9-8 闇への反逆
第九幕 終焉の序曲
八章 闇への反逆
城の庭は静まり返り、冷たい風が石畳の隙間をすり抜ける。塔の影が長く伸び、庭の中心に向かって光と闇が交錯していた。
そこに踏み込んできたのは、再び姿を現したロウクワット一族。かつて私に禁じられ、この地から追放され、力を奪われたはずの者たちだ。
私は彼らを見据えながら、脳裏に焼き付いている光景を思い出す。
かつてこの庭で、彼らを罰したときのことだ。
涙と恐怖に震え、土に膝をつき、赦しを乞う声を張り上げていた。屈辱に顔を歪め、誇りを失い、それでもなお命だけはと必死に縋りついた――その姿は、まぎれもなく私の眼前にあった。
だが今、目の前の彼らにはその影はない。怯えも、後悔も、悔恨も。あるのはただ、慢心と自惚れに濁った眼差しだけだ。塔を背に、自らが舞台の主だとでも思っているのだろう。滑稽であり、哀れである。
胸の奥で、冷ややかな苛立ちが揺らめく。
――なぜ、お前たちは学ばない。
あれほどの屈辱を刻まれながら、どうして再びここに立てるのか。
レイブン、ジェイド、ミィには、城の奥で待つように言い含めてある。
彼らは私にとって仲間であり、共に歩む者たちであり、守るべき存在だ。だが、今宵の戦いは別だ。これは私が背負わねばならない因縁であり、彼らを巻き込む理由はどこにもない。……むしろ、彼らを前にしてこの醜態を曝すロウクワットの姿など、見せるに値しない。
遠く、森の影からかすかな囁きが届く。
スノウの声――甘美で残酷な天使の囁き。
その響きが一族の耳を満たし、傲慢をさらに煽っているのがわかる。
だが私は惑わされない。天使の声など、愚か者を操る毒でしかない。
庭に足音が重なるたび、過去の影と現在の姿が重なって見える。
膝をついていた者が、今は胸を張って歩いている。
震えていた瞳が、今は私を睨み返している。
愚かしさは変わらないのに、彼らはそれを誇りと錯覚しているのだ。
私は小さく息を吐き、思考を整える。
仲間を遠ざけたのは正しかった。
ここで私がすべきことは、ただ一つ。彼らの錯覚を打ち砕き、二度と立ち上がれぬよう刻みつけること。
――さっさと終わらせよう。
この愚かな舞いは、長々と続ける価値すらない。
庭の影が揺れ、静寂が深まっていく。
その中心で、私はただ一人、冷ややかに立つ。孤独は弱さではない。むしろ私を鋭くし、冷静さを研ぎ澄ませる。
今宵、庭に足を踏み入れた者たちよ。
約束を違え、二度とないと告げた私の言葉を嘲った報いを、これからその身で味わうがいい。
光と影が交差する庭が、戦いの舞台に変わっていく。
私は、これから始まる舞台の唯一の支配者として、彼らの前に立った。




