第38章:影の中の銃声(第3部)
アンキロス:紅の預言の生存者
隠蔽型航空ドローンが影の中から火を噴いた。弾丸の奔流と炎がアルテミスを直撃し、彼女は深い傷を負って床に崩れ落ちた。
クリスタルはその数秒前に異変を察知していた。アルテミスを救おうと動いたが、弾丸の速度には及ばなかった。
一発、また一発と、弾丸がアルテミスの肉体を貫いていく。
それはわずか数秒の出来事だった。だが「制御演算(推定制御)」を持つ私たちにとって、アルテミスが冷酷なアルファ#1の永遠の夜の中に倒れゆく様は、永劫の停止した時間のように感じられた。すべては冷血な殺意によるものだった。
クリスタルは自らの肉体を硬質化させ、アルテミスへと降り注ぎ続ける弾丸を弾き飛ばした。
アルテミスは制御を失ったかのように血を吐き出し、鼻からも細い筋となって鮮血が流れ落ちていた。彼女は自らの顔を掴んだが、それはただ顔を深い血の色で塗り潰すだけだった。溢れ出す、夥しい血。
アルテミスは完全に戦闘不能に陥っていた。弾丸の衝撃に抗えず壁に背を預け、着弾した箇所には焼けるような穴が穿たれていた。
彼女の血はドレスを汚し、髪を染めた。まるで赤い絵具のバケツを、見境なくぶちまけたかのようだった。
彼女の瞳の光が急速に失われていく。剥き出しになった腕が、冷たい床の上で急速に眠りに落ちていく。
焼けた空気、火薬の臭い。「制御演算」の中で、すべてが緩やかに流れていった。
「叩き落とせ、アンキロス!!」 クリスタルが叫んだ。彼女の結晶の鎧が、隠蔽型ドローンの猛火からアルテミスを必死に守っていた。
私は持てる限りの速度で動いた。重力ブレスレットを起動し、私たちの位置へ制圧射撃を続けていた数機の戦闘ドローンを叩き落とした。奴らは一歩も引かせぬ構えだったが、私が執拗に攻撃を繰り返すと、ドローンたちは次なる攻勢のために一度後退し、再編を始めた。
わずかな休息。 ダニカが遮蔽物に身を隠しながら窓に近づき、群衆が建物を取り囲んでいるのを目撃した。通りは完全に埋め尽くされていた。
「皮を纏いし者……」
私たちは脱出ルートを模索した。ダニカのデジタル・マインドが階ごとの構造を導き出すが、ドローンたちが一帯を封鎖し始めていた。中央サーバーへアクセスするための唯一のルートは完全に破壊されており、崩落によって道は閉ざされていた。
ドローンたちの足音が迫る。すぐそこまで来ている。ダニカは、私たちの生存率が低下していることを告げた。
クリスタルは「結晶化」を使い、アルテミスの深い傷口を塞ごうとしていた。至る所からの出血が止まらない。冷たく蒼白な人形のようになったアルテミスの顔が、自分の血で塗り替えられていく。彼女は震える手で自分の顔に触れようとしながら、うわごとのように呟いた。
「……顔の感覚がないの……顔が、ピリピリする……」
クリスタルは必死に止血を続けていた。
(アルテミスは完全に意識を失いかけている……彼女を失ってしまう) (なぜアルテミスなんだ……彼女は、預言者の中で唯一……本当に心優しい存在なのに……) (くそったれ……なぜ彼女なんだ!?……こんなの、あんまりだ)
私たちは一階に到達した。 クリスタルは暗いオフィスに残り、アルテミスに応急処置を施している。
私は建物の出口を見つめた。出口があるのか、その誘惑に抗えなかった。 扉を開け、3秒間だけ外を観察した。
――膨大な数の市民が、松明を手に建物を完全に包囲していた。 無重力に近い環境で、揺らぐことのない円形の炎。 鈍く光るブーツ。 蝕まれた皮膚。 歪みきった異形の表情。 それらすべてが、一つの意志として統一されていた。
ダニカが私の背中を掴み、建物の中へと引き戻した。 「何を考えているの、アンキロス! 殺されたいの!?」彼女が私を叱咤した。
「あいつらは全員『スキン・テイカー』よ。退路を断っている。おそらく、私の存在に気づいたのね……シンセティック抵抗軍のリーダーとして、私を殺そうとしている。脱出する術はない。生き残る可能性をわずかでも掴みたいなら、死ぬまで戦うしかないわ」
「強くありなさい、アンキロス」




