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髑髏王と枇杷の姫  作者: べにいろたまご
第一幕 髑髏の庭
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1-7 運命のはじまり

 枯れた庭園で、スカーレットとジェイドは静かに並んで座っていた。ジェイドの指先から放たれた微かな光は、すでに消えていたが、その温かさはスカーレットの心に確かに残っていた。永い間、冷え切っていた彼の心が、ごくわずかだが、温かいものを感じ始めている。


「…なぜ、ここに居座る?」


 スカーレットは、静かにジェイドに問いかけた。彼の声には、以前のような拒絶の響きはなく、代わりに微かな困惑と、ほんの少しの好奇心が混じっていた。

 ジェイドは、スカーレットの横顔を見上げた。彼の瞳には、まだ深い悲しみが宿っているが、その奥に、彼の本質である、純粋な光の欠片を見つけた気がした。


「私には、もう行く場所がありません」


 ジェイドは、正直に答えた。


「一族からは無能者として追放され、この広い世界で、私を必要としてくれる人は誰もいないと思っていました。でも…あなたは違います」


 彼女はスカーレットの手を取り、そっと重ねた。スカーレットの冷たい指先に、ジェイドの温もりが伝わる。スカーレットは、その温かさに戸惑い、手を払いはしなかったものの、握り返すこともなく、ただそこに静かに手を置かれたままだった。ジェイドの真っ直ぐな瞳に見つめられ、動けなかったのだ。


「あなたには、深い悲しみと、誰にも理解されない孤独があります。私がこの城に迷い込んだのは、きっと運命なのだと、そう感じました。私にしか、あなたの孤独を癒せない。そう、強く思うのです」


 ジェイドの言葉は、スカーレットの心の奥深くへと、まっすぐに届いた。彼は、ジェイドの言葉の純粋さに驚き、同時に、言葉では言い表せない感情が込み上げてくるのを感じた。それは、永い時の中で忘れ去っていた、人の温もり。そして、自分を理解しようとする者の存在。


「…無謀な娘だ」


 スカーレットは、そう呟いた。しかし、その声には、もう嘲りも冷たさもなかった。

 彼の影の魔力が、ジェイドの秘めたる光の魔力に触れ、互いに微かに共鳴し合う。


「僕の傍にいれば、いつかお前も不幸になる」


 スカーレットは、自身の不老不死の呪いが、いつかジェイドを苦しめる運命にあると深く理解していた。彼は、彼女を遠ざけることで、彼女を守ろうとしていたのだ。


 だが、ジェイドは首を横に振った。


「私を不幸にするのは、誰かに必要とされないことだけです。あなたが私を拒まなければ、私はきっと、この上なく幸せです」


 その言葉に、スカーレットは沈黙した。彼の凍てついた心の氷塊が、ジェイドの言葉と温もりによって、ゆっくりと溶け始めている。


 その夜、スカーレットはジェイドを城へと招き入れた。門は、音もなく開いた。

 城の中は、蝋燭の柔らかな光が灯り、これまでとは違う、微かな温もりに満ちていた。


「…奥の部屋を使え。好きにしろ」


 スカーレットは、そう言って、ジェイドに部屋を案内した。彼の声には、以前のような冷たさはなく、どこか諦めにも似た、しかし確かに受け入れた響きがあった。


 ジェイドは、スカーレットに深々と頭を下げた。


「ありがとうございます、スカーレット様」


 その夜から、宵闇の城に、新たな日常が始まった。


 ジェイドは城の掃除をしたり、庭の手入れをしたりと、自らの居場所を作るために奔走した。彼女の愛猫ミィも、城の中を自由に駆け回り、レイブンと軽口を叩き合うようになった。

 スカーレットは、ジェイドの存在を意識しない日はなかった。彼女が庭園にいると、枯れた花々に微かな生命が宿るのが見えた。彼女が城の中を歩き回ると、これまで響くことのなかった足音が、彼の耳に心地よく響いた。


 彼は、時折、ジェイドの様子を影から見守るようになった。彼女が枯れた庭園に水をやっている姿、小さな花壇を作り、そこに種を蒔いている姿。その一つ一つの行動が、スカーレットの凍てついた心に、微かな温かさをもたらしていく。


 ジェイドが彼の城に住まうようになってからも、暫くは食事を共にすることはなかった。しかし、日常の些細な出来事の中で度々彼女の真心に触れ、次第に彼女を深く愛するようになる。


 スカーレットの長い孤独の時間は、終わりを告げようとしていた。


 そして、二人の運命は、ここから大きく動き出す。



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