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絶賛ループ中の悪役令嬢の私は最近モブの彼が気になっている  作者: 雲丹屋


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そのイレギュラーな人物は、基本的に各周回で一度だけ現れて、以後の周回では同じタイミングでは現れなかった。印象的ではない地味な風貌のため、最初はそれぞれ別の人物だと思っていたが、気にして見ているうちに顔を覚えた。どうやら服装や立場は違うものの同じ人物らしい。

大抵の場合、彼はドジな通行人や使用人として現れて、私の行動を間接的に遅らせるように行動した。

私は彼のことを心の中で"ゆっくりさん"と呼んだ。


ゆっくりさんは、私が居合わせたくない現場に向かうタイミングで現れて、私が遅参せざるを得ない事情を作ってくれた。

あるときは、山のような荷物を積んだ荷車を脱輪させて通りをふさぎ、またあるときは、学園の小道に大樽のワインをぶちまけた。

家畜の群れを迷走させたときは、教室にまで入り込み大騒動だった。実験用のヒヨコを大量に逃がして中庭を黄色くしたこともあった。

彼のお陰で、私は気まずいお茶会を欠席でき、王子殿下と浮気相手がイチャイチャしている現場に鉢合わせしなくてすんだ。


彼が制服を着て学内で生徒として現れた時には、私は思わず二度見しそうになった。

どうやら学園内の使用人や生徒で現れる場合はしばらくはその立場で過ごしているらしく、同じ周回で複数回遭遇することもあった。しかし、こちらから話しかけようとすると居なくなってその回は二度と現れなくなった。

「(まるで幸せの小人だわ……小人というには大きすぎるけれど)」

私は彼のことを見てみないフリをすることにした。


最初の馭者の一件以外では、彼は私には直接何かをしなかった。しかし、私に迷惑をかける人物には様々なアクシデントを起こしてくれた。

彼は私に言いがかりをつけてくる人物に道を尋ねて足止めしてくれた。「僕が慰めてあげる」と言い寄ってくるはずの男が、なぜか大人数の殴りあいの喧嘩に巻き込まれてボロボロになっているのを見たときは内心で喝采した。妙な義憤に駆られて勝手に浮気相手の令嬢を責めにいこうとする女友達たちのスカートに、彼が昼食の器をひっくり返したときは、「まぁ、ひどい」といいながら、心の中でこっそり感謝した。


どうにもやりきれない思いで何度も我慢したことを、彼がわずかながら回避させてくれるお陰で、私は壊れそうになるギリギリのところで、なんとか一息つけた。


ゆっくりさんは、直接姿を見せないときも、私のために何かしてくれているようだった。

彼が現れるようになってから、私は10日間の日常の中のわずかな間違い探しをするのが楽しみになった。

なかったはずの位置に置いてあった本は、いい暇潰しになった。

とても退屈な授業の日に、机の上に書かれていた落書きは、難解なパズル問題で、解くのに数日を要した。

いつもと違う味の紅茶が出てきたり、菓子皿の上に見慣れない一品があったりすると心が踊った。

部屋に飾られた花が、これまでの周回と違ったときは、思わず微笑みが漏れた。

「(大輪の華やかな花ではないところが、ゆっくりさんらしいわ)」

言葉もろくに交わしたことのない相手だったが、その姿を思い出すとなんだか幸せな気持ちになった。




教壇に牛が居座った回のことを思い出して笑いそうになるのをこらえながら、牛に似た顔の教授の退屈な授業を受けているとき、私はふと気がついた。

「(彼も毎回の記憶があるのかしら)」

そうとしか思えなかった。

手を変え品を替えの妨害工作は段々と効率化し、差し入れ品は私の嗜好を確実に把握しつつあった。なによりこの机の落書きや忘れ物の紙片で提示される問題が、段々と応用課題になったり、以前提供された本の内容まで網羅する難題になってきて、明らかに私に前回を踏まえた回答を期待している。

課題には万全のクールな回答を返したい私は、これまでに彼に提供された本や、提示された命題を掘り下げて、見識を深めるように努めた。そして"自習"時間を捻出するために、そつなく振る舞いトラブルを最小限にする方法を工夫した。


いかにスマートにトラブルとストレス源を回避し、自分のやりたいことを周囲に違和感を覚えさせることなく実行するか。

いつしか私はそんなゲームを彼と一緒にやっている心持ちになった。

彼は素晴らしいパートナーだった。

私は不愉快な出来事の隙間を、ゆっくりと優雅にすり抜けるすべを身につけた。


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