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髑髏王と枇杷の姫  作者: べにいろたまご
第一幕 髑髏の庭
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1-1 宵闇の城

挿絵(By みてみん)




 世界は、今や光の祝福と、闇の呪いが混在する場所となっていた。


 祝福は、光を信仰する人々が暮らす豊かな王国と、光の神の力が宿る魔法によってもたらされる。一方、呪いは、闇に侵食された森や、邪悪な魔物が潜むダンジョンにその姿を現し、人々を恐怖に陥れた。


 そんな世界の片隅、人里離れた深い森の奥深く、深い霧に覆われた場所に、不気味なまでに静まり返った城があった。古びた石造りの城は、常に宵闇に包まれ、その姿は遠くから見ると、まるで闇夜に浮かぶ巨大な髑髏のようだ。人々はいつしか、この城を「宵闇の城」と呼び、城の主を「髑髏王」と呼んで恐れた。その城に近づく者は誰もいなかった。いや、近づくことすらできなかった。城の周囲は、不気味な魔力に満ちており、生者の気配を全てを呑み込んでしまうからだ。


 城の内部は、外観の不気味さとは裏腹に、驚くほど整然としていた。磨き上げられた黒曜石の床は、蝋燭のわずかな光を反射し、壁には美しいタペストリーがかけられている。広大な図書館には、古今東西の書物が所狭しと並び、錬金術の研究室には、怪しげな薬草や魔道具が並べられている。だが、そこには人の生活の痕跡がなく、ただただ時間が止まったかのような静けさが満ちていた。


 城の主、スカーレット・クロウは、不老不死の呪いを背負って以来、ほとんどの時間をこの城で過ごしてきた。彼は、生者の気配が途絶えたこの場所で、ただただ空虚な時間を重ねていた。彼の姿は、この世のものとは思えぬ美しさを纏っていた。青白い肌に、燃えるような朱赤の長い髪、血の色のような赤い瞳。その姿は、かつて「緋色の王子」と称えられた頃の面影を色濃く残していたが、その眼差しには感情の欠片も宿っていなかった。


 スカーレットの肩に止まった一羽の烏、レイブンが静かに話しかける。レイブンは、スカーレットの守護聖として、彼に仕える存在だった。


「今日も変わらないな、スカル」


 スカーレットは虚ろな瞳で空を見つめたまま、静かに答えた。


「ああ、レイブン。今日もまた、終わりのない一日が始まる」


「終わらない日々を、お前はどれほど重ねてきたのだろうな。俺には想像もつかない」


「想像しなくていい。この孤独は、僕一人で十分だ」


 スカーレットはそう言って、再び沈黙した。彼の心は、時間とともに凍りつき、感情という感情をすべて失ってしまっていた。


 そんな時だった。


 城の遥か遠くから、何かを追い求めるかのように、風が強く吹き抜けていく。

スカーレットは、その風の中に、微かな人の気配を感じ取った。


「…珍しいな。こんな場所に、人間が迷い込むとは」


「ふん。どうせ、財宝目当ての愚か者だろうさ。放っておけ。どうせ、すぐにこの忌々しい森に呑み込まれる」


 レイブンはそう言って、興味なさそうに首を振った。スカーレットは、その気配に特に反応することなく、ただ空を見上げたままだった。彼の心には、何の関心も湧かなかった。この森に迷い込む者は、皆同じ末路を辿る。それが、彼の知る世界の摂理だった。


「…行くか、レイブン」


 スカーレットは立ち上がり、静かに城の奥へと歩き出した。彼は、迷い込んだ人間のことなど、すぐに忘れ去ってしまったかのようだった。


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