3ー2
時空監査局が用意してくれた転生先は要望通りで、私は充実した第2の人生を歩んだ。
その世界は元の私の世界よりも、技術的には進歩した世界で、色々なことが少しづつ複雑だった。
「(私っておとぎ話のような世界に生きていたのね)」
子供向けのお話にしては、戦争だ政争だと血生臭かったが、大概のことが比較的単純だった。
騎士が名乗り合いながらする戦争は、銃器や戦車でする戦争と比べればのどかだったし、国家も政治もカリスマ一人でなんとか動いた。この世界では国家間の問題を英雄や覇王が一人でひっくり返すのは無理だろう。なんとこの世界は神ですら複数いるのだ。
なるほど。私の預け先にここが選ばれたのも納得である。大きな世界では、個人の力の多寡は、それほど全体のありように影響を与えない。
恵まれた生まれで、何不自由なく育ち、理解のある両親や親族のお陰で、のびのびと好き勝手をしていた私のもとに、ある日、時空監査局からの連絡があった。
それは、大きなプロジェクトの一端を手伝って欲しいという依頼だった。
曰く……世界の命運を握る宝石を所有しているか、少なくともその在処の手がかりを握っている人物に接触して、同行して欲しい、だそうな。宝石を手に入れろ!ではないあたりが回りくどいが、面白そうではあったので引き受けた。
指定された時刻に、指定された場所で、指定されたとおりにしていると、教えられていたとおりの馬車がやってきた。
その御者台の御者の隣に座っていた従者は、彼だった。
間違いない。ひと目でわかった。
私は時空監査局の仕事の確かさに感謝した。
顔も体格も、なんなら年齢まで、記憶にあるそのままだった。もちろん身なりはこちらの世界風だが、御者台で従者姿とは、役割まで昔と同じだ。
ああ!ついに私はこの人のいる場所にたどり着いた!
そう思うと胸が熱くなった。
諦めて、心の奥底にしまい込んでいた思いが溢れ出る。
すぐにでも駆け寄りたかったが、私はぐっと我慢した。
馬車に乗っていた彼の主人は、軽薄そうな金髪巻き毛の優男で、私に色目を使ってきたが、そんなものは前世から慣れっこである。社交辞令で適当にあしらった。
時空監査局のターゲットは、馬車に同乗していた女性だ。黒髪で清楚な知的美人。控えめで、目立たないでいようと努力しているようにも見える、私とは全く違うタイプの女性である。
金髪男はこの女性を、自分の婚約者だと紹介した。婚約者がいて私に粉をかけてくるとは言語道断だ。私はこの男と社交辞令以上の関わりは持つまいと心に誓った。
私はプラン通りに偶然を装って近づき、彼らの旅に同行することに成功した。
観察していてすぐにわかったのは、彼が、従者としては不適切な好意を含んだ態度で、主人の婚約者に接しているということだった。
むかし彼が語った、一目惚れの片想いの相手というのは、なるほど、この女性だったのかと私は理解した。
そう言えば彼女は、彼が好んで飾った可憐で慎ましやかな花のイメージに当てはまる。
時折、彼女から行き過ぎた無作法……節度ある範囲だが、まるで恋人に対してするような親愛の表現……をたしなめられてバツが悪そうに恐縮している彼は、私の記憶にある彼よりもずいぶん若く年下に見えた。
「(でも、不毛な恋だわ)」
私は自分の色々な過去を棚に上げて、憤慨した。
どう考えてもここの世界の身分制度と慣習からすれば、従者が主人の婚約者と円満に結ばれることはない。
彼は好きな相手のために時空監査局に協力して世界を渡らせてもらうのだというようなことを話していた。そうやって無理をして世界を越えた挙げ句に、身分差の不倫だなんて不毛すぎて洒落にならない。それでは私も含めて誰も幸せにならないではないか。
彼がお似合いの相手と幸せに暮らしていたのなら、ただその様子をこっそり見て、自分の気持ちを整理しようと想っていたが、これではまったく納得がいかない。
親しくなった彼女に、少し探りを入れてみたが、彼女の方は彼のことを恋愛対象とは考えていないようだった。彼女は婚約者の金髪男に好意を持っているらしい。
「(獲ろう)」
私は決意した。
もう自分に関しては一切のしがらみはない。彼に対して幼すぎるわけでもない。ひょっとしたらちょっと年上だが、彼の意中の相手とさして変わらない。
彼を、婚約している男女に横恋慕するような犯罪者にするくらいなら、私が落とす。彼を振り向かせて、私に惚れさせて、昔、私を放り出していなくなったことを謝らせて、末永く幸せにしてやる。
完璧だ。
色仕掛けどころか、まともな恋愛をしたことすら全然ないのが不安要素ではあるが、前世も今世もモテているのは間違いない。よってくる男を蹴散らした経験はたっぷりある。本気で迫ったらなんとかなるだろう。
とにかく同じ世界の手が届くところにいるのだ!その気になればチャンスはいくらでもある。
私は自分を鼓舞し、勇気をかき集めて、難敵に立ち向かった。
無愛想な唐変木は、相変わらず無神経でとんちんかんで、親切で強引で、それでもたまらなく魅力的で私を翻弄した。
私は苦労の末、なんとか彼の目を自分に向けさせるのに、幾ばくかは成功した。
私は彼に手を握られ、抱きかかえられ、パーティでエスコートされて、共にダンスを踊る機会を得た。
幸せだった。
世界の命運を握る宝石とやらのせいで、トラブルには巻き込まれ続けたが、どんな危険も怖くはなかった。
私は彼を助けるためなら、なんでもできた。国だの世界だのに縛られずに、単純に好きな人への好きという気持ちに正直に動けるとき、私がどれほど無謀になれるのかは、自分でも驚くほどだった。
紆余曲折の末……。
墜落中の巨大な空中戦艦の炎上する翼の上に取り残された彼を助けるために、私は小型輸送機から、パラシュート一つ背負っただけで、炎に向かって飛び降りた。
本人は気づいていないが盛大な勘違いが一つ……。
彼女の冒険の詳細は下記参照ください。
長編「家に帰るまでが冒険です」
10章「下心」(304話)から
11章「救出」(443話)まで
トップページのタイトル上のシリーズのリンクからいけます。




