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時をつなぐ詩  作者: 中荷 平
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001 ―お姫様は僕の知らない遠い世界へ―

「これはいったいどういうことなんだ!!」

とある研究施設のとある部屋、とある男の怒号が施設内に響き渡る。

「それが、突然脱走した模様で・・・」

「見張りの者はなにをやっていた!?」

「・・・この有り様です」

床に転がっているのは白衣を着た数人の男。死んでいるわけではなく、息はある。

「くそ、まさかあれをつかって逃げるとは・・」

「しかしまだあれは試作段階。そう遠くへは行けないはずです」

「時間を掛けている暇はない。もうひとつの試作機の最終調整を行う。動ける者は全員持ち場につきなさい」

その言葉と同時にそれぞれの場所に散らばる。ある者は大きなモニターの前へ、ある者は所狭しと置かれているコンピューターの前へ。

「試作弐号機、最終調整段階に入ります!」

様々な機械の起動音と共に、試作機の最終調整は始まった。

数分経った頃、無言になっていたその部屋に一つの声が響いた。

「完了まであと2分程度!現在のところ、問題は全くありません!」

「よし、あとは誰が乗るかだ」

「問題がないと言ってもまだ試作段階です。移動にはそれなりの危険が伴いますが、どうしましょう?」

その施設の中でも一番偉い位だと思われるその男は、辺りを見回す。

「・・そうだ、あいつがいたな」

部屋の隅には腕組をしながら何を言うでもなく研究員の作業をじっと見ている若い男の姿。

「おい、そこの君」

「・・・はい?」

「君は確かこの施設に入ってきた理由は金を稼ぎたいからと言っていたな」

「正確にはたくさん稼いで家族に楽をさせる、ですが」

「そんなことはどうでもいい。メディカルチェックの結果は?」

「問題ありません」

かなりの細身だが、体にぴったり張り付いたその服のおかげで、筋肉の隆起がわかる。

少々の危険があったとしても、これなら大丈夫だろうと踏んだのか、男はその細身を今回の試作機の搭乗員に選んだようだった。

「今回の件がうまくいけば、そうだな・・・お前の家族が10年は十分暮らせるほどの金を出そう」

「ほ、本当ですか!?」

「あぁ、本当だとも。私を誰だと思っているんだね。この業界の権威だよ?金のことなら何とでもなる」

両者の顔は笑顔へと変わっていく。

一方は満面の、一方は不気味なものに。

「さて、この件についてなんだが」

「私は何をすれば?」

「脱走者の保護・・とでも言おうか」

「保護、ですか?」

「最悪、殺してしまっても・・・いや、なんでもない」

「はぁ・・・」

「最終調整、完了しました!!」

後ろから聞こえたのはこれから始まる仕事開始の合図。

「君にはこれから過去に飛んでもらう。そこには君と同じ、この時代に生きる人間がいるはずだ」

「過去・・」

「そうだ、過去だ。あの機械には君がそこで何をするべきか、移動中に直接君の脳に電波信号として送られるように設定してある。そして、その時代に必要なもの全て備え付けてある」

「・・・」

「何も心配しなくていい。過去の人間には君の姿は見えないようにする。安心して仕事をしてきなさい。さぁ、あの機械へ乗るんだ」

どうやら拒否は出来ないようだ。それでも、家族を楽にすることが出来るというのなら、こんな幸せはない。おとなしくそれに乗り込む。

外観は大人一人入ってしまえばもう満員状態になってしまうように見える、車輪の無い小さな車のようだったが、中に入ってみるとそんなことはなく、三人程度でも生活するには十分なスペースがあった。

どうやら、内部には目の錯覚を利用した造りになっているらしい。実際には狭くとも、人間の深層心理がそれを広いと決めつけてしまえば、もうその通りにしか見えなくなる。

科学の進歩とは便利であり恐ろしい。自分の見ているもの全てが真実ではなく、偽りが混じっているのか思うと少しこの機械が怖く思えた。

目を閉じながら内部に置いてあるイスに座る。あとは研究員が全てやってくれる。自分はこのまま待てばいいだけだ。

「ハイド・リクウィード浸透完了!コールドスリープを開始します!!」

「現在問題はない模様!このままいきます」

「よし、コールドスリープを開始しなさい」

ひんやりとした冷気が機械の中に行き渡る。

前に自分がこれを行った立場と言えど、自らが冷凍状態になることは想像できない。

いろんな考えが脳をよぎっている間に、意識はいつのまにか途絶えていた。

「コールドスリープ完了!!いつでも飛べます!」

時空平行移動ディメンションクロス、開始!」

静かな音を立て、車の形をしたそれは宙に浮く。

それと同時、大きな音を立て震えだしたのは、予定にはなかった動き。必要のない動き。失敗。

「どういうことだっ!?」

「げ、原因不明!制御できません!!」

一気にざわめきだす施設内には、平然を装っているものはいない。それぞれの作業は完璧だったはずだけに、原因不明の事故は研究員の焦りを生んだ。一人を除いて。

「・・・到着予定の時間は設定通りか?」

「は、はい!時間設定に狂いはありません。ただ、電波信号のフラグメンテーション、移動中の衝撃により脳に記憶障害、身体に悪影響等を及ぼす恐れがあります!」

「仕方ない、制御できないのならこのまま飛び立つのを見守るだけだ」

ただ一人、この状況を冷静に見ていた科学の権威は静かな口調で言った。

「そ、それでは中にいる者は・・」

「構わん。科学の進歩に失敗は付き物なのだよ」

震えだしたその機械は、数分後に眩しい光を発しながら跡形もなく消え去った。

その後、中にいた人間の安否を知る者は存在しなかった。



「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!・・・って、あれ?」

銃のトリガーを引いた後も、銃声は聞こえない。

代わりに銃口から発射されたのは、目に見えるほどの青白い電撃。自分に向けて発射されるとばかり思っていたそれは、故障している機械に向けて放たれたものだった。

「な、なんだ電気かよ~・・脅かしやがって」

「・・・あ、あの」

「!?」

しゃべった。今まで一言も言葉を発さなかった子が、遂にしゃべった。

今までの無視からやっと解放された瞬間。

心に負った傷は、しゃべりかけられたことでもう癒えてしまった。

「だぁしゃぁぁぁぁ!」

遂にしゃべった!やっとしゃべった!

