4-12 小噺2 レイブンとミィの視点
第四幕 稀代の奇術師
小噺二 レイブンとミィの視点
ブラッドリィが去ったあと、城にはまた静けさが戻った。だが、それはかつての孤独な沈黙とは違う。スカーレットとジェイド、そして我とミィ——四つの鼓動が寄り添う、温かい静けさだった。
「レイブン、ブラッドリィ、いなくなっちゃったね」
スカーレットの膝の上で丸まっていたミィが、肩に止まる我を見上げて言った。
「ああ。馬鹿な奴だ」
そう答えて、我は視線を窓の外に逸らした。
思い出すのは、旅立ちの前夜のこと。ブラッドリィがミィに告げた、あまりに重い言葉だ。
『もしスノウがジェイドに牙を向けたら……君は、僕が教えた奇術を使ってくれ』
——我は知っている。奴がスノウの恐ろしさを熟知していることを。
そのうえで、なぜ猫ごときに自分の奇術を託したのか。
(愚か者め。己の技を猫に任せるとは……)
だが胸の奥にあるのは怒りではなかった。あいつの愚直な優しさ、ジェイドとミィを想う深い愛情——それだけが、我の心を満たしていた。
「レイブン、私は……ブラッドリィの奇術が使えるの?」
ミィの瞳が不安と期待に揺れる。
「ああ。奴が授けたのは——おまえの身を一時的に光へと変える奇術だ」
「すごい! じゃあ……私はジェイドを守れるんだね!」
無邪気な声とともに、ミィはスカーレットの膝から飛び降り、軽やかに駆け出していった。
辿り着いたのはジェイドの部屋。眠る彼女の枕元で、ミィは丸くなり、その寝顔をじっと見つめる。
——そのときだ。
ジェイドの胸の奥から、淡い光が零れ出すのを、ミィは確かに見た。
(これが……ジェイドの心の光……)
そっと触れると、自分の身体まで温かさに満たされる。そして心の奥に、いままで知らなかった強さが芽生えていく。
(私が守る。この光を。ジェイドを)
「……ミィ」
ジェイドが寝言のように名を呼んだ。
ミィはその声に耳を傾けながら、小さな体をさらに寄せて、心の中で静かに誓った。
——この光を、決して失わせはしない、と。




