともあいつらのために泣いてあげるつもり? ……まだここの環境に慣れてないみたいね」
「……行こう。どうしようもない」
派閥の地図
「さて、ゲオ、聞いて。この橋を越えたら、私の縄張り『ザ・モールズ(モグラたち)』の外よ。ここからは他人の庭」
「何が待ってる?」
「派閥よ。狂人どもの部族。このゴミ溜めの政治地図を教えてあげる」
「今向かっているのは、『摩天楼の少年たち(ザ・スカイスクレイパー・ボーイズ)』。スカベンジャーで、遊牧民よ。技術的なガラクタ、特に『ビデオゲーム』関連のものを集めてる。屋根の上を即席の橋や自殺行為みたいなジップラインで移動するの。安全なルートを見つけるのが得意よ」
「彼らは何を求めてる?」
「取引よ。あんたの『タブレットU』の箱を渡すつもり。古代のレア物だと言ってね。でも絶対にタブレット本体は見せないで、ゲオ。見られたら殺してでも奪いに来るわ。間違いなく『カルト信者』に売るでしょうね」
「カルト信者?」
「狂信的な保守派よ。空から落ちてきた巨大な船、『マザー・サターン』の残骸の近くに住んでる。『暗黒の秘密』と魔術を守ってるらしいわ。誰も彼らには関わらない」
「それから『銃士の同胞団』。銃に執着してる連中。ジャングルに行くには彼らの領土を通らなきゃいけない。もし見つかったら、選択肢は3つ」
「1. 強盗に遭う」 「2. 殺される」 「3. 殺されて、強盗に遭う」
「3つとも避けたいな」
「その通り。だから『スカイスクレイパー・ボーイズ』が必要なの。彼らはガンメンを避ける空のルートを知ってるから」
「そして最後に『神の剣士団』。コロッサスの金属と刃物を崇拝する別の狂人たちよ。彼らは最良の農地を持っていて、そのせいでガンメンと永遠に戦争してるわ。計算は合うでしょ?」
歩き続けた。頭が情報でパンクしそうだ。ふと気づくと、独り言を言っていた。
「エミリー?」
振り返ると、エミリーが偽の壁の穴から必死に手招きしていた。
「この石頭!」戻ると彼女は大声で囁いた。「どこ行くつもり!? そのままメインストリートを歩いてたら、ガンメンと剣士団の集中砲火の真ん中に躍り出ることになるわよ。あの通りは死の国境線なの」
「なんでそんなに戦うんだ?」
「食料、土地、アルコールよ。剣士は作物を持ってる。ガンメンは飢えと銃を持ってる。あとは分かるでしょ」
高みでの遭遇
廃墟となった摩天楼の内部を登った。階段は錆びついた死の罠だった。カビがすべてを覆っている。 ある瞬間、クリスタル(ガラス)を踏んだ。 パリン。 音が響いた。 突然、私の精神がひび割れた。 記憶が私を殴りつける。『首の鎖。暗闇で見つめる青い瞳。砕けたクリスタルの上を歩く裸足。手の血。パニック。確実な死』
「静かにしてよ、フェノメノ! 音を立てすぎ」 エミリーの声で現実に引き戻されたが、青い瞳は網膜に焼き付いていた。あれは何だったんだ?
