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新機体の製作開始


 放置された超高級素材の山を種類別に仕分けて切り分け、足の踏み場を作って先へと進んでいく。

 やがて、作業場じみたスペースにたどり着いた。

 使い道どころか使い方も分からないような魔法の機械が多数放置されている。


「……どれも壊れてるな」


 おそらく魔法の工房だったのだろう。

 オットーにはその分野の知識がないので、使えそうなのは机ぐらいだ。


「工具を運び込めば、十分に機体の新造は出来そうかな」

「ねーオットー、見てこれ!」


 レファが壁際についたスイッチをぽちぽち押した。

 奥の壁が開き、空へと伸びる滑走路になる。


「ここから出入りできるみたいだよ!? すごいねこれー!」

「おお!」


 秘密基地感が高まって、オットーが持つ少年の心が刺激された。

 それだけでなく、十分に実用的だ。

 この工房で機体を作り、テストして直接戻ってくることができる。

 元の所有者だったアイテラも、そういう使い方をしていたのだろう。


 二人は更に整理を進めていく。

 いくつか売れば十分に暮らせるような代物がポンポン出てきた。


「この魔石の山、私が貰っていいかな? これがあれば、カルマジニちゃんの餌代に困らないからさ」

「もちろん。魔法系の素材はレファにあげるよ。でも、全部売ったりしないでね。価値が落ちちゃうし経済も混乱するし、最悪これを巡って戦いが起きるから」

「う。売らないよ」


 そのうちレファは整理に飽きたか、金目のものを抱えてワイバーンの元へ戻っていった。

 さっそく売りに行く気だろう。


 一方、オットーはもくもくと整理を進め、ついにこの工房を綺麗に整頓された状態へと戻した。

 壁を開き、軽く掃き掃除をやって島の外に埃を飛ばしていく。


「よーし綺麗になってきた。あとは水で拭いてやれば完璧だな」


 彼は島を流れる川から水を汲むべく、地上へと戻った。

 ……何やら騒がしい物音が聞こえてくる。


「きゅいー」

「やめろー! 我は高貴なる大空の支配者なるぞー!」


 柔らかい物が大好きなシリンが黒猫を追いかけ回していた。

 元が人間だったからか、アイテラの動きは猫なのに鈍く、あっさり捕まる。


「きゅー」

「ぐわ! 撫でるなっ!」

「……撫でられたくないなら、猫の体になんてならなきゃよかったんじゃ」

「長い時を眠るのには、小さい体のほうが都合が良かっただけだー!」


 オットーは機体の荷物入れから水筒を取り出して、流れる川の水を汲んだ。

 シリンにじゃれ合われているアイテラが何か言いたげな視線を向けている。


「助けてほしいの?」

「このアイテラは、他人の助けなど受けん……!」

「きゅうー」

「ぐわーっ! 助けろー!」

「はいはい……シリン、離してあげなよ」


 開放されたアイテラが勢いよく走り、魔法の翼を生やして空に逃げた。

 白く輝く曲線的な光翼が、生物的に形を変えていた。

 〈セレスティアルウィング〉を完璧に制御して、その場に浮かび上がっている。


「この我が、まさかこのような……屈辱……! だが、助けられたからには礼をせねばならんな……よし、お前の魔法を見てやろう」

「じゃあ、機体を準備してくるよ」

「む?」


 オットーが〈ライトフライヤー〉の固定を外す。

 せっかくなので、退屈しているシリンを呼んで座席に乗せた。


「こんなものを使わなければ飛べないのか?」

「こんなもの!? 翼で空を飛ぶロマンが分からないっていうの!?」

「魔法の翼を使えばいいだろうに」

「いや……そうなのかもしれないけど……」


 オットーは金属の棒を握り、〈セレスティアルウィング〉を使い飛び上がった。


「なんと不格好な」


 隣を飛んでいる、というよりは”浮かんでいる”アイテラが言った。

 完全に魔法による飛行で、揚力だとかの航空力学的な原理ではない。

 アイテラの〈セレスティアルウィング〉が生み出している魔力の風は常に変化していて、その反動制御で浮かび上がっているようだ。


「我が魔法が泣いておるぞ。魔法制御の一切を放棄した力技ではないか」

「悪い?」

