3-8 小噺3 スノウの視点
第三幕 天使の来訪
小噺三 スノウの視点
あの娘とスカルが並んで微笑む姿を、僕は遠くから見ていた。
その光景は、まるで夢のように儚く、美しく――そして僕にとっては何よりも残酷だった。
あれは、かつてセルリアンがスカルの傍にいた時代ですら、決して目にすることのできなかった光景だ。あの兄だけが、スカルに笑顔を向けさせることのできる唯一の存在だった。だがそれでも、スカル自身が誰かに微笑むことはなかった。セルリアンの温もりに守られても、スカルは氷の仮面を崩すことなく、ただ静かに王座に座していた。
それなのに、今はどうだ。
あの娘の隣に立つスカルの横顔は、確かに柔らかくほどけていた。
――僕がどれほどの年月、彼の傍に仕えてきたと、思っているのだ。
帝国の滅びも、幾度の王の交代も、どれだけの人間が老いて死んでいくのも、僕はすべて見てきた。そのすべてを越えて、ただ一人、永遠に変わらない彼の傍に立ち続けてきた。
何度も声をかけた。
何度も忠誠を誓った。
何度も、ただ一度でいいから僕を見てほしいと願った。
けれど、スカルは振り向かなかった。
その氷の眼差しは、僕を映すことなく、ただ遠い虚無を見つめ続けていた。
「ああ、スカル……君は、本当に変わってしまったんだね」
胸を蝕むのは嫉妬ではない。嫉妬などという浅ましい感情で、この長い渇望を説明することはできない。
これは、愛だ。
僕だけが、誰よりも長く、誰よりも深く、君を想い続けてきた。
この世で、僕ほど君を理解している者はいない。
だから分かる。
あの娘は、君にとって「呪い」だ。
彼女は君に温もりを与える。
君の心を揺らし、氷を解かそうとする。
けれど、それは間違いだ。君が孤独だからこそ、君は君でいられる。君が感情を失ったからこそ、僕は君の唯一無二でいられる。
彼女がその均衡を壊そうとしている。
彼女は君を不老不死の呪縛から解き放ちたいのだろう。だが、それは僕にとって恐怖以外の何物でもない。
君が自由になってしまえば、僕の存在は意味を失ってしまう。
だから、あの娘は許せない。
あの娘は、君の心を蝕む呪いだ。
僕がしなければならないことは一つ。
彼女を消す。完全に。痕跡すら残さず、君の世界から消し去る。
そうすれば、君は再び孤独に戻る。僕の知る、あの完全で美しい王に戻る。
……怖いか?
違う。これは恐怖ではない。愛だ。
僕の愛が、君を守るのだ。
スカルは僕のものだ。
他の誰にも、奪わせはしない。
彼女ごときに、僕が積み重ねてきた永遠の想いが負けるはずがない。
僕こそが、彼の真の理解者なのだから。




