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【第一局】拾われし命──額に刻まれし「兵」の証

戦火に焼かれた市場跡、飢えた少年たちが石と墨を使って囲碁賭博に興じていた。

その中で、痩せた顔の少年・玄凛は異様な手筋を見せていた。


「負けたな……また、か……」

「こいつ、勝ちすぎだろ……」


玄凛は無表情で石を片付けると、米袋を奪って静かに去っていった。

彼にとって、生き延びることと勝つことは同義だった。

その様子を遠巻きに見ていた一人の男──蒼牙蒼牙蒼牙囲碁武術院の“徴集者”が目を光らせていた。


男は玄凛に声をかけた。

「よう、坊主。強いな。あんな石で、まるで名人級だ」

玄凛は無言で米袋を抱えたまま、去ろうとした。

「待て。褒美だ。囲碁が打てる場所を用意してやる」

振り返らない玄凛に、男は囁くように言った。

「食べ物も寝床もある。勝ち続ければ、もう飢えることはない」


その言葉に、玄凛はほんの一瞬だけ足を止めた。


「……連れていけ。試験対象に足る」

囲碁の才を見込まれた玄凛は、そのまま連行され、地下の研究施設へ送られる。

そこは、囲碁という名を借りた“戦力製造工場”だった。



試験体としての生活は地獄だった。

薬物の注射、感情を測る問答、睡眠を奪ったままの対局訓練、他の試験体との殺し合いすら命じられた。

次々と「失敗作」が搬出される中で、玄凛だけが生き残った。

むしろ彼は、そうした環境で“静かになっていく”自分を自覚していた。


──感情を排すことで、読みが明瞭になる。

──死を怖れぬことで、布石の幅が広がる。


数か月後、玄凛は「第一成功体」として記録され、戦棋核を正式に埋め込まれる。

その日から、彼の額には小さな焼き印が押されていた。それはただの番号ではない。


「兵器であることを証す、刻印──」


彼には、蒼牙以外に居場所はない。民でもなく、棋士でもなく、ただの“道具”として。

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