000 ―あなたとの出会いは必然―
この物語はフィクションです。
実在すr(以下略)
二度目の春が来た。
つい最近高校生になったかと思うと、もう二度目の春が来た。
「もう2年生か・・・」
今年で17歳になる背格好の高い男は、少し長めの茶色がかった髪を風になびかせ、桜の花が舞う川沿いを歩く。
4月、高校生になれば何か変わる、変われると思っていた去年の自分とは一切かけ離れた感情を抱き、向かうは毎日のように通う学校。
このまま平々凡々な日々を過ごし、そして大人になり、いつかは死ぬ。
そんな人生は楽しくない。何か一発でかいことをやりたい。そう思っていた1年間、ついに世界は何も変わらず、変わったのは自分の中にある冷めてしまった情熱。冷めてしまったからそれはすでに情熱とはいえない、ただの情が残るのみである。
楽しくないわけではない。友達もちゃんといるし、趣味だってある。好きな歌手だっているし好きな漫画もある。
彼女は・・・いない。
憂鬱な感情は、心を抜け出せないまま学校の門を体と共にくぐる。8時29分。
事前に発表されていたクラスは3組。知り合いはほんの数人しかいなかったが、結構仲の良い友達と同じクラスになれたし、なにより去年から少し気になっていた女の子とも同じクラスになれた。
今年は少しだが幸先が良い。
遅刻するかしないかギリギリの時間に教室に入った頃には、クラスの生徒は全員席についており、ドアを開いた瞬間39人の生徒と1人の教師の視線が突き刺さった。
「い、痛い・・・」
「遅刻ギリギリよ、さっさと席につきなさい」
「・・・うぃ」
美人女教師の浅川先生に促されて席に座る。
今日からあなたたちも2年生です――――――――
その言葉から始まった先生の長ったらしい話の後、これまた長ったらしい始業式と校長先生の話やらその他もろもろ。小学生から同じようなことを毎年繰り返しているとはいえ、長い。
「なぁなぁ」
後ろから声がかかる。
集会や式の時は話し込んでしまうと先生から注意を食らうのであまり話したくはないのだが、仕方なく振り向く。
田原謙次。高校に入ってからの知り合いで、それなりに仲は良い。癖毛が特徴。
日本人成人男性の平均身長より7cmほど背の低い幼顔は、目をキラキラさせてしゃべりかけてきた。
「なんだよ」
大きい声は出せない。ひそひそと話す。
「アメリカが極秘で“人体冷凍保存”を世界で初めて行ったらしい」
「はぁ?くらいおにくす?なんだよそれ」
「死んだ直後の人体を冷凍保存させて、未来の医療技術にその人間を復活させてもらおうっていうやつ」
「復活させてもらおうってやつって言われても・・・」
こいつはいつもよく分からないことをところ構わず、しかも拒否権無しで語ってくる。そんな話に興味なんてない。
ただ、こんなに目をキラキラさせてしゃべってくると、話を合わせるしかない。そう、仕方ないんだ。
「それが、その死体が日本人なんだって」
「なんでお前が極秘の、しかもアメリカの話を知ってんだよ」
「へ?ネットで見つけたから・・・」
「それ、ガセだろ確実に」
極秘の話がネットで普通に見れるようなら、それは極秘とは言わない。ただのガセだ。絶対。
「いやいや、それがね、その冷凍された日本人の父親が、人体冷凍保存のために自分の娘を殺したとかどうとかいう話が浮上してて」
「いやいや、って全然話繋がってないぞお前。てかなんでいちいち娘を殺すんだ?冷凍保存するんだったら誰でもいいだろ」
「あ、そっか」
「あと、なんで日本人の親がアメリカでそんなことしてんだよ」
少し声のボリュームが大きくなる。いかんいかん、抑えないと。
「ハーフなんだって、日本人とアメリカの。その女の子の名前は水瀬アリサってい」
「極秘じゃねぇだろそれ絶対!ダダ漏れじゃねぇか情報が!」
あ、やばい。こいつの話を聞いてると突っ込みどころが多すぎてついつい声が大きくなる。
また生徒の視線が刺さる。痛い。
「こら、静かにしろ」
近くに立っていた名前の知らない男性教師から注意を食らう。
男性教師Aから注意を受けた後は、謙次も話をしてこなくなった。
今日は始業式なので、学校も昼までで終わる。部活も入っていないし、家に帰る途中でどこかによる用事もない。
クラスで部活に入っていないのは自分ぐらいなので、必然的に一人で帰ることになる。みんな頑張れ。
行きと同じ川沿いを歩く。
