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髑髏王と枇杷の姫  作者: べにいろたまご
第九幕 終焉の序曲
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9-7 慢心の勝鬨

第九幕 終焉の序曲

七章 慢心の勝鬨




 城の庭は静まり返っていた。かつて髑髏王スカーレットに踏み入れることを禁じられ、二度とこの領域に姿を見せないと誓ったロウクワットたちが、今まさにその禁忌を破ろうとしている。心の奥底に恐怖を抱えながらも、傲慢と慢心がその恐怖を押しのける。


 「あなた方は、力ある者として当然の権利を取り戻す時が来たのです」


 スノウの声は、遠く森の影から、まるで微風のように流れ込む。白磁の肌、純白の髪、銀色の瞳――その姿は里の者の目に映らずとも、言葉のひとつひとつが確実に心に触れる。


 ロウクワットたちは、過去の屈辱を思い返す。髑髏王の前で力を奪われ、恥辱に塗れたあの日。しかし今、スノウの甘い言葉が心に差し込み、彼らの野心を再び呼び覚ます。慢心の炎が胸を焦がし、傲慢の微笑みが顔に浮かぶ。


 「勝利は、必ずあなた方の手に――」


 声が耳をくすぐるたび、理性が少しずつ溶けていく。恐怖は忘却され、過去の誓いも、髑髏王の怒りも遠く霞んでいく。彼らは自らの正義と力を信じ、再び城の庭へと足を踏み入れた。


 塔の影が長く伸び、石畳に映る姿が揺れる。風は冷たいのに、心の中の熱気は消えない。傲慢な誇りと慢心が、里の空気を支配する。その胸の昂ぶりに、過去の恐怖はすべて塗りつぶされていた。


 スノウの心の奥では、銀色の瞳がかすかに光る。スカーレット――彼をこの手に抱ける日は近い。そう思うと、内心は歓喜で満ちる。慈愛の仮面の下で、渇望と狂気が疼き、言葉にならぬ熱が胸を焦がす。


「スカーレット…僕たちの最初の旅は、どこにしようか…」

 その囁きは里の者に届かないが、心の内で暗躍は確実に進む。スノウの存在は影でしかないのに、言葉は甘く、彼らの野心を深く耕す。


 庭を踏みしめるロウクワットたちは、自らの力が正義であり、勝利は必然だと信じる。塔の影や風の音、石畳の冷たささえも、勝利の劇場に彩りを添える小道具に過ぎない。慢心に支配された瞳は、過去の誓いも、髑髏王の怒りも映さず、ただ勝利を夢見る。


 静かな森のざわめきが、闇に覆われた庭に小さな波紋を作る。だがロウクワットたちには気づかない。すべてはスノウの掌の上で踊っているのだ――表向きは甘やかな声、裏では狂愛に満ちた計略。


 やがて、庭の中心に近づくにつれ、心の昂ぶりは頂点に達する。塔の影に映る自らの姿を無視し、かつて髑髏王に課された誓いを忘れ、慢心の勝鬨をあげる――その瞬間、スノウの微笑みは影の中で一層鋭く光って。


 ――スカーレット、もうすぐだ。もうすぐ、君が私のものになる。はじまりの鐘が聴こえるだろう…?


 愚か者たちの学びなき傲慢と誤った確信によって、今宵の舞台は整えられた。


 城の庭に影と風がざわめき、天使の欲望と狂愛がもたらす戦いの幕が静かに上がろうとしている。

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