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髑髏王と枇杷の姫  作者: べにいろたまご
第二幕 朽ちた果実
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2-5 傲慢な駆け引き

第二幕 朽ちた果実

 五章 傲慢な駆け引き




 スカーレットの放つ影の魔力に、ロウクワット一族は一瞬、息を呑んだ。

 彼らが軽んじていた「髑髏王」の力は、想像を遥かに凌駕していた。空気が凍りつくような冷気が肌を刺し、肺に吸い込んだ息は氷に変わるかのように喉を塞ぐ。誇り高き光の魔力が、闇に吸い取られるように細り、ひび割れていくのを彼らははっきりと感じ取った。


 しかし、恐怖の色はすぐに塗り潰される。彼らの心に巣食う傲慢は、理不尽な現実を拒絶し、かえって虚勢を強める。

 ルビアは顔に走った冷汗を拭おうともせず、唇を歪ませて笑った。その笑みは、人のものではなく、飢えた獣のように醜悪だった。


「ほう……厄介な魔力をお持ちのようだ。だが闇など、我らロウクワットの清らかな光の前では塵に等しい」


 そう言い放つと、彼は両腕を掲げ、眩い光を膨らませた。背後の一族もそれに倣い、一斉に魔力を解き放つ。瞬く間に城門前に純白の結界が張り巡らされ、スカーレットの影と押し合う。

 光と闇がぶつかり合い、軋んだ音が耳を裂き、地面には蜘蛛の巣のような亀裂が走る。砕けた石片が宙を舞い、宵闇の森に鋭い閃光がきらめいた。


「その力を無駄にするな。もう一度言おう、髑髏王。我らと手を組めば、お前はさらに力を得られる。この朽ちかけた城で隠居するより、世界を支配する者となれ!」


 ルビアの声は光の轟音に混じりながらも、狡猾に響いた。

 彼らは知っていた。スカーレットがかつて王族に連なる者だったことを。誇りと孤独、その残響を揺さぶれば、彼は欲に応じると愚かにも信じていた。


 だが、スカーレットの瞳は一切揺れなかった。


「世界を支配? くだらない。私には、貴様らの欲に濁った光など、一片の価値もない」


 低く鋭い声が、氷結した空気を切り裂いた。

 その瞬間、彼の周囲に渦巻く影がうねり、光の結界を侵食し始める。闇は破壊だけでなく、相手の根源へと染み込み、魔力そのものを腐らせる性質を帯びていた。光の壁はじりじりと濁り、やがて靄に包まれて力を失っていく。


 背後で見守るジェイドは息を詰めた。スカーレットが怒りを顕すと、これほどまでに恐ろしく、抗いがたい存在となるのか。

 だが彼の言葉の端々に、ジェイドは確かなものを聞き取っていた――彼は、この理不尽な一族から「何か」を護ろうとしている。彼女の存在を、彼女の心を、踏みにじろうとする彼らを拒絶しているのだと。


「やめなさい! あなた方はスカーレット様の力も心も、何ひとつ理解していない!」


 ジェイドの声が、荒れ狂う魔力の中に震えて響いた。

 だがルビアは意にも介さず、なおも光を増しながら叫ぶ。


「小娘のたわ言だ! 髑髏王、これが最後だ。我らに従うか、ここで滅びるか!」


 光は最高潮に達し、森の影を押し払った。だがその白光の只中で、スカーレットは彼らを冷然と見下ろした。


「選べ? 貴様らごときに、私が選択を委ねると?」


 その瞬間、闇は凝縮され、背後に巨大な幻影を形づくった。

 黒々とした髑髏――空を覆うほどの大きさで、眼窩から迸る闇光が、結界を音を立てて蝕んでいく。ガラスが砕け散るような亀裂が走り、純白の壁は崩れ落ちていった。


「これが、私の答えだ」


 その声は森全体を震わせた。

 感情を失ったはずの彼が、ただ一つ――護るものを踏みにじられたときだけ見せる、凍てついた怒りの声。

 背後の髑髏の幻影は、光の一族にとって超えることの叶わぬ深淵そのものであった。


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