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第15話ジョアン1


 私には婚約者がいた。

 父上が決めた婚約者は従妹だ。フアナ・デ・アウストラリス伯爵令嬢。

 正直、婚約者というよりは「妹」のような存在だった。


 だから、愛するベアトリスを選んだ。



 なのに――


 

「どうして!? 何で、私じゃなくてあの女がジョアンと結婚するのよ! 婚約は破棄されたんじゃないの!?」


 ベアトリスが叫ぶ。

 私も叫びたい。



 両親に無理やり書かされたのだ。

 婚姻証明書を!

 実の息子にする行為か!?



 私はフアナと政略結婚した。


 


「私はジョアンの妻になりたかったのに!」


 ベアトリスが嘆く。


「ジョアンにエスコートされてパーティーに出たかった!」


 可哀そうなベアトリス。


 実家とフアナの心無い振る舞いにも腹が立つ。

 私は結婚後の夜会にフアナではなくベアトリスと共に出席した。


 まさか、フアナが父上にエスコートされて出席するとは思わなかった!

 そこは欠席しろよ!


 会場でひと騒動を起こしてしまったが、そこでフアナが国王陛下の目に留まった。

 次に夜会でフアナに会った時、彼女は国王陛下の隣で女王然と微笑んでいた。




「フアナが陛下の『公式愛妾』!?」


「煩いぞ、少しは落ち着いて話せないのか」


「父上! フアナは私という『夫』がありながら不貞を行うとは!」


 私が何を言おうが、両親も兄も冷ややかだった。挙句に「伯爵家の跡取りはフアナの産む子供であればいいのだ」とまで言われる始末だ。



 フアナが陛下の『公式愛妾』になって翌年、子供が生まれたと聞いた。

 幸か不幸か、私とベアトリスとの間に生まれた最初の子供も同じ年に誕生した。

 アウストラリス伯爵家は跡取りの「男児」の誕生に沸き立っている。国王陛下の子供が「私の子」として登録される屈辱に耐えなければならなかった。

 

 




 

「ジョアン、お前は果報者だな。あんな奥さんと結婚して」


「はっ!? どこがだ。私は不貞女と結婚してしまったんだぞ?」


「何言ってんだ! 国王の『公式愛妾』なんて、そうそうなれるものじゃないだろう。陛下は気まぐれな方だからな。()()()()()で終わった貴族夫人なんて()()()といるんだぞ! しかも、陛下の子供を三人も産んでるんだ。将来は安泰だな」


「何が安泰だ。私の子供は日陰に追いやられたんだぞ?」


「だから何だ。侯爵に位が上がったじゃないか。最終的には『公爵位』を得ると専らの噂だ」


「例え公爵になったところで、爵位は私の息子の物にはならない」


「いや、まあ、そうだけどさ。今を時めく寵姫にお願いすればお前の庶子にもおこぼれが貰えるんじゃないのか? 何せ、陛下は侯爵夫人を偏愛しているからな」


「……」


「子爵クラスなら簡単だろう?」


「フアナに頭を下げるのか……」


「何だよ、嫌なのか?」


「嫌に決まってるだろう」


「頭下げるだけで爵位も金も地位も貰えるなら、俺だったら何度でも下げるけどな……ジョアンはプライド高すぎだ。でもな、本当に子供のためを思うならプライド捨てて頼むんだな」 

 


 悪友は言うだけ言って帰っていった。


 



 

 叔父上が亡くなってアウストラリス家を継いだ。

 今では、アウストラリス侯爵だ。


 なのに、侯爵家に入る事が許されない立場になっている。



「父上、何故、僕達は侯爵家で暮らす事が出来ないのですか?」


 息子が疑問を投げかけてくる。


「お父様と同じ娘なのに、あっちは贅沢に暮らしているわ! 私も侯爵家で暮らしたい!」


 末娘が待遇の違いに文句を言う。


 侯爵になってから新しい館を購入した。

 それでも実家やフアナの屋敷との規模は違い過ぎる。

 両家の噂は嫌でも聞こえてくるのだろう。

 

 子供達にどう伝えたらいいのか迷う。


 異母兄弟と思っている相手が実はそうでないと話すには幼過ぎる。

 書類上、フアナの子供は「私の子」となっているのだ。

 自分達の母親が「愛人」という事は分かっているようだが、それでも()()()()()()()()と認識している。

 一番上の長女は賢い子だ。

 薄々感づいているのかもしれない。よく下の二人に「フアナ様の御子様達と私達では立場が違うのよ」と諭している。


 フアナは今では権勢高き『公式愛妾』だ。


 父上に頼んで彼女に頭を下げるべきかもしれない。

 そう思った矢先に王妃が死に、国王陛下が亡くなった。

 





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