思わず大きい声でガッツポーズをとってしまう。

女の子は、どうすればいいのか全く見当もつかないような表情をしていた。

短時間で二回も大声で、しかも急に叫んでしまったら退いてしまうのも無理はない。

落ち着いて、とりあえずこの子を安心させなければ。

「あ、えと、どうしたの?」

「・・・あなた、私が見えるんですか?」

何を言っているのでしょうか。見えるに決まっているじゃありませんか。

「ん~と、見えますよ。はっきりと」

「!!」

白い透き通った肌は、途端に顔は真っ赤になる。

「だ・・」

「だ?」

「だったら何で言ってくれなかったんですか!!私はてっきり周りから見えてないと思ってたのに!あなたが話しかけてきた時、本当に驚いたんですよっ!!私にずっと話しかけてくるから頭もどんどんパニックになっていくし、あと」

「お、落ち着け!とりあえず深呼吸だ!吸って~、吐いて~、吸って~、吐いて~。な?」

どうやらさっきからこちらを無視していたのはこのためだったらしい。

それにしても、なぜ周りから見えないと思い込んでいたのか、その理由は見当もつかない。

「・・・わかりました」

扱いやすい。

素直に従って深呼吸をするサイバーな服装に身を包んだ女の子。それを見つめる背の高い高校生。

何も知らない人から見れば、こんなシュールな絵はないだろう。良くて何かの撮影、悪くて女の子にヘンテコな服を着せて深呼吸をさせる変態高校生の図。

どちらにしろあまり人に見られたくはない。とりあえず高架下にこの子を連れていかなければならない。もちろん機械を持ち上げることは出来ないので、置いておくこととする。

「おちついたか?」

「それなりに」

「そっか。なら、あっちで話を聞くよ。ここじゃいろいろと目立ってしまうから」

「目立つ?なにがですか?」

「いや、いろいろと。とりあえずあっちに行こう」

手を取って行くわけにもいかなかったので、女の子より先に歩きだす。

数歩進んで後ろを振り返ってみると、まだ機械の傍にいるようだった。

「こっちこいよ~」

呼んでみても、近寄ってくる気配はない。

不思議に思い機械の方に引き返す。

「またなんかあった?」

「あの、壊れちゃいました。これ」

見ればわかる。車輪の無い車の形をしたそれは、あちこちに擦り傷が付いていたり、黒く焦げていたり、終いにはフロントガラスが無残にも割れてしまっている。

サイドガラスが無いところや車輪が無いところを見ると、この時代の車ではないことが一目で理解できた。

それはテレビや写真で見たことのある、未来の世界に存在する空を飛ぶ車。未来の生産物。

「そう、ですか」

いったい何を言おうとしているのか。

口から自然に出てしまった丁寧語は、この後に必ず来るであろう女の子の返事が突拍子もないものだということを、心のどこかで予想していたことの表れかもしれない。

「えぇと、その・・・直せるまで、家に置いてもらえませんか?」

「・・・えぇぇぇ!?」

無理。

1+1を30にするくらい無理。

「え、いや、何をおっしゃってますのですかな?」

動揺で日本語がおかしくなってしまう。

一人っ子。父親と母親と自分の3人家族。

父親は遠い北国へ出張中。母親も家計を少しでも楽にするため、夜遅くまで働いている。家では家族といるより一人でいる時間の方が長い。

なのでいいですよ、というわけにもいかない。

もし親に見つかってしまったら、その前に自分の部屋にこの子が入ってしまったら。

というか一つ屋根の下にそうとしの変わらない男と女。危険。男はみんな獣なのだよ、チミ。

理性が利くうちに断っておかなければ、何かあってからでは遅い。

いろんな考えが頭をよぎっていると、不意に女の子の声。

「どうかしましたか?」

「えぇっとですね、単刀直入に申しますと、無理ですね、はい。よく考えてみてください、男と女ですよ?自分で言うのもなんだけど、何かあってからでは遅いのですよ。わかります?その他もろもろとありますし」

「ふぇ?」

気の抜けた間抜けな応答。ちゃんと聞いていたのだろうか?

「だから、無理だって言って」

「あの、この機械のことなんですけど」

・・・あ、そうですか。この機械のことをおっしゃってたのでしたか。

こりゃとんだ失礼を。機械なら全然構いませんよ・・・

「ってなるかぁぁぁぁぁい!!」

最後まで読んでいただきありがとうございますm(_ _)m

誤字脱字等々あれば報告お願いしまっす。


もしこの作品を楽しみにしている方がこの世界にいらっしゃいましたら、感想やレビュー等を書いてもらえればやる気うpにつながり、投稿が早くなるかもですw


ちなみに詩とかいて「うた」と読みます。

個人的脳内保管用登場人物ノ声優様

女の子・下屋則子 様

細身の男・杉山紀彰 様

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