リーネと使用人達 その2
リーネは聡い子であった為、3才の時点で自分の境遇が結構な酷さであることを自覚した。
使用人に落とされたネルフィスだが、離婚はされていなかった為、外部から見れば未だ公爵夫人ではあった。
そうでなければ多くの憶測を産み、すぐに多くの混乱がもたらされたことだろう。
恐らく再婚問題などでも賑わった筈だ。
原因となったのはブルボンネの為、ネルフィスの父伯爵カルドネは勿論知っていたが。
◇◇◇
いくら不遇な生活を送ったネルフィスでも、育児と仕事の両立は無理だった。
だから何度も挫け、『このままこの子に惨めな思いをさせるなら、いっそ……。ああ、駄目よ、ダメダメ。こんなに可愛い子にそんなこと出来ない! 私はどうなっても構わない。この子だけは幸せにしてあげると誓ったじゃない』そんな思いで落ち込むことがあった。
傍で見守る使用人も、何よりリーネ自身がその辛さを身近で見てきた。
リーネ自身が我が身を憂いたこともある。
「私が居なければ、お母様はここから逃げられるのに。……私がいるから、苦労しているのよね」
壊れそうな心を受け止めたのは、ネルフィスではなく侍女長ライラックだった。
「お嬢様、それは違いますわ。貴女が居なければ、奥様はとっくに壊れていました。貴女が奥様の生きる希望なのです。弱気になっている場合ではありませんよ」
「そうかな。でも心配なの。私にも何か手伝えれば良いのに……」
優秀であるが故に苦悩するその小さな体を、ライラックは優しく抱き締めた。
「それでは私のお手伝いをして下さい。私これでも、少々忙しいのです。勿論、賃金はお支払いしますわ。その代わり、指導は厳しいですからね。御覚悟を!」
「はい、よろしくお願いします。ライラック」
涙を拭う幼子を見て、自身の過去とその姿を重ね少しだけ苦しかった。
◇◇◇
ライラックは前公爵家当主、ダルナンの侍女であった。ライラックの夫、カナタは公爵家の執事の一人であり、現在はダルナンの侍従として傍に仕えている。
いわばライラックは、ダルナンが残したこの家の監視役である。
それ故に、この事態にはほとほと手を焼いていた。
「私一人の手では余ります。どうすれば良いのかしら?」
悩んだライラックは、一度だけダルナンに手紙で指示を仰いだことがある。
答えは簡潔だった。
「ダルサミレは姉のミゼラの子が大公故、未だに力が残っていて危険だ。
お前は自己の身を守り、公爵家の状況を俺に報告することを第一優先とせよ。
だがもし、ネルフィスに見込みがあると思えば、お前の裁量で動いても良い。あくまでもダルサミレにばれぬように。
何も考えず流される人間は、守るには値しない。
それはお前が一番分かっているだろう?」
否定も肯定もない、こちらへ任された形。
けれどある意味で許可を得られたのだ。
「流される人間……ダルナン様はネルフィス様だけではなく、私の母のことを言っておいでなのですね。
私が弱き者を庇い傷つかぬように」
ライラックの実父の浮気により、幼き彼女を放置し、悋気で自死した実母のことを言っているのだと分かった。ダルナンは母を慕って尽くしていた、ライラックのことを知っていたから。
「ですが、私はネルフィス様は母として頑張っていると思います。ここに嫁いだ時とは別人のように、芯が出来たと感じております。
まあ、まだまだ弱腰ではありますが……」
ライラックは不敵に笑い、決意した。
その後は彼女の(ダルナン側の)仲間達と、さりげなく話し合いネルフィス母子を支えたのだ。




