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非日常メイドスカート  作者: ローリング・J・K
横雨の下の文化と人間について。
6/12

葬儀屋

あれから俺はまたしばらく歩いた。

人や獣の波に揉まれ、街も様々に枝分かれて俺は来た道を戻れるか不安になった。まぁ戻ってもあの洞窟しかないのだが。


そして漸く宿屋を見つけた。

ここら一体は宿屋街の様だ。ここで多くの選択肢を提示されてしまった訳だが、さてどうするか。

日もすっかり暗くなりつつある。

いくら親切な人間が多いとはいえ、夜の治安が保証されているかは分からないので、なるべく早く屋根のある場所に行きたい。


この腰の傘のせいで財布の中身は2400ガレル、最初の持ち金の半分ほどになってしまった。

いざとなったらスライムを売ればいいと考えているが、それもいつまで続くかは分からない。宿代は少し控えめにしておこうか...

しかし、こういう場所で金をケチると良くないとも言うしなぁ...


「お兄さん!宿探してるの?」


うお!びっくりした。振り返ると金髪のツインテールを揺らす、俺と同年代くらいの少女が立っていた。


「そ、そうだけど、何?」

「ならウチにおいでよ!めっちゃ安いよ!」

「え、いや安いと怖いし...」

「まぁまぁまぁほらこっち!」

「あ、おい!」


半ば強制的に連行された宿は別段、汚れているわけでもなく、豪華すぎるわけでもなかった。どうやらこの娘の一家が経営している宿らしい。

とは言え、普通のレベルの宿でもめっちゃ安いという訳には行かないと思うが。


「アタシ、『リッチ・ランデ』!あなたは?」

「柴咲蒼太だけど。」

「え〜変な名前〜。」


話していると受付の奥からカーテンを翻して金髪の男が現れた。


「リッチ、よく連れてきたね。後は父さんがやるからお前はもう寝てなさい。」

「は〜い!」


リッチは父親とは入れ違いに、受付のカーテンの奥へと走っていった。

あっちは自宅につながっているようだ。


「じゃあお客さん、何泊にしますか?」

「ああ、その前に1泊の値段を聞きたいのですが。」

「あぁ、本日からしばらくは50ガレルでいいですよ。」

「50ガレルっていうと...カントステーキ1個分!?」

「え?ええダンケル料理店はそれくらいだったはずですが、何で今その名が出るんです?」

「あ、いや別に。」

「ああ、お腹が減っているのならば、まだ夕食の時間帯ですのでご用意できますが。」

「え、ご飯付きで50ガレルですか!?」

「ええ、三食付けてです。」

「...それって、かなり安いですよね。」

「ええ、まぁ...」


「騙されたな、あんちゃん。」


急な声の方を向くと、腰の曲がった老人が階段から降りてきているところだった。


「あのかわい子ちゃんに呼ばれたんだろう?

今夜は少しでも稼がないと行けないからな。

全く、それをわかってて客引きなんてやらせるんだから。」

「お客様、娘をそんな目で見ないでいただきたいですな。」

「何を今更。」


「あの、騙されたとは、どういう。」

「ああ、今日は葬儀屋が泊まってるんだよ。」

「ちょっと、黙っておいてくださいよ!!」


「葬儀屋?...はぁ、そうですか」

そう言うと、いがみ合っていた二人は俺に目を丸くして向き直った。


「葬儀屋だぞ?本当にいいのかお前?」

「え、ええ危害を加えてこないなら...」


「危害は加えないですが....」

「じゃあ2泊3日でチェックインしようかな。」

「2泊3日!?いえ、ありがたいです。では100ガレル事前に頂きます。」

「はい。」


その時だった。背後のドアに付いたベルの音が鳴った。そのことから誰かが宿に入ったことがわかった。


後ろを見ると、全身を黒い革製の帽子やコートで包んだ白髪の男が立っていた。

翻るコートの背面には赤や金や白で縫い付けられた刺繍が独特の文様を描いており、西洋的な歴史や文化の重みを感じた。


帽子の下から覗く顔は以外にも若く、立ち振る舞いも高貴な印象を見せた。彼はそのまま誰と話すことも無く先程の老人とすれ違って階段を登って行った。


「ふ〜、おっかねぇ。今のが葬儀屋、デヴィッシュ・ダルトンだ。」

「デヴィッシュ?」


「ええ、葬儀屋は災いをもたらすとされていますからね。こういったサービス業で同席してしまった方にはお詫びとして料金を割引させていただいているのです。」

「へー、悪い人には見えなかったけどな。」


日本で言う『霊柩車が来たら親指を隠せ』という迷信に似たようなものか。

しかし、それが個人に対して行われているとは...それは最早迫害ではないだろうか。


「旦那さん、普段はこの宿はお幾らなんですか?」

「?ええ、1泊250ガレルですが。」

「ではやはり2泊で500ガレルお支払い致します。」

「え?良いんですか?」

「ええ、それでは部屋に案内して貰えますか?」

「はい...分かりました。」


部屋はやはり普通程度の小綺麗さだった。

綺麗すぎもしないし、汚すぎもしない。

寝巻き用のローブがあったのでそれに着替えると、従業員に頼んで今まで着ていたメイド服のクリーニングを依頼した。

俺は白いベッドに飛び込んで、こんなに柔らかい寝床は久しぶりだと感動した。

鞄の中から財布を取り出すと所持金はもう1900ガレルしか無かった。


カッコつけるんじゃなかったと少しだけ後悔した。

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