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非日常メイドスカート  作者: ローリング・J・K
横雨の下の文化と人間について。
2/12

傷とスライム

ところで、その特異なルールは俺に対して何か働いていないのだろうか。例えば手から炎を出したり、雷を吐いたりとそういう魔法のような物は。


周りの人間を見ても魔法らしき物を使う人間はいない。

人型の爬虫類や、先程から俺に翼がぶつかっている鳥頭の奴などはいるのだが。

いや、俺がこの土地の言語を理解していることこそが、その特異なルールなのかもしれないな。


「おや、失礼。」


鳥頭は俺に翼がぶつかっていることに気がついたらしく、俺の首元に抜けて落ちてしまった羽根を払おうとした。しかし、鋭い鉤爪が俺の喉を切り裂いた。


「痛っ。」

「あぁ!すまない!」


出血はしているもののかすり傷程度の傷だ。

俺はお気に入りのメイド服を汚さないようにすぐさま土下座の様な格好になって垂れる血の流れを抑えた。


「いや!違うんだ!襲うつもりは無い!!」


服を汚したくなかったという旨を伝えると、鳥頭は理解し、近くの自室に招待してくれた。

軽い治療目的らしい、何もそこまでしてくれなくてもいいのだが。


木造のアパートのような建物の2階に移動すると、そこには普通の人間と変わらない様な家具の揃った部屋があった。

鳥頭は自分のことを『グレス』と名乗ったので、俺も『柴咲蒼太』だと名乗った。


「本当にすまなかった。最近爪を切る暇が無くてね。」


グレスは部屋の奥からドロドロの透明の液体の入った瓶を取ると、俺をソファに寝かせた。


先程俺の喉元に落ちた羽根を持つと、傷の表面を撫でて溢れた血溜まりを払って、脱脂綿で受け止めた。

どうやら彼の羽根は撥水性が良いらしく、液体を移動させるのに丁度いいらしい。手触りも良く、傷を撫でられたのにも拘らずあまり痛みはなかった。


自分の首元はよく見えないが、ひとまず血は綺麗に取れたらしい。

赤くなった脱脂綿を銀の小さなトレイに置くと、グレスはもう1つの新しい羽根を用意し、瓶を開けてドロドロの透明な液体につけた。


「私の羽根はこれにつけても増殖しないんだぞ」


彼は何か誇らしげに自分の羽根を讃えていたらしいが、なにが凄いのかはよく分からない。

というか、鳥人間用の変な薬じゃないだろうな。人間につけても大丈夫なのか?


俺の心配をよそにグレスはその薬をその羽根で塗りたくった。思ったよりも少ない量で、傷から溢れた分は適宜脱脂綿で吸い取っている。


「安心してくれ。実は私は医者なんだ。天職だろう?」


確かに薬を塗る羽根が自分から取れるのならば天職とも言えるだろう。


俺は彼から受け取った鏡を見て驚いた。

先程までの傷が全く無くなっている。

指で傷跡をなぞってもヒリヒリとするだけで、その感覚でさえ現実なのか錯覚なのか分からないほど微弱だ。


「凄い。これはなんと言う薬ですか。」

「え!知らないのか?スライム(やく)じゃないか!」


自分は東の遠い国から来た為だ。と誤魔化すと、彼は驚きながらも納得していた。


「これは多種族のあらゆる傷の癒合をさせるもので、今の社会には不可欠だぞ。」

「そうなんですか。便利だなぁ。」


彼はこの世界の文明を知らぬ俺が面白かったのか、傷のお詫びだと言って簡易的な説明書と自分の羽を10本ちぎって、スライム薬と一緒に渡してきた。


「ありがとうございます。」


俺は何か礼をと思い、懐の中のキュウリを見つけて手渡すと彼は「ハハ、、、」と苦笑いをした。

俺はアパートを後にした。


俺は行く宛ても無く呑気に観光感覚で街をぶらぶらとした。

彼の部屋から出た頃にはすっかり横雨は収まって、街の人間も活気を取り戻していた。

俺は公共のベンチの様な所に座ると、先程貰った瓶と説明書をよく読んでみた。やはり書いてある言葉はわかる。


『スライム(やく)

君には分からないかもしれないが、少し前の研究で、実は生物は細胞という単位で構成されているということが分かった。

それは君も私も同じだ。

君の(くに)宗教(おしえ)と違っていたら申し訳ない。

長年スライムが他の生物と癒着する性質があったのもこれで解明されたんだ。

生物は幹細胞という細胞から目や肌や脳(人の頭の中にある考える臓器のことさ)の機能に分かれるのだが、スライムは幹細胞の塊であることがわかった。

しかもものすごいスピードで増殖するのさ。

だから君の傷に塗ったスライム薬は、君の肌を一瞬で増殖させることで傷を癒合させたんだ。

だからどの種族でも一様に効果があるのだな。

さっき少量しか塗布しなかったのも、無駄に肌を増やさないためだぞ。別にケチな訳じゃないからな。

目玉が4つになってしまった友人は元の形に整形するのは大変だったからな。

なんせ異物ではなく自分の一部になってしまったものを切り離すのだからな。

そうならない様に以下に取り扱い方を記しておく。


<使用方法>

・保存は必ず瓶などの無機物で行うこと。

間違って植物にでもかけたら、たちまち大木になってしまうので気をつけてくれ。

・塗る時は私の羽根を使うこと。

撥水性抜群の私の羽根はスライムに細胞を取り込まれないんだ。だから羽根は増殖しない。横着して自分の指で患部に塗ろうものなら、指と患部が一生離れないので注意すること。

・無闇に人に見せびらかさないこと。

これは本来医師免許が必要な代物(しろもの)で、今回は私が君を面白がって渡した物だ。偉い人に知られたら怒られてしまう。


なるほど。

この世界は割と最近のようだが、細胞を既に発見しているらしい。というか細胞の概念があったのだな。

更に幹細胞まで既に見つけているらしいな。

俺もテレビで見た程度には知っている。


とどのつまり、この世界のスライムというのは超高性能なiPS細胞のようなもので、生物に塗るとその部位が増殖するらしい。

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