2-9 小噺1 ジェイドの視点
第二幕 朽ちた果実
小噺一 ジェイドの視点
ロウクワット一族が去った後、城に再び静寂が戻った。私は荒らされた庭を眺めながら、ただ呆然と立ち尽くしていた。土は乾き、花々は萎れ、あの人たちが放った光の魔力の痕跡が、生々しい傷跡として残っている。けれど、胸の奥には、恐怖よりも強い、温かな光が灯っていた。
それは、スカーレット様が私を守ってくれたからだ。
「貴様らが、この庭を、そして彼女を汚そうとした罪は重い」
あの時、スカーレット様が放った声が、今も耳に残っている。感情を持たないはずの彼が、はっきりと「彼女」と私を指して怒りを露わにしてくれた。彼の背に隠れた瞬間、体から伝わる圧倒的な力と、冷たいはずの体温の奥に潜む微かな温かさを感じた。心臓が跳ね上がるような高鳴りは、今も続いている。
そして、ロウクワット一族に誓約を課し、彼らの魔力を奪い去った姿。彼は、彼らが最も大切にしているものを奪うことで、傲慢さに罰を与えた。それは、私の故郷での苦しみを理解し、代わりに怒ってくれた証のように思えた。彼のしたことは、単なる復讐ではなく、私という存在を否定した者たちへの、はっきりとした怒りの表明だった。
戦いが終わった後、私が感謝を伝えると、彼は何も言わずに頭にそっと手を置いてくれた。指先から流れる影の魔力は、ロウクワット一族の光で傷ついた心を、静かに癒してくれた。それは、言葉より雄弁に、彼の優しさを物語っていた。
「…汚された庭の手入れは、また明日からだ」
そう言って背を向けた姿は、以前よりも少しだけ、頼もしく、そして寂しそうではなかった。私はその背を見つめながら、これから彼の隣にいることが、どれほど幸せなことかを感じていた。
この城に来たばかりの頃、私はただの迷い子だった。居場所を失い、未来も見えず、ただ日々の作業に没頭することで心を保っていた。けれど今は違う。この城は、スカーレット様と共に生きる場所であり、私が守りたい場所になった。彼の孤独を、少しずつでも溶かしていきたい。
夕餉を彼の部屋に運んだ時、彼は短く「感謝する」と言った。その一言にどれほどの想いが込められているか、私には分かる。彼の瞳に、感情の光が戻ってきたように見えたから。
――スカーレット様。あなたの孤独を、どうか私にも分けてほしい。
胸の奥でそう願いながら、私は静かに息をついた。




