07おもてなし凄い
大統領もだけど地球もそれをしてくれるところ、ほんと尊敬します。
「これがノラえもんなのか??丸い!なんかふにゃっとしてるっ」
「なのに、なんだか目が離せません。ノラえもんとはこのように、愛らしく……」
「ア、アルメイ!?」
「す、すみません」
アルメイの目から涙がツゥと流れる。
泣くのは私だと思っていたけど、アルメイが初になるとは驚いた。
「貴方の語ってくれたノラえもんに会えて感無量です」
「おれもっ、すっげえ嬉しいんだかんな」
二人は冊子を宝物のように抱きしめていた。
リーシャも抱き締めてから、地球の人達にお礼をいう。
「ありがとうございます。来たばかりなのに、これだけでもう胸がいっぱいです。サプライズなんて最高です」
「こんなに喜んでいただけたのなら、用意した甲斐もあるというものです」
その後は部屋に案内されて大きなソファへ誘導。
テーブルの上にはノラえもんの漫画とアニメのDVD、キャラグッズなどがあった。
「え?え?なんかノラえもんがいっぱい」
ジャニクが混乱し始める。
冊子は始まりに過ぎなかったって事か。
「こ、こんなにあるとは。予想外です」
2人は基本的に大統領が話してアニメの話になると首相が話す。
「おもてなしのプロフェッショナルが居るとこうなるかぁ」
ゼクシィ語でぼそっという。
「っ、これ、はっ。食玩!ということは、な、な、中身は」
「いかがなされました?」
サッと空気に緊張が走る。
「あ、いえ、お気になさらず」
なんとか衝動に耐えた。
目の前にお菓子があるという現実に。
「ああ、発作ですかね?」
「発作ですか?ゼクシィ大統領から渡されたプロフィールには明記されてませんでしたが」
「大統領用意周到だな。有能過ぎ」
「発作というか、美味しいものを食べたいというか」
「美味しいものですか?そういえば主食に関して聞いてませんでした。食べられないものはないと聞いてましたが」
「あの、地球の食べ物が美味しと聞いていたので、食べたいなぁって思ってまして……」
いやー、と目を緩ませて照れる。
2人の代表の人間達はそれを聞いて微笑む。
「それなら用意してますよ」
食い意地張った幼児を見るような目をされてしまった。
アルメイ達はテーブルの上が気になって仕方ないらしく、先にテーブルの上のグッズ紹介をお願いする。
例えばメモ帳。
ノラえもんの形で作られている。
ぬいぐるみ。
精巧だ。
ぬいぐるみは2人が我先に手にとって胸に抱き抱えていた。
私は食玩が欲しいので胸を開けておく。
「?、わあ!しゃべったあ!!」
「ジャニク、ノラえもんは喋るよ」
お腹の音声再生ボタンでも押したんだろう。
「フフフ、ボクノラえもん」
と発言した。
それを聞いたアルメイはどこですか?どこですか?といつもより早口で聞く。
「え!?あっと、どこだろ、わかんね」
「お腹ですよ」
首相が生暖かい目で教えてくれる。
すかさずアルメイも押したら「ノビノビくん、勉強しなきゃダメだぞ」と発する。
「内容が違います」
僅かに目がキラキラしている彼女。
「次は漫画とアニメです」
「アニメ!来た!」
ジャニクの興奮。
大統領が合図すると近くにいた人が大きなテレビを再生する。
──そこにはノビノビくんが空き地にいた。
シャイアンにボコられるいつもの光景。
そして、
『ノラえもーん!』
暗転したあと、アニメソングの主題歌。
さてはて、アルメイ達は。
「号泣!?」
ボロボロと2人とも私を挟んで泣いていた。
だから、わたしはまだ泣いてない。
もしかして、ゼクシィ大統領これ見てない感じ?
