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スカイ・ルーラー


 水槽から現れた猫が、二人を一瞥する。


「男の方が後継か。この程度の者のために待たされるとはな。しかし、そっちの女はなんだ? その程度の魔力で、どうやって空島の嵐を越えた……まさか、年月が経ちすぎて雑魚を選別するための仕掛けが壊れたのか?」


 猫が舌打ちした。


「な、何なのいきなり!? 失礼な猫だなー!」

「失礼なのはお前だ。このスカイ・ルーラーたるアイテラを前に、そのような不遜な態度……我に力が残ってさえいれば、とうに首を刎ねていたものを」

「聞いたこともないよそんなの! 猫のくせに生意気な!」

「ふん。貴様のような雑魚になど、教えてやる時間も惜しい」


(何だこいつ)


「何だこいつ、という顔をしているな、少年」

「……バレた」

「教えてやろう。我は〈スカイ・ルーラー〉、アイテラである。……時代を越えるために猫の姿を取ったが、元は絶世の美女であった」

「ふんだ! 自分で絶世の美女とか言ってる時点で性格ブス女じゃん!」

「んなっ……何だと小娘! 後で引っ掻いてやる! 覚悟しておけ!」


 ふーっ、とアイテラがレファを威嚇した。


「まあいい! 目的は分かっているな、少年」

「目的?」

「……? ここまで来れたなら、当然分かるだろう?」


 アイテラが眉をひくつかせる。


「いや待てよ、あるいは……今は星森歴何年だ?」

「星森歴? 共通歴なら、1240年だけど」

「ちょっと待て……いったいどれだけの時が経った? この文字は読めるか?」

「読める。もしかして、S.Rって名前で氷の宮殿に書き置きを残さなかった?」

「炎星宮か。その書き置きは我が残したもので間違いない」

「やっぱりか」


 スカイ・ルーラー、S.R。大空の支配者。

 ついでに言えば絶世の美女。


 オットーの頭の中に引っかかっていた情報が、ぼろっと引き出されてきた。

 彼は夢の中で起きた出来事を思い出す。


(空島には彼女の拠点がある、って言ってたけど、まさか)


「あの。あなたが〈大空の支配者〉っていう才能(タレント)の始祖ですか?」

「ん。いかにも我が始祖である」

「え!? こいつがー!? 嘘でしょ!?」

「黙れ小娘。話せ、少年」

「だまらないもーん!」

「ちょっと、話がややこしくなるからさ……」


 オットーに諭され、レファが頬を膨らませて黙った。


「えっと……夢の中で、美女の姿をしたあなたと話したことがあるんです。魂の欠片がどうとかいう理屈で」

「才能というものが魂の欠片である以上、相性によっては欠片が目覚めることもある。当然であろう」

「……けど、だいぶ性格とか喋り方が違う気がするんですが」

「それもまた当然であろうに」


 猫が水槽の操作盤に飛び乗った。


「欠片が目覚めるという現象は、才能(タレント)と所有者の相性が悪いことで発生するのだ。相性が良ければ人間と才能(タレント)は溶け合い、一つのものになる」

「相性が悪い?」

「そうだ。お前に引きずられて、我が魂の欠片も性格が歪んだのだろう」

「……えっと。アイテラさん、魔法を使わずに空を飛ぶ方法に興味は?」

「何だそれは。くだらん」


 アイテラはまったく興味を示さない。

 やはり、オットーの夢に出てきた〈大空の支配者〉とは違うようだ。


「……ふむ。大分、才能(タレント)への知見が薄れているようだ。欠片が目覚める現象の存在も伝わっていないとなると……ずいぶん、血が薄まったようだ」

「血が?」

「そうだ。ハイエルフの血がな。ならば、我らが空を取り戻す必要もない、か」

「あの、勝手に納得されても困るんですけど……」

「気にするな。お前達がこの島に来れている時点で、本来なら我々が立ち向かうべきだった脅威は消えているということだ。ならば、説明などいるまい」


(確かに。”大空を取り戻す”べき相手なんて、別にどこにも居ないよな)


 オットーは納得した。

 まったく事情のわからない話だけに、まだ存在している可能性はあるが……。


「まったく、眠り損だ。人の身に戻るのも一苦労だというのに……我は陽にでも当たってくるとしよう。何をやる必要もなさそうだ」


 アイテラがしなやかに制御盤から飛び降りた。


「ここにあるものは煮るなり焼くなり好きに使え。どうせ敵も居ないのだ。現代の低レベルな魔法使いが使いこなせるかは知らんがな」


 猫が暗い地下洞窟を歩いていった。


「……何だったの、あれ?」

「さあ。気になるなら、君が直接聞けば?」

「やだよあんな偉そうな猫に付き合うの。それより、好きに使えって許可も貰ったしさ! ちゃんと整頓して、高く売れそうなやつ売りに行こうよ!」

「できれば、売るよりここに残して機体の研究開発に使いたいんだけど」

「開発? ここで?」


 レファが疑問符をつけて聞き返した。


「……あのさ、レファ。僕の機体を作ってるの、誰だと思ってるの?」

「え? どっかの街の職人じゃないの?」

「僕だよ! ぼ! く!」

「うっっっそおおおおお!?」


 レファが飛び上がった。


「ええええ!? なんか頭いいなーとは思ってたけど! そんなこと出来るぐらいすごかったの君って!?」

「僕じゃなきゃ誰があんなの作るんだよ!」

「言われてみれば……でも、えー!? そうだったんだ……!」


 レファが僕を見つめる視線に、だいぶ敬意が籠もっている。

 悪い気分ではないな、と彼は思った。


「今乗ってるやつも、自分で作ったの!?」

「当然」

「うわー! 前の機体でも格闘戦して互角だったのに! 新機体なんか作られたら、私が負けちゃうじゃん! 特訓しなきゃ!」


 レファが早歩きで部屋から出たあと、すぐに戻ってきた。


「そうだ! 私にもなんか機体を作ってよ! あれで飛ぶのも面白そうだし!」

「ああ……そういう話なら、使ってない小型のグライダーがあるんだけど」

「くれるの!? やったー!」

「あげないけど。素材の整理が終わったあとで、飛び方を教えてあげるよ」

「飛び方ぐらい知ってるしー。よーし、二人でちゃちゃっと整理しよっ!」



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