家令のクインス その2
その数年後にあのパーティーの一件で社交界が揺れ、なんとお嬢様がロマンド様に嫁ぐことになった時は大騒ぎでした。
誰もに優しい、時々ヘンテコなことを言うけど、底抜けに明るくてみんなが大好きなお嬢様が、醜聞の男と結婚したいと言うのですから。
それでも彼女の言い分を聞いて、取りあえず、何とか、辛うじて、みんながしぶしぶ納得しました。
「だってロマンド様が可哀想で見てられなくて。せっかく好きな人と結婚しようと頑張ったのに、ケチョンケチョンに怒られるし、お家は大変だし領地は混乱してるし。
おまけに恋人には逃げられるし。
あの時の様子が捨てられた子犬みたいで、放っておけなくて。ずっと心配してたら……何だか好きになっちゃってね。ほら、彼って絵本の王子様みたいに綺麗じゃない。金髪で青い瞳で、スタイルが良くて。
え、何でみんなそんな目なの?
私、変なこと言ったかしら?」
ええもう、変なことしか言ってないです。
けれど言い出したら聞かないのがお嬢様ですから、ご両親含めみんなが諦めました。
「まあ、良いんじゃないか(一度くらい結婚に失敗しても)」
「そうね。自分で選んだ人なら、まあ(ほっとくと一生結婚に縁がなさそうだし。少しでも結婚生活を味わうのは良い経験かも。すぐに戻って来ても良いのだし)」
「そうだな。きっと花嫁ドレス姿のお前は、すごく綺麗だろうな(可愛い妹の為なら、何枚でも作るぞ。こいつ全然お洒落しないから、着飾ってやる良い機会だ。何回結婚しても派手に祝ってやるからな)」
「「「まあ、しょうがないですね。お嬢様だから!
こうと決めたら、体が先に動いちゃいますから!」」」
庇護欲溢れるパルテェナは、まあよく何でも拾ってくる。
傷ついた小鳥、弱っている犬、猫、馬、牛、極めつけは子供。
そんな感じで小屋を建てたり、孤児院を増やしたり、学校を作ったりして、飲食店以外にも手と資金を出して雇用を生み出していたのです。
なのでまあ、ちょっとした我が儘なら仕方ないと思ったのです。侯爵家を立て直したら、子爵家に戻ることも想定して。
ですが離婚はせずに、仲睦まじく暮らしておられました。
その後も亡くなるまでパワフルに生きて、忘れ形見のアンシェル様も残して下さいましたので、これからも私達はアンシェル様に仕えていきます。
私は元子爵家の諜報員で、現在は独立して家令と独断で諜報仕事もしております。妻もそれを知っており、子供達も承知しております。
侯爵家の家令の私ですが、優先するのはアンシェル様です。
ロマンド様がこれ以上裏切るようなことがあれば………………
まあ、そんなことはないでしょうがね。
◇◇◇
黒髪黒目で薄く笑うクインスは、凍えるような瞳でヘラヘラしているこの家の当主を見ていた。