吹きさらしの開放的なフロアに出た。エミリーはピクニックかのように座り込んだ。
「ここで何をするんだ?」
「私に合わせて、黙ってて」
突然、赤い点が私たちの胸に現れた。レーザーだ。 一つ、二つ、三つの照準。 そして、ブーンという音が聞こえた。 空から、三つのシルエットが降りてきた。 ロープではない。浮いている。 『浮遊するスケートボード(ホバーボード)』に乗って。
三人の若者だった。彼らは私たちの前に着地し、地面から50センチほど浮いたまま、LEDライトで私たちを照らした。
「エミリー!」リーダーらしき不機嫌そうな少年が言った。「何しに戻ってきた?」
「あんたには関係ないわ、タイラー」
「ウーッ、愛の楽園でトラブルか?」別の少年、マックスが冷やかした。
「黙れ、マックス」タイラーが言った。「二度と戻らないと言ったはずだぞ、エミリー」
「『あんたとは』二度と戻らないと言ったのよ。違うでしょ」
私はボードから目が離せなかった。
「なあ……」私は魅了されて割り込んだ。「そのボード、どこで手に入れた? バッテリーは何だ? 反重力か?」
三人は嫌悪と混乱が入り混じった目で私を見た。 グループの少女、レイブンが私を上から下までスキャンした。
「で、こいつ誰よエミリー? あんたの男、髪染めてるの? 真っ白じゃない……彼氏? それとももう結婚したの?」
タイラーが拳を握りしめた。 「彼氏なのか、エミリー?」
「嫉妬? タイラー」エミリーは意地悪く笑った。「もし彼氏だったらどうする? ……そうね、いや、違うわ……私たち、結婚してるの!」
私は凍りついた。 「おい、エミリー」囁いた。「俺は君と結婚した覚えはないぞ。記憶障害はあるが、結婚式がなかったことはかなり確信してる」
タイラーは欲求不満と軽蔑の目で私を見た。 「そいつが旦那か……無駄遣いだな。お前にはもっとマシなのを期待してたよ、エミリー。見ろよ。そいつは男じゃない。女みたいな顔をしてやがる」
「会ったばかりなのにもう嫌われた」私は呟いた。「不幸が挨拶してるのを感じるよ」
レイブンが笑った。 「あんたの『旦那』、変な奴ねエミリー。これより酷いのは見つからないわよ」
「無視して」エミリーが言った。「ビジネスに来たの。ガンメンの領土を越えて、森に行きたい」
「森だと?」タイラーが眉をひそめた。「支払いは?」
エミリーは『タブレットU』の箱を取り出した。 「古代のレア物よ」
タイラーはホバーボードで突っ込んで奪おうとしたが、エミリーはそれを避けた。 「見るだけ。触らないで」
「その箱じゃ割に合わないな、エミリー。だが……俺も鬼じゃない。 明日、俺たちの『お宝探し(略奪)』に付き合って、何かいいものを見つけたら、乗せてってやってもいいぜ」
選択肢はなかった。私は今や略奪者だ。 タイラーはホバーボードで私のすれすれを通り過ぎ、憎しみのこもった目で睨みつけた。視線は執拗だった。
「お前は女泥棒だ、分かってるか? 泥棒の世界にだって、守るべき『仁義』ってのがあるんだよ」
「何のことかさっぱりだな、マジで」私は混乱して答えた。
「すぐに思い知らせてやるよ」
彼らは去った。ボードに乗って虚空へと飛び出した。 レイブンが一瞬残った。
「どういう仕組みなんだ? どこで手に入れた?」私は必死に尋ねた。
「『お宝(盗品)』よ。仕組みは電磁場と水銀、このバカ。高速で回るコマが重力に逆らって直立するでしょ? あれを光速でやってるのよ。動力はグリーン・アトミック・バッテリー。理解できた?」
「いいや」
「呆れたバカね。さよなら、『旦那さん』。タイラーはあんたを憎んでるわ。自業自得ね」
彼女は飛び去り、塵の跡だけが残った。
跳躍
私は一人残された。 エミリーとタイラーはすでに向かいのビルに渡っていた。私は縁にいた。 即席の、壊れてぶら下がった橋があった。 跳ばなければならない。 2階分の落下と、5メートルの距離。 タイラーが向こう側から私を指差し、笑っていた。エミリーも笑っていた。
「来なさいよ、フェノメノ! 跳べ!」
ため息をついた。 距離を測る。深呼吸をする。 走った。 だが縁に来て、急停止した。恐怖で足がすくんだ。
もう一度測る。迷う。
「腰抜け!」タイラーが叫んだ。
勢いをつけ直す。ジャンプをイメージする。 全力で走った。壊れた橋を踏み切る。 構造物が私の重みで揺れた。足場が滑る。 跳んだ。 だが、失敗した。
届かなかった。 向かいのビルの縁が手から離れていく。 落ちた。 2階下のガラス窓に激突した。
ガシャーン! 千のクリスタルが砕け散る音が、闇に飲み込まれる前に聞いた最後の音だった。




