2-3 故郷を追われたはずなのに
第二幕 朽ちた果実
三章 故郷を追われたはずなのに
宵闇の城の門前に現れたロウクワットの面々は、ジェイドの姿を捉えると、侮蔑と傲慢に満ちた視線を向けた。スカーレットの背後に身を寄せるジェイドの隣で、ミィは低い唸り声を漏らしている。喉を震わせるその音には、一族が放つ光の魔力に対する、本能的な拒絶がこもっていた。
ロウクワットの光は、育む太陽ではなかった。皮膚を焦がし、骨にまで突き刺さるような灼熱の刃。その光に晒された門扉や石壁が、かすかに軋みを上げるのが聞こえた。
「ジェイド・ロウクワット。まさか、生き延びていたとはな。しかも髑髏王の懐に潜り込むとは――一族の威厳を汚す所業よ」
先頭に立つのは叔父のルビアだった。冷徹な声には、ジェイド個人への憎悪とともに、「髑髏王」という存在を認めぬ敵意が滲んでいた。
ジェイドは顔を上げ、震える声で応じた。
「威厳? 困窮する人々を顧みず、己の魔力に酔いしれるだけのあなた方に、そんなもの残っていません」
その瞬間、ルビアの表情は怒りで歪んだ。背後の一族が一斉に光を放つ。大気がきしむように震え、ジェイドの胸に針を押し込むような痛みが走った。体内の魔力を締め上げられ、息が詰まる。かつて追放の際に浴びせられた苦痛が、再び蘇る。
スカーレットの瞳が僅かに動いた。彼の影が波紋のように広がり、ジェイドを覆う光をひとつずつ呑み込んでいく。
「……不快だ」
低い声に呼応するかのように、門扉を這う闇が濃く沈み、ロウクワット一族の足元に黒い影が絡みついた。彼らの光が、急に色褪せて見える。城の主の領域に踏み入れた瞬間、その光自体が根を断たれたのだ。
「……何用だ」
スカーレットの声は静かで、感情を帯びぬまま、しかし絶対の圧を宿していた。ルビアは一瞬怯みながらも、誇りを盾にして口を開く。
「髑髏王。我らが求めるのはこの娘だ。忌まわしき異端を連れ戻し、裁きを下すために参った」
ジェイドは身を震わせる。待ち受ける裁きがどれほど残酷か、想像するまでもなかった。彼女は叫ぶ。
「追放しておきながら、今さら何の権利が!」
しかしルビアは冷笑を崩さない。
「お前が髑髏王に仕えていると聞いた。そして、その力の強大さも。もしその力を我らに差し出すのなら――お前の罪は不問にしてやろう」
そこで、彼らの真意が露わとなった。ジェイドの尊厳など初めからどうでもよい。狙いは髑髏の力、その利用にあった。
ジェイドは怒りを越え、冷たい絶望を覚えた。彼女の命も存在も、彼らにとってはただの道具でしかない。
「……身勝手な」
スカーレットの声は淡々と響いた。だが、その奥底で影がざわめく。渦を巻き、囁き、足元の大地を脈打たせる。彼の瞳に微かな苛立ちが宿るのを、誰も気づかなかった。ロウクワット一族は自らの光に酔いしれ、闇の揺らぎを見落とした。
その無知と傲慢が、やがて彼らを飲み込む破滅の兆しとなっていた。




