2-9 小噺2 レイブンとミィの井戸端会議
第二幕 朽ちた果実
小噺二 レイブンとミィの井戸端会議
ロウクワット一族が去った後の城は、奇妙な静けさに包まれていた。荒れた庭の隅で、レイブンは翼を休めている。そのすぐそばへ、ミィがぴょんと跳び乗った。
「まったく、あんな愚か者たちが現れるなんてね。ジェイドは怯えちゃったわ」
ミィは不機嫌そうに尻尾を振る。レイブンは半眼で見つめ、重い溜息を落とした。
「…仕方あるまい。あの者らは、自らの力こそ絶対だと信じて疑わん。主の怒りを買うとは、実に滑稽な話だ」
「滑稽なのは、あの人たちが馬鹿なことよ。でも、ジェイドが無事でよかったわ」
ミィは真剣にジェイドを案じていた。レイブンは静かに頷く。
「…ああ。スカルが、あの娘を守るために、あれほどの力を振るうとはな。永き時を、感情を捨てて生きてきたというのに」
「そうよ。ジェイドは特別なんだから。王様だって、彼女のことが好きなのよ」
ミィは胸を張って言い切る。レイブンは少し考え込むように首を傾げた。
「…どうだろうな。だが、確かにあれは感情の揺らぎだった。ただの苛立ちではない。…何百年ぶりだろうか。主が、あそこまで明確に他者のために怒りを露わにしたのは」
「でしょう? ほら、やっぱりそうなのよ!」
ミィは彼の肩に飛び乗り、揺さぶる。レイブンは迷惑そうに首を振ったが、その表情にはかすかな笑みが浮かんでいた。
「…だが、厄介な話になってきた。セルリアン様の名まで持ち出すとは。あれは主にとって、決して触れてはならぬ過去だ」
声の調子が落ちた。ミィも神妙な顔をして、ぴたりと尻尾を止める。
「あの人たち、いったい何を考えてるのかしら…」
「あの者らは、主の力を利用しようと目論んでいる。そのために、セルリアン様やあの娘の魔力を必要とすると踏んでいるのかもしれん」
レイブンの眼差しは鋭く城を見据えた。ミィは不安げに、ジェイドのいる部屋の方を見上げる。
「ジェイドを、そんなことに巻き込ませないわ」
「…ああ。主も、同じ思いでいるはずだ」
そう告げると、レイブンは翼を広げ、静かに飛び立った。残された空気には、二人の胸に芽生えた決意が、確かに息づいていた。




