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髑髏王と枇杷の姫  作者: べにいろたまご
第一幕 髑髏の庭
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1-3 枇杷の姫

 ジェイド・ロウクワット。彼女は、古の偉大な大賢者によって創建された、光と風の魔法を司る一族の、末の姫として生を受けた。ロウクワット一族は、代々、困窮する人々のために魔術を生み出し、人々を助ける高潔な一族として知られていた。その証として、彼らは皆、鮮やかな枇杷色の髪と金色の瞳を持っていた。彼らの魔法は、大地に豊穣をもたらし、風を操り、癒しの光を人々へと降り注がせた。


 しかし、ジェイドは違った。彼女の髪と瞳は、生まれた時から深く美しい翡翠色をしていたのだ。一族の誰もが持つ枇杷色の証を持たない彼女は、「異端」として、そして魔力が使えない「無能者」として蔑まれた。本来のロウクワット一族の慈悲深い心は、永い時を経て力を重んじる傲慢な存在へと変貌しており、魔力を持たぬ者を許容する器は持ち合わせていなかったのだ。


 幼い頃から、ジェイドは一族の者たちから冷たい視線を向けられ、存在しないかのように扱われた。彼女に与えられた部屋は、城の最も奥まった、陽の当たらない一室。食事も最低限しか与えられず、ろくに教育も受けさせてもらえなかった。しかし、そんな中でも、彼女の心は決して折れなかった。彼女は、自身を蔑む一族の目を、まっすぐに見返す強さを持っていた。


「私は無能ではないわ。きっと、私にしかできないことがあるはず」


 ジェイドは、そう信じていた。彼女は人一倍、人の心の機微に敏く、心優しい一面を秘めていた。一族の者たちが、その傲慢さゆえに人々からどれほど疎まれているか、彼女は幼心に感じ取っていた。


 ある日、一族の長老が、ジェイドに追放を言い渡した。


「お前は、この一族の恥だ。これ以上、我らの名を汚すことは許されない。すぐにここを去れ」


 その言葉に、ジェイドは一切の動揺を見せなかった。むしろ、彼女にとっては、そこから解放されるきっかけとなった。

「はい、承知しました。私は、私を本当に必要としてくれる人を探しに、この地を去ります」


 そう言って、ジェイドは生まれ育った故郷を後にした。彼女には、僅かな旅費と、唯一の友である愛猫のミィだけがいた。ミィは、ジェイドが一族から疎まれる中で、いつも彼女の傍らに寄り添ってくれた存在だった。


 当てもない旅だった。

 ジェイドは、様々な土地を巡った。人々との出会いと別れを繰り返し、時には飢えに苦しみ、時には野宿をすることもあった。しかし、彼女の心は、決して諦めることなく、自分を必要としてくれる誰かとの出会いを求めて、歩き続けた。


 彼女の旅は、幾日、幾月、幾年と続いた。

 そして、ようやく、その旅の終着点へと辿り着いた。それが、人々から恐れられる「宵闇の城」だった。


 森の中で力尽き、倒れたジェイドの傍らで、ミィは必死に彼女を励まし、城の方向へと促した。


「ミャア、ミャア! あそこよ、ジェイド! あそこなら、きっと…!」


 意識が朦朧とする中で、ジェイドはミィの声を聞いた。

 そして、微かに光る城の姿を幻視した。それは、闇に包まれた不気味な城でありながらも、なぜか彼女の心を強く引きつけた。まるで、そこが彼女の探し求めていた場所だと、直感したかのように。


 そして、その直感は、間違いではなかった。

 そこで出会った髑髏王スカーレット・クロウ。彼の瞳に宿る深い悲しみと、感情を失ったかのように見える姿の奥に、彼女は自分と同じ「孤独」を感じ取ったのだ。


「私を、この城に置いてください。あなたの孤独を、少しでも癒したいのです」


 あの時、スカーレットに頭を下げたジェイドの言葉は、偽りではなかった。

 彼女は、自分の居場所を、本当に必要としてくれる場所を、この城に見つけたのだ。

 たとえ、それが人々から恐れられる髑髏王の城であったとしても。


 彼女の旅は、終わりを告げた。そして、新たな運命が、ここから始まる。

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