1-8 小噺2 ミィの視点
第一幕 髑髏の庭
小噺二 ミィの視点
私は黒猫のミィ。この世でただ一人の、私の大切なジェイドの家族だ。
ジェイドは、枇杷色の髪と金色の瞳を持つ、高慢な一族の中で異端だった。翡翠色の髪と瞳を持つ彼女は、誰からも愛されず、孤独だった。私は、そんなジェイドの傍に、ただ寄り添うことしかできなかった。
彼女は、自分を必要としてくれる場所を探して旅に出た。私も、当然のように彼女について行った。幾度となく飢えに苦しみ、凍える夜を過ごした。それでも、ジェイドの心は決して折れなかった。彼女はいつも、私を優しく抱きしめて、「きっと、いつか見つかるわ」と、自分自身に言い聞かせるように呟いていた。
そして、たどり着いたのが、この不気味な城。
人々が「髑髏王」と呼んで恐れる、王様の城だ。初めて彼を見たとき、私は警戒心むき出しで、威嚇の声を上げた。彼の姿はあまりにも美しく、そして恐ろしかった。まるで、氷でできた彫像のよう。感情の欠片もなく、ただそこにいるだけの存在だった。
でも、ジェイドは違った。彼女は、王様の瞳の奥に、自分と同じ孤独を見つけた。私は、彼女の決意を感じ取った。彼女は、この城に、この王様に、自分の居場所を見つけたのだ。
あのカラスも、私に劣らず厄介な存在だ。
「厄介な人間」だの、「猫ごときが」だの、いちいちうるさい。でも、私も負けずに、彼を「カラス」と呼んでやった。ジェイドが城に残ることを決めてからは、門の前で焚き火を起こしたり、庭の草木を拾ったりと、一人で忙しそうにしていた。私は、そんな彼女の膝の上で、ただ温もりを与えてやるだけだった。
庭園での出来事は、私も見ていた。
ジェイドが、枯れた土に触れたとき、彼女の指先から光が放たれた。彼女自身も気づいていない、秘められた力。その光に触れた草木が、ほんの少しだが、生命を取り戻した。それを見て、あの冷たい王様の瞳に、微かな動揺の色が宿ったのを、私は見逃さなかった。
ジェイドが、王様の手を握ったとき、私は彼の温もりのなさに驚いた。まるで死んでいるかのようだった。しかし、ジェイドの温もりが、彼の冷たさを溶かし始めた。王様の心は、ジェイドの言葉と優しさによって、少しずつ、ゆっくりと、温かさを取り戻し始めている。
あの夜、門が開いたとき、私は胸が高鳴った。
ジェイドは、本当に自分の居場所を見つけたのだ。
王様は、ジェイドを拒まなかった。それは、彼の心に、確かな変化が起きた証拠だ。
この城は、まだ冷たく、孤独に満ちている。だが、ジェイドの存在が、この場所に温かい光を灯し始めている。
私は、そんなジェイドと、彼女の心に拠り所を与えた王様を、これからもずっと見守り続けるだろう。




