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髑髏王と枇杷の姫  作者: べにいろたまご
第四幕 稀代の奇術師
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4-11 小噺1 ジェイドの視点

第四幕 稀代の奇術師

 小噺一 ジェイドの視点




 ブラッドリィさんが旅立ってから、城には再び静けさが戻った。でもそれは、かつて私が知っていた冷たく乾いた静けさではない。彼が遺してくれた笑い声や、鮮やかな魔術の記憶が、どこかでまだ灯っているような、あたたかい静けさだった。


 彼が手渡してくれた魔術書を開くたび、あのときの言葉が耳に甦る。


「君の魔力は、君の心そのものだ。だから、心を縛るな。もっと自由に、もっと豊かに生きろ」


 その言葉を胸に、私は一行ずつ読み進めていった。古い魔術書には、かつてロウクワット一族が受け継いでいた秘術——心の光を魔力へと変える方法が記されていた。そこに流れる思想は、私がブラッドリィさんに出会った日から抱いてきた希望と同じ色をしていた。


「ジェイド、無理はするな」


 書に没頭する私の肩に、スカーレット様の手が置かれる。その掌の温もりに、胸の奥がふっと安らぐ。


「ありがとうございます、スカーレット様。でも……大丈夫です。ブラッドリィさんが、私を信じてくれましたから」


 私の答えに、彼は黙って私の手を取ってくださった。その力強さと静かな優しさが、次の一歩を踏み出す勇気に変わっていく。



 夜。城のバルコニーに並び立ち、私たちは月明かりを浴びながら空を仰いでいた。


「スカーレット様、ブラッドリィさんは今、どこにいるのでしょう」

「さあな……。だが、どこにあろうと、きっと私たちのことを思っているさ」


 その言葉に、私はそっと頷いた。私もまた、彼の姿を思っていた。旅の果てで彼が戻ってきたとき、胸を張って言えるように。——私は変わった、と。私は強くなった、と。


「スカーレット様、私……頑張ります。ブラッドリィさんの期待に応えられるように。そして、スカーレット様を守れるように」

「ああ、期待している」


 そう言って彼は、私の頭に手を置いた。指先から伝わる温かさの奥に、ブラッドリィさんへの感謝と、私を守ろうとする強い決意が確かに宿っているのを感じる。


 私はその決意を見つめ返すように、静かに夜空を仰いだ。

 真円の月が煌々と照らしている。まるで遠い地で同じ月を見上げる彼に、私たちの思いを届けているかのように。



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