表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/8

【第六局】封じ手の邂逅──運命をなぞる盤上


囲碁武術選抜試験──年に一度、各国の若き才覚が集う非公式戦。

しかしそれは、裏では蒼牙蒼牙囲碁武術院の情報部が目を光らせ、戦棋士の“素材”を探っていた。


各地から招かれた者たちの中に、玄凛の姿があった。

彼は“玲秀の外部指南役”という仮の肩書のもと、特別枠として参戦を許されていた。

だが彼の目的は、ただ一人。


しかし試験会場に現れたその少女は、「兵棋」とは違っていた。

──感情がある。

──生きようとする意志が、瞳に宿っている。


かつて敗北の記憶を刻み込んだ“封じ手”の打ち主と、どこかが似ていた。


打ち始めた瞬間、玄凛は悟る。

この少女は、兵棋ではない。

「誰かの命令で打つ」者ではなく、「自ら選び、考え、進む」棋士だ。


対局は、静かに、しかし緊迫の中で進んでいく。


玄凛の戦棋核が未来予測を描こうとした瞬間、少女の一手がそれを超える。

それは、既に一度経験した“封じ手”の再現。

だが、微細に異なる“選び直された”一手だった。


──違う。

──これは、俺と同じ“何か”を抱えている者の手だ。


脳裏をよぎる。

誰かの声、誰かの手。

かつての自分、そして今の彼女。


局の終盤、玄凛は思わず手を止める。

盤上に置かれた石は、自身が蒼牙で繰り返し叩き込まれた布石と一致していた。

だがそれは、訓練の産物ではなく、誰かの意思によって生まれた“導き”だった。


──この手を打った者を、俺は知っている。


試合終了の鐘が鳴る。

対局は長時間にもおよび、「封じ手」とされ、勝敗には至らなかった。

記録者たちが結果を読み上げる間も、玄凛は目の前の少女から視線を逸らせなかった。


その手の震え、その息遣い、そのまなざし。

すべてが、かつての“自分ではない生き方”を思い出させた。


「……もう一度、打てるだろうか。

今度は誰かの命令ではなく──俺自身の意思として」


玄凛の中で、何かが静かに壊れ、そして生まれ直そうとしていた。


だが同時に、彼の中に鈍い苦味が残る。


──この少女は、兵棋ではない。

──だが、蒼牙の手が及ばぬ存在とも言い切れない。


改変された過去であっても、蒼牙の計画は続いている。

もし、この少女が、蒼牙の術式により導かれた存在

──いずれ“無我”と同じ道を歩む者だとしたら。


玄凛は心の底に重い憂いを覚えた。


──いつか、戦場で出会う日が来るのなら──その時は、刃を交えることになる。


ただの棋士として打ちたいと願った瞬間に、すでにその未来は選べない。

それでも、彼は目を逸らさず、彼女の打った手を記憶に焼きつけた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