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髑髏王と枇杷の姫  作者: べにいろたまご
第一幕 髑髏の庭
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1-4 髑髏王

 スカーレット・クロウ。彼の名は、かつて超大国バーミリオン帝国に響き渡る、希望の音だった。第二王子として生を受けた彼は、その類稀なる才能で人々を魅了した。剣の腕は帝国一と謳われ、火炎魔法を操る力は、まさに天賦の才。燃えるような緋色の髪と、血のように鮮やかな瞳を持つ彼は、「緋色の王子」と称され、国民からの厚い信頼と愛情を一身に受けていた。


 彼の兄であるセルリアン・クロウ。青空のような青い髪にアイスブルーの瞳が涼やかな彼は第一王子で、スカーレットよりも四歳年上だった。突出した剣技や魔法力はないものの、戦略と知略に優れ、氷結魔法を駆使して国を守れるだけの技量を十分に備えていた。次期国王を継ぐ予定だったセルリアンと、才能溢れるスカーレット。周囲は第一王子派と第二王子派で小競り合いをしていたが、彼ら兄弟自身は違った。スカーレットは兄を心から尊敬し、セルリアンもまた、弟を大切に思う、固い絆で結ばれた兄弟だった。彼らは互いに、なくてはならない家族として、深く支え合っていたのだ。


 平和な日々は永遠に続くものと、スカーレットは疑いもしなかった。しかし、その穏やかな時間は、ある日突然、終わりを告げる。


 ある時、兄セルリアンが、突如として謎の病に倒れたのだ。病は急速に進行し、あらゆる医術、魔術をもってしても、その進行を止めることはできなかった。最も尊敬する大切な人の命が日に日に衰えていく様を、スカーレットはただ見ていることしかできなかった。


 絶望の淵に立たされたスカーレットは、藁をも掴む思いだった。兄を救うためなら、どんな手を使っても構わない。彼は闇に属する古の魔術に手を出した。それは、対象者の時を戻し、未来を変える禁術だった。だが、術を発動した時には、すでに兄の魂は肉体から離れており、間に合わなかった。セルリアンは、禁術の詠唱前に、息を引き取っていたのだ。


 禁術の代償として、スカーレットは炎の魔力を影の魔力に変えられ、不老不死の呪いを背負うことになる。そして、人としての感情もいつしか失われ、宵闇の城でただただ空虚な時間を過ごしてきた。


 彼は幾度となく、自らの命を絶とうと試みた。しかし、その度に不老不死の呪いが発動し、彼は死ぬことすら許されなかった。彼の心は、凍りついた感情の牢獄の中に閉じ込められ、外界との繋がりを一切断ち切っていた。


 そんな彼にとって、城の庭園は、唯一の安息の地だった。枯れた花々は、彼の失われた感情を映し出すかのようだったが、それでも彼はそこに、かすかな過去の面影を見出そうとしていた。


 ジェイドと出会うまでは。


 彼の凍てついた心は、ジェイドの存在によって、微かな震えを感じ始めている。彼女の言葉、彼女の瞳。それは、長い間、誰も触れることのできなかった彼の心の奥底に、静かに、しかし確実に響き渡っていた。

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