7-13 最愛の弟へ
第七幕 王家の記憶ー後編ー
十三章 最愛の弟へ
おまえが慟哭する姿を、遠くから見ていた。
数百年もの間、闇に囚われ、感情を失った人形だったおまえが、私の死の真実を知り、魂の底から泣き叫ぶ。
その声は、私を、この虚ろな存在の底から震わせ、揺さぶった。
おまえの絶望は、私にとって、何よりも深く、痛ましいものだった。けれど――心の奥底では、私は歓喜していた。
おまえが私を失った喪失を、あれほどまでに深く抱いてくれたこと。
その事実だけで、私はこの上ない喜びを覚えていた。
ああ、スカリー。
おまえは、私が守りたかったすべてだった。
国が滅びても、命が尽きても、ただおまえだけは守り抜きたかった。
だから私は、おまえを一人にすることを選んだ。――それが唯一の道であり、同時に最も残酷な選択だった。
その後、おまえが闇に堕ちていくのを見た時、私の心も千切れるほど痛んだ。
どれほどおまえに触れたかったか。どれほど抱きしめ、愛していると伝えたかったか。
けれど私は、ただ見守るしかできなかった。
だが今、おまえは光を見つけたのだね。
ジェイドという名の、一筋の光を。
彼女が傍に寄り添う姿を見たとき、私は深く安堵した。
おまえの心に、人間らしい温もりが戻りつつある。
彼女ならば、きっとおまえを救ってくれる。
私が望んでも叶わなかったことを、彼女が成し遂げてくれるのだ。
だから私は、自分の選択を後悔しない。
結果としておまえを深い闇に閉じ込めてしまったとしても――おまえが生きている限り、あの時の選択は正しかったのだと、私は今も信じている。
この先、おまえがどんな道を選ぼうと、私はいつでもおまえの味方であり、理解者であり続ける。
おまえの歩む道に、どうか光が満ちるように。私は、遠くから祈り、見守っている。
そして、スカーレット。
もしも、人としての感情を取り戻した果てに、それでも生きることが耐えられないほど辛くなったなら――私が必ず迎えに行こう。
たとえ世界の理を捻じ曲げてでも、何をしてでも、おまえを私の元に連れてこよう。
そして今度こそ、誰にも奪わせない。私がおまえの笑顔を守り、私がおまえを幸せにする。
だから、どうか安心して生きなさい。
おまえがこの世界で幸せに生きること、それだけが私の願いだ。
私の愛は、時間も空間も超えて、永遠におまえとともに在る。
おまえは昔も今も、変わらず私の唯一の光だ。
心から、愛しているよ、スカーレット。
――また、いつか会おう。