どうしよう、大統領泣かしたとか伝説になれるかもしれない。
***
大変なことになってしまった。
ジャニクとアルメイはテレビの前に目が悪くなる人間なら、叱られる距離で見ているのだが、かれこれ3時間ぶっ通しで目が一切離れないまま見続けている。
何度か声をかけたり、ゼクシィの食べ物を渡したりしているのだが、無意識に咀嚼しているだけで食べている意識もなさそうにしている。
夢中になり過ぎていた。
「すみません。反動が強くて、暫く2人は話せそうにないのでわたしが対応します」
2時間が経過した頃に2人を話し合いに参加させるのを諦めた。
因みに二人の片手にはノラえもんの人形がある。
そこは手放さないのね。
「こ、ここまで気に入ってもらえるとは。ゼクシィ大統領だけではなかったのだな」
冊子を渡した時の反応が凄かったらしい。
クリスマスプレゼントを貰った時の子供みたいな反応だったらしい。
だ、大統領!
良いんですか色々!?
威厳が消え去ってたってことですよ!?
「それは、その、お気遣いありがとうございます。それで、今後の事なのですが。先ずはゼクシィからのお土産です」
無難な石鹸とシャンプーを渡す。
「こういうものの他にもあるのですが、地球にとってかなり星の今後を左右する代物もあったのです。ですが、まだ早いとこちらで弾かせていただきました。ゼクシィと地球の交流が皆様にとって落ち着いた時にまたご提案させていただきます」
ろ過植物は刺激が強そうなので、苦笑。
二人は首を傾げ、しかし、深く聞くことはしない。
藪蛇かもしれないから聞かないよね。
「お食事はどうしますか?」
「食べます。テレビのリモコンをもらえますか?私が消します」
と、リモコンをもらい再生停止を押した。
ピッと。
それから1分経って2人はキョロキョロと周りを見る。
「2人とも、ご飯だから向こうに移動しよう」
「私はもう食べましたよ?」
「そんな、まだ、見てぇよ」
目をウルウルさせていたが、わたしはこの為に地球に来たんだ。
2人をふわりと浮かせる。
地球の人たちは息を飲んでそれを見た。
「う、浮いてる」
「まだみたいですリーシャ」
「もう3時間見てる」
2人はジタバタしていたが、本気ではなかったから解けはしなかった。
そのまま食事をするテーブルに置く。
数々の食べ物を前に私は意識を失いそう。
「なんだか変な形してるな」
「ずいぶん種類がありますね」
2人はきょとんとした顔で見ていたが、恐る恐る私を見る。
目の前に、目の前に。
(おにぎり!ハンバーガー!ポテト!)
わたしは手を合わせて、そっとおにぎりを持つ。
柔らかでいて、もっちりした感触に黒いのりがご飯の粒を優しく包んでいる。
スッと匂いをかいで米農家と海苔、塩生産者に感謝。
ぱくりと食べて、甘みが、甘みが、塩、塩だ。
うう、ぐす。
いけない、これじゃあ嘆きのリーシャを返上できない。
「えっと、食うか」
「ええ」
2人にとってご飯を食べて私が泣くのは毎日のことなのでまたか、という顔でおにぎりを食べた。
が、それはいつもと違う。
なにが違うかと言われれば口内に広がる味の多さに脳がぱしんと停止した。
これは、そう、良くリーシャは言っていた。
私達は幼馴染。
だから、彼女の口癖をすぐにそらんじられる。
ジャニクは自分の持つそれが分からなくて、兎に角ハンバーガーを無意識に手にとって口にしていた。
幼馴染の彼女が泣くといういつもの行動にやれやれとしていた筈。
なのに、彼は無意識にポテトを食べていた。
もう3品目を、いや目の前のものが消えていた。
いや、言わないと。
早く言わないと。
「「「美味しい!!!」」」
3人は決まっていた出来事のように揃って叫んだ。
2人は立ち上がっていて、リーシャはむせび泣いていて立てなかったけど。
「な、な、なんだ、これ??」
「地球の食べ物?これがそうだと言うのですか?こんなの、私たちの理解を超えて、ます。これが……美味しいというのですか?」
「これが、美味しい?美味しいっていうもの!?おい、リーシャ!リーシャ!お前、泣いてたから、俺達の食ってるもんと変わらないって思っただろ!なんで泣いてんだ!」
ジャニクは立ち上がって泣いている女の子を揺さぶる。
泣く必要なんてない。
彼女はべそべそしていた目を薄く開けて、顔を上げた。
「嬉し泣きだよおおお」