第17話ベアトリス
ジョアンとの結婚。
やっと正式に「妻」になれた。
なのに……なんで? なんで「子爵夫人」なの? 私は「侯爵夫人」になるんじゃないの?
どうして「侯爵」だったジョアンが「子爵」に格下げされてるのよ!
パパは私が貴族夫人になれたことを喜んでいた。
このままだと自分が死んだ後は私や子供達が平民になってしまう事を恐れていたから。パパは優秀な商人で、庶民から貴族になった。けど、一代限りの貴族位。だから永代貴族と縁組したかったのだ。
ジョアンと恋人になって伯爵夫人になれると思っていた。
でも、ジョアンは親兄弟に無理やり婚約者と結婚させられてしまった。別れるつもりなんて無かった。だって、ジョアンは正妻とは名ばかりの関係だったもの。ジョアンの子供を産めばその子が次の伯爵になると思った。そうなれば跡取り息子の生母として正妻にとって代われる。パパが勧めてくる縁談はどれもパッとしないものばかり、というのも理由だった。貴族といっても困窮しているところや男爵家ばかり。地位の低い貴族は嫌だし、嫁ぎ先が貧乏なのはもっと御免だった。条件の悪い結婚をするくらいならジョアンの愛人になった方が遥かに良い。
息子の代になれば伯爵家を好きにできる。
そう、信じて疑わなかった。
ジョアンが伯爵から侯爵になった時は、いずれ自分の息子が侯爵になるんだと喜んだ。正妻がジョアン以外の男の子供を次々と産んでいることを知ったのはその頃だった。夫の見向きもされない哀れな正妻と嘲笑っていたのに。
「これほどに厚遇されるとは。新国王陛下のジョアン殿に対する破格の待遇だ。新しく爵位を継いだアウストラリス侯爵は近々『公爵位』になると聞く。新国王の御代でも覚え目出度いようだ。これで孫達も安泰だろう」
「え? パパ?」
「ジョアン殿はアウストラリス侯爵の養父だった。前の奥方とも従兄妹同士の間柄だ。無下にはなさらないだろう」
パパの言っている事が理解できなかった。
私がパパの言いたいことが分かったのはジョアンの『妻』として社交界に出た時だった。ジョアンの前妻が亡くなった国王の『公式愛妾』だったのを知った。知らなかった。ジョアンは何も言わなかったし、殆ど家からでない私には情報がまわってこなかったせいだ。下位貴族の夫人は「上手くやったわね」と言うけど、そうじゃない。
私は侯爵夫人になるはずだった。
前妻は社交界の女王として君臨していた。
彼女の周囲には人が溢れている。
隣にいるジョアンは時折、眩しそうな目で前妻を見つめていた。
地位も権力も名誉も、全てを手に入れている前妻。
どうして?
本来、私がそこにいる筈だったのに。
今では、ただの子爵になったジョアンと共に周囲に埋没する存在だ。
前妻の子供は輝かしい道を歩いている。
私の子供も同じ道を歩いていくはずだったのに……。
どこで間違えたの?




