表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
髑髏王と枇杷の姫  作者: べにいろたまご
第三幕 天使の来訪
32/166

3-8 小噺3 スノウの視点

第三幕 天使の来訪

 小噺三 スノウの視点




 あの娘とスカルが並んで微笑む姿を、僕は遠くから見ていた。

 その光景は、まるで夢のように儚く、美しく――そして僕にとっては何よりも残酷だった。


 あれは、かつてセルリアンがスカルの傍にいた時代ですら、決して目にすることのできなかった光景だ。あの兄だけが、スカルに笑顔を向けさせることのできる唯一の存在だった。だがそれでも、スカル自身が誰かに微笑むことはなかった。セルリアンの温もりに守られても、スカルは氷の仮面を崩すことなく、ただ静かに王座に座していた。

 それなのに、今はどうだ。

 あの娘の隣に立つスカルの横顔は、確かに柔らかくほどけていた。


 ――僕がどれほどの年月、彼の傍に仕えてきたと、思っているのだ。


 帝国の滅びも、幾度の王の交代も、どれだけの人間が老いて死んでいくのも、僕はすべて見てきた。そのすべてを越えて、ただ一人、永遠に変わらない彼の傍に立ち続けてきた。

 何度も声をかけた。

 何度も忠誠を誓った。

 何度も、ただ一度でいいから僕を見てほしいと願った。


 けれど、スカルは振り向かなかった。

 その氷の眼差しは、僕を映すことなく、ただ遠い虚無を見つめ続けていた。


「ああ、スカル……君は、本当に変わってしまったんだね」


 胸を蝕むのは嫉妬ではない。嫉妬などという浅ましい感情で、この長い渇望を説明することはできない。

 これは、愛だ。

 僕だけが、誰よりも長く、誰よりも深く、君を想い続けてきた。

 この世で、僕ほど君を理解している者はいない。


 だから分かる。

 あの娘は、君にとって「呪い」だ。


 彼女は君に温もりを与える。

 君の心を揺らし、氷を解かそうとする。

 けれど、それは間違いだ。君が孤独だからこそ、君は君でいられる。君が感情を失ったからこそ、僕は君の唯一無二でいられる。


 彼女がその均衡を壊そうとしている。

 彼女は君を不老不死の呪縛から解き放ちたいのだろう。だが、それは僕にとって恐怖以外の何物でもない。

 君が自由になってしまえば、僕の存在は意味を失ってしまう。


 だから、あの娘は許せない。

 あの娘は、君の心を蝕む呪いだ。


 僕がしなければならないことは一つ。

 彼女を消す。完全に。痕跡すら残さず、君の世界から消し去る。

 そうすれば、君は再び孤独に戻る。僕の知る、あの完全で美しい王に戻る。


 ……怖いか?

 違う。これは恐怖ではない。愛だ。

 僕の愛が、君を守るのだ。


 スカルは僕のものだ。

 他の誰にも、奪わせはしない。


 彼女ごときに、僕が積み重ねてきた永遠の想いが負けるはずがない。

 僕こそが、彼の真の理解者なのだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