「……悪い、とは言わんが……その不格好な補助具は外せるようになるぞ」

「不格好な補助具、か」

「きゅ……」


 少し苛立ったオットーが、〈セレスティアルウィング〉の出力を全開にした。

 アイテラがあっという間に置き去りになる。


「ま、待て! 追いつけん!」

「反動で浮かび上がるような飛び方じゃ、最高速は伸びにくいはずだ。”不格好な補助具”のおかげで、僕は加速に全力を注げるけどね」

「……ふむ。理屈は成り立っているか」


 オットーは島の外周を回り、崖の途中に開口部を見つけた。

 あれが工房との直通路だ。短い滑走路へと、オットーがなめらかに着地する。


「こういうのはどうだ、少年。私が魔法を教える代わりに、お前がその不格好な……もとい、その機械の理屈を教える、というのは」


 意外なことに、夢の中で会った〈大空の支配者〉と同じ提案だ。

 性格は少し違えど、芯の部分はそこまで変わらないのかもしれない。


「戦闘力には困ってないし、魔法を教わってもなあ。わざわざ交換しなくても、聞いてくれれば答えるよ?」

「……他人から恵みを受ける気はない。我は我で、勝手にやるとしよう」


 アイテラが工房の中に歩いていって、にゃっ、と驚きの叫びを上げた。


「なんだこれは! 我の完璧な材料の配置が滅茶苦茶だ!」

「こっちのほうが整理整頓されてて使いやすいでしょ?」

「我は全て配置を覚えていたし、よく使うものは全て手の届く範囲にあったのだ」

「いやいや……」


 アイテラは端材を集めて、何やら翼らしきものを作り始めている。

 ここの工房にある材料を考えれば、以前にも翼を作ったことはあるのだろう。

 だが、どう見ても飛びそうにないデザインだったが……。

 それを横目に、オットーは水を使って更に掃除を進めた。


「きゅー」


 鼻息を荒くして、シリンが地下の探検に出かけていく。

 大冒険を終えたシリンが満足気に昼寝をはじめたころ、工房の掃除は完了した。


「さーて、やるか!」


 オットーは〈ライトフライヤー〉の荷物入れを椅子代わりにして、机に向かって設計図を描きはじめた。

 次の機体は高速性能重視だ。もっと速く、もっと高く飛べるものを。


(やっぱり〈リリエンタールⅡ〉がベースかな。高速性能を重視して、剛性を高めるために極限までシンプルな構造にして……)


 オットーはスケッチを重ねる。

 シンプルで幅の少ない設計だからこそ、基礎コンセプトが重要だ。


(リリエンタールⅡのときは鳥の翼をモチーフにしたけど、ライトフライヤーを作ってるときに翼は直線でも問題ないって分かったし、シンプルな形状でいいか。重心とのバランスを取るために、ちょっと後退させて……)


 試行錯誤の後、V字の翼からぶら下がるようなデザインが完成した。

 オリハルコン等の超高級素材がもたらすだろう剛性を活かし、翼の桁や骨も極限まで減らしている。

 中央と左右にオリハルコンの棒が一本づつあるだけ、という作りだ。


(〈セレスティアルウィング〉の加速を前提に、限界まで翼面荷重を高めて抵抗を減らすとして)


 今までと比べて、はるかに翼面荷重の高い……つまり、翼が小さいデザインだ。

 これ以上は何を削ることもできない。


(今までの乱流翼じゃなく、表面を滑らかにした層流翼にしよう。ここの材料なら、きっと可能なはずだ。扱いにくくなるかもしれないけど、抵抗は減る)


 オットーはスケッチの翼を滑らかにして、人間を書き足した。

 そこで彼の手が止まった。


(これ、人間が一番の空気抵抗じゃないか?)


 彼は人間を覆うようなカウルを書き足したが、首を振った。

 〈セレスティアルウィング〉を使う以上、密閉することはできない。


(そもそも、透明で軽い素材なんてここにも無かったしな。僕の服は滑らかな革とハーピィの羽毛で作られてるから、十分に抵抗は少ないはずだし)


 彼はカウルを消してうなずいた。

 材料は豊富にある。この設計で、まずは試作機を作ってしまおう。


(名前は……うーん。とりあえず”レーサー”のRでいいか)


 設計図の上に”R”とだけ記して、彼はオリハルコンの棒材を取りに行った。

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