やはりここから見える景色は数時間前と同じで、桜が舞っている。
目を閉じて歩いていても全く支障のない人通りに、いつもと違う何かを探そうと思っていたわけではない。
もちろん目は閉じていないので、今どこに何があるのかは確認できる。
目下の川にはいつものように澄んだ水が流れ、桜の花が流されていく。澄んでいると言っても、それは上から見ただけの感想であって、近づいてよく見てみるとその汚さは一目瞭然である。
ふと草むらを見る。そこにはいつもの風景にいつもと違うものがあった。
「ん?・・なんだあれ」
今まで見たことのない機械と、その周りをあたふたしている女の子。
黒いショートカットの、まるで芸能人のような顔立ちの整ったその女の子は、助けを求めるような眼差しをこちらに向けてきた。
かと思うと、視線を外し、またよくわからない機械の周りをうろうろとする。あたふたと。
「なにしてんだろ?」
一度は目が合ってしまったし、この辺りは人通りが少ない。助けを求めるにもそう出来ない。
ならば、ここで取る方法はただ一つ。あの子を助ける、それのみ。
ここで話さなければ、あんなに綺麗な女の子と話せる機会は金輪際無いと言っても過言ではない。
なにより、今までとは違う世界に、自分の知らない世界を知れるような気がしたから。
「な~にやってんの?」
まずは軽い物腰で、相手が初対面の人間に抱く不安を少しでも振り払おうと努める。
「!?」
驚いた表情。
「あ、ごめん。驚かすつもりはなかったんだけど」
「・・・」
なにも言わない。というより、こちらの存在を真っ向から否定しているかのように、自分は周りから見えていないとでも言うように、完全にこちらを無視し、また機械の周りをうろうろとする。
しかしその表情は困っているというより、驚いているようだった。
どこかのSF映画で見たことがあるような、サイバーな服装。
体の凹凸を強調するかのように体にぴったり張り付いたそれは、こちらの目のやり場を無くすには十分すぎた。
しかし、どうやら胸の起伏は乏しいらしい。少し緊張が和らいだ。
「えぇと・・・あれ、無視?」
「・・・」
やはり無視。新手のいじめなのか?
困った表情でこちらの善心を揺さぶり、助けに行ったところそれを無視する新手のいじめなのか?
「んっと、何か困ってんの?」
「・・・」
「が、外人さんですか?お顔がとても綺麗だから」
「・・・」
「あの、えっと・・・その機械は?こんなの今まで見たことないんですけど・・」
「・・・」
これはひどい。
これはあれなのか?いつのまにか俺は死んでいて、それに全く気付かずにこうやって話しかけているのか?
幽霊になってしまったのかぁ!?
そんなはずはない。ちゃんと息をしている。地面を足で踏んでいる。
女の子の顔はどんどん強張っていく。
相変わらずこちらを無視したまま、機械の一部分の前で立ち止まり、そこから工具箱のようなものを取り出し、中身を探る。
「え?」
中から取り出したのは、銃。またの名をピストル。
女の子には不釣り合いな物騒なものを取り出し、すたすたとこちらに近づいてくる。
見たことがある。サバイバルゲームで、主人公が最初から装備している攻撃力の低いハンドガン。
だがそれはゲームの中だけの話で、人に打てばもちろん死ぬ。当たり所が良くても重傷を負う。
「えぇぇ!?ちょ、ちょっと待った!落ち着けって!あぁ悪かった俺が悪かった悪うございましたぁ!!
だから殺すのだけはやめてくれ!な?話し合えばわかるって」
無言。中距離でも十分人を殺せるというのに、どんどんこちらに近づいてくる。
零距離か?零距離で殺すというのか!?
逃げようにも、その困ったような驚いたような表情の裏に、心無しか何かどす黒いものが見えて、足を動かすことができない。
「ま、待てって!落ち着」
――――――――まだ明るい真昼間に、一人の男の断末魔は空しく響いた。
稚拙な文章を最後まで読んでくれて本当にありがとうございます。
誤字脱字おかしなところ等々あればぜひご指摘お願いします。
ファンタジーか現代もので悩んだ挙句、ランキングにファンタジー作品が多いということで、こちらを処女作とさせていただきました。
個人的脳内保管用登場人物ノ声優様
主人公・阿部敦 様
田原謙次・梶裕貴 様
浅川先生・浅川悠 様
あと、主人公の名前が出ていないのはわざとです。
べ、ベつに出すタイミングがなかったからとかそういうのじゃないんだからね!