表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
髑髏王と枇杷の姫  作者: べにいろたまご
第四幕 稀代の奇術師
43/166

4-8 奇術談話。ブラッドリィのド派手なイタズラ3

第四幕 稀代の奇術師

 奇術談話・ブラッドリィのド派手なイタズラ③




 パン騒動から数日が経った。

 私は、今度こそ静かに執務に専念しようと、執務室の隅々まで調べ上げた。机の下、書棚の裏、カーテンの影――どこにも異常はない。ブラッドリィが大人しくなったのかと、ほんの少し安堵しながら、山のような書類を広げた。


 午後、気分転換にとジェイドにお茶を頼んだ。

 扉が静かに開く。けれど、現れたのは、いつもの穏やかな彼女ではなかった。


「スカーレットさま……おちゃ、もってきたです」


 そこに立っていたのは、小さな女の子。

 私の腰ほどの背丈しかなく、大きなカップを両手で抱え、よろよろと歩いてくる。


「ジェイド……?」


 信じられないものを見るように声が漏れた。

 小さな手が机に届かず、カップが傾ぎ――


「ジェイド!」


 私は慌てて立ち上がり、カップが落ちる前に受け止めた。温もりと香りに胸を撫で下ろしつつ、目の前の少女を見つめる。間違いない。彼女の瞳も微笑も、ジェイドのものだった。


 そのとき、天井から甲高い笑い声が響いた。


「ははは! どうだいスカル、驚いたかい?」


 逆さまにぶら下がっていたのはブラッドリィ。しかも彼の姿もまた縮んでいて、七歳か八歳ほどの少年のよう。赤毛を揺らしながら、いたずらっぽく笑っている。


「……ブラッド」


 怒りを通り越し、私はただ呆れるしかなかった。


「今日のテーマは童心だ!」


 胸を張る小さな魔術師。

 私は深く嘆息し、こめかみを押さえる。


「ブラッド。私の城を幼稚園にするな。それに、大切な者を勝手に子どもに変えるな。怪我でもしたらどうする」


「心配ご無用! 一日で元に戻るし、力もそのまま。外見が小さくなるだけさ!」


 ブラッドリィはひらりと床に降り立つと、大人の姿に戻り、幼いジェイドを抱き上げた。小さな彼女は不安げに目を瞬かせる。だがブラッドリィは無邪気に笑い、彼女の髪をくしゃりと撫でた。


「さあ、ジェイド。俺と遊ぼうじゃないか! 冒険という名の宵闇の森へ出発だ!」


 そう言うや、彼は少女を抱いたまま窓辺に跳び、夜風のように颯爽と飛び去った。


「……ブラッド。ジェイドを巻き込むな」


 私は呟き、深い溜め息をもう一度こぼした。

 けれど胸の奥で、彼の奇術を本気で嫌いきれない自分に気づく。


 机に残された小さなカップをそっと置き直すと、私は外套を羽織った。奇術師と小さな姫を探すため、静かな森の入り口へと足を向けた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