表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
髑髏王と枇杷の姫  作者: べにいろたまご
第九幕 終焉の序曲
103/166

9-8 闇への反逆

第九幕 終焉の序曲

八章 闇への反逆




 城の庭は静まり返り、冷たい風が石畳の隙間をすり抜ける。塔の影が長く伸び、庭の中心に向かって光と闇が交錯していた。

 そこに踏み込んできたのは、再び姿を現したロウクワット一族。かつて私に禁じられ、この地から追放され、力を奪われたはずの者たちだ。


 私は彼らを見据えながら、脳裏に焼き付いている光景を思い出す。

 かつてこの庭で、彼らを罰したときのことだ。

 涙と恐怖に震え、土に膝をつき、赦しを乞う声を張り上げていた。屈辱に顔を歪め、誇りを失い、それでもなお命だけはと必死に縋りついた――その姿は、まぎれもなく私の眼前にあった。

 だが今、目の前の彼らにはその影はない。怯えも、後悔も、悔恨も。あるのはただ、慢心と自惚れに濁った眼差しだけだ。塔を背に、自らが舞台の主だとでも思っているのだろう。滑稽であり、哀れである。


 胸の奥で、冷ややかな苛立ちが揺らめく。

 ――なぜ、お前たちは学ばない。

 あれほどの屈辱を刻まれながら、どうして再びここに立てるのか。


 レイブン、ジェイド、ミィには、城の奥で待つように言い含めてある。

 彼らは私にとって仲間であり、共に歩む者たちであり、守るべき存在だ。だが、今宵の戦いは別だ。これは私が背負わねばならない因縁であり、彼らを巻き込む理由はどこにもない。……むしろ、彼らを前にしてこの醜態を曝すロウクワットの姿など、見せるに値しない。


 遠く、森の影からかすかな囁きが届く。

 スノウの声――甘美で残酷な天使の囁き。

 その響きが一族の耳を満たし、傲慢をさらに煽っているのがわかる。

 だが私は惑わされない。天使の声など、愚か者を操る毒でしかない。


 庭に足音が重なるたび、過去の影と現在の姿が重なって見える。

 膝をついていた者が、今は胸を張って歩いている。

 震えていた瞳が、今は私を睨み返している。

 愚かしさは変わらないのに、彼らはそれを誇りと錯覚しているのだ。


 私は小さく息を吐き、思考を整える。

 仲間を遠ざけたのは正しかった。

 ここで私がすべきことは、ただ一つ。彼らの錯覚を打ち砕き、二度と立ち上がれぬよう刻みつけること。


 ――さっさと終わらせよう。

 この愚かな舞いは、長々と続ける価値すらない。


 庭の影が揺れ、静寂が深まっていく。

 その中心で、私はただ一人、冷ややかに立つ。孤独は弱さではない。むしろ私を鋭くし、冷静さを研ぎ澄ませる。


 今宵、庭に足を踏み入れた者たちよ。


 約束を違え、二度とないと告げた私の言葉を嘲った報いを、これからその身で味わうがいい。


 光と影が交差する庭が、戦いの舞台に変わっていく。


 私は、これから始まる舞台の唯一の支配者として、彼らの前に立った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