Ωバースの奇跡 ~繋がらぬはずの二人、捨てられ、出会う 熱い夏【1分で読める創作小説2025】
ヒュウ
また季節が巡り、夏が訪れた。地中に首まで埋められたその男は、土の重みと太陽の熱を一身に受けながら、遠い過去へと思いを馳せていた。
流れる川の水音、蝉の声、蒸し暑い大気。そのすべてが、彼にかつての夏を思い出させた。
(この川原に置き去りにされたのも、こんな暑い夏であったか……)
彼は静かに目を閉じた。
男は、かつて真琴という少女と契りを交わした。
使命感にあふれる女性だった。
「日本のために働かせてください!」
彼女は誓った。
そして、剣を振るった。
剣道四段の腕前は確かだった。
襲いかかる黒犬をバッサバッサと斬り伏せていった。
幾度も人々を救った。
だがその力を使う代償は大きかった。
男と女の丹田は常に結ばれていた。
女は、身体も精神も蝕まれていった。
やがて真琴はその重荷に耐えかねた。
「どうして私ばかりが苦しまなきゃならないのよ!」
『誰かがやらねば日本が滅ぶ。おぬししかおらんのじゃ』
「わたしだって恋もしたい!生活だってある……!」
グサッ……
怒りと涙の果てに彼女は彼を大地に突き立てた。
真琴は振り返りもせず走り去っていった。
男は彼女の背をただ見ているしかできなかった。
それから幾十年。男は目覚めては眠り、眠っては目覚め、また意識を失い……、無限の時間を漂い続けた。
幾つの夏を越えたかわからぬまま……時が過ぎた。
かつて結んだ絆はもう感じられなくなっていた。
彼に残った意識……
(この国を守りたい)
ただ一つの、
願いだけが残された……
そして……
また夏が巡ってきた……
男は意識を呼び戻された。
耳を澄ましていると、小さな声が近づいてきた。
「ん?あれ?なんだろう?」
子供の声。現れたのは幼い男の子だった。男子には決して抜けぬはず……
しかし……少年は、するりと彼を引き抜いてしまった。
「うお!かっこいい!刃が白く光ってる!」
無邪気に叫ぶ少年に、彼は息を呑んだ。
(なんじゃと……?男子がワシを抜くじゃと……!)
予想だにしなかった奇跡。それが起きたその瞬間、長き眠りの呪いは砕かれた……
その暑い夏の日……、二人の……男同士の奇跡の冒険譚が始まった。
それは……日本の、
いや世界の秘史に深く刻まれることになる叙事詩の幕開けであった。




